第28話 我が悲願が達成される……!!

《ジェラルド・ネルガリアside》


 トントントントントントントン……。


 執務室内で軽い音が響き渡る。

 ネルソン帝国皇帝ジェラルドが、指でデスクを叩いているからだ。


 今なおファフニールに乗れる聖女の召喚魔法が実行されているも、それにかなりの時間が掛かっているらしい。

 故に待ちぼうけになっている彼の頭は今、多大なストレスでいっぱいである。


(無能共が……! ユア以上の魔力を持つ女性も見つけられないとは、役立たずが……!!)


 次第に待ちきれなくなり、催促しに立ち上がるジェラルド。

 すると同時に扉が開き、その聖女召喚を行っていた魔術師の1人が入ってきたのだ。


「ジェラルド様!! ご報告です!!」


「何だ急に……まさか聖女を召喚できませんと言うまいな?」


「い、いえその逆でして……出来たのです!! 遂に、ファフニールを動かせれるであろう聖女を召喚できたのです!!」


「何……!?」


 その言葉を聞いて、ジェラルドは魔術師を押しのけて部屋を出た。


 遂に念願の聖女が見つかった。

 それだけでジェラルドから苛立ちが消え、興奮と期待が支配してくる。


「ジェラルド殿下!!」


 召喚の場に辿り着くと、召喚魔術師数人とその中央にうずくまくる人影が見える。

 ジェラルドが目を凝らしてみると、ユアと同年代だろう少女だという事が分かった。


「ご覧ください! ユア・シャクシロに匹敵する聖女の召喚に成功いたしました!!」


「魔力も我々よりもはるかに高い! ファフニールを動かすには申し分ないかと!!」


「ふむ……」


 少女は長い黒髪をウェーブに仕上げており、かつその小顔は「美貌」と形容するほどに麗しい。

 ジェラルドからすれば、何かとリアクションの大きかったユアよりも魅力的に思えた。


「可憐だな……いやそれよりも、彼女をファフニールに乗せたのか?」


「はっ……あっいえ、まだ試してはおらず……」


「…………」


 ついこの場で「試してから自分を呼べ」と激高しそうになったが、自分達の聖女になるであろう少女の手前。

 ジェラルドはそういう衝動が出るのを堪えた。


 落ち着かせる為に一呼吸入れてから、キョロキョロと見回す聖女候補へと腰を屈める。


「突然の事で申し訳ない。私はネルソン帝国の皇帝ジェラルド・ネルガリア。あなたのお名前は?」


「……か、奏多絵美かなたえみ……です」


「エミさんですね、美しい名前だ。歩きながら事情を説明しますので、どうかこちらへ」


「……は、はい……」


 未だ戸惑っている絵美の手を取って、ファフニールが鎮座する倉庫へと向かいだす。


 その間、ジェラルドは彼女に事情を説明した。

 聖女はファフニールという神々が作り出した鋼の巨人を操れる事。そのファフニールに乗る聖女は国をも動かす影響力がある事。そしてその力でネルソン帝国を救ってほしい事。


 もちろん、その力で他国を吸収する云々は告げていないし告げるつもりもない。

 そのような事をすれば、絵美が協力を拒否するのは言うまでもないのだから。


「そうなん……ですね……。あの……元の世界には……」


「誠に残念ですが、こちらに召喚する事は出来ても送り返すのは出来ないのです。無理にすれば、未知の世界に転移するという恐れもありまして」


「……そうなんですか……じゃあ……」


 何を考えているのかはジェラルドでも分かっている。

 大方、元の世界の家族や友人の事だろう。


 いきなり未知の異世界に放り込まれて、しかも二度と帰れないと来た。

 混乱や孤独感に苛まれるのも致し方がないはずだ。


 もっとも、ジェラルドからすればどうでもいい事であるが。


 彼にとって大事なのは、彼女がファフニールを動かせるかどうかだけ。

 そのファフニールの元に到着してから試運転をさせた時、驚くべき光景が彼の目に映った。


「おお……!」


 広大な倉庫の中、目まぐるしく動き出すファフニールがそこにあったのだ。

 ジャンプしながらの宙返り、壁や天井を蹴っての三角飛び……いずれも巨大兵器とは思えない柔軟かつアグレッシブな動きである。


(ついに……ついに適合する聖女を見つけ出した!! これで……我が悲願が達成される……!!)


 やっとファフニールに乗れる聖女が見つけられ、内心感激をするジェラルド。

 そのファフニールから絵美が降りるなり、彼は居ても立っても居られずに駆け寄った。


「大丈夫ですか? 具合は?」


「えっと……何とか……」


「それは何より。……それとあなたの事情を知らずにこちらの世界に召喚した事、誠に申し訳ない。国を救ってほしいという想いが優先するあまり、あなたを無下にしていた所もあった。これでは皇帝失格だ……」


「い、いえ……そんな……」


 謙遜する絵美の姿を見て、内心ほくそ笑むジェラルド。


 この娘は押されるのに弱いと。

 それを畳みかける為わざと彼女の前で跪き、華奢で綺麗な手を取った。


「なのでお約束します。エミ・カナタさん……あなたの事は必ずやお守りいたす事を。あなたは我々の友……いや家族も当然。だからどうか……我らと共に歩ませてもらえないだろうか……?」


「…………」


 絵美はしばし黙った後、わずかにだが小さく頷いた。

 それを見逃さなかったジェラルドは、早速次の手段に出る事に。


「私は仕事があるので、あなたに付きっきりという訳にはいきません。なのでお付きの人間を用意させていただきます」

 

「お付き……?」


「そうです」


 ジェラルドが指を2回鳴らせば、すぐにその人物が現れる。


 ネルソン帝国の国章を胸に付けた、ジェラルドとほぼ同じ年代の男性。

 ジェラルド自身でも認めるくらいに美しく、青い髪はまるで夜空を思わせる。


「ネルソン帝国の宰相さいしょうであり、私の側近――ケイン・モーガン。この世界の事について、彼が教えて下さるでしょう」


「よろしくお願いいたします。聖女エミ・カナタ様」


「…………」


 会釈をするケインと呆ける絵美の傍ら、ジェラルドはひっそりと口角を上げた。

 これでやっと、ファフニールによる帝国拡大が始まる……。

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