夜の帷で猫が鳴く

ふぃふてぃ

第1話 ブラックキャット

 師走に闇が訪れる。夜のとばりより、底深い深淵なる闇夜の訪れが告げられる。


 小さな駅を降りると繁華街が広がる。その喧騒をしばらくして、抜けるとやや勾配のある坂道が続く。

 その通りの大きな一本道を先へ先へと進むと、今度は閑静な住宅街が広がっていた。


 閑静な住宅街にも夜は訪れる。街灯の薄明かりを師走の風が抜ける。身震いするような冷たく、痛い、渇いた冬の風。


 所狭しと立ち並ぶ注文住宅の列挙。そぞろ部屋の明かりはマチマチ。

 明かりのついた窓辺もあれば、しんと眠った家もある。夜の帷の中、町も眠りに落ち着く。そんな薄暗い時間だった。


 住宅街にポツンと存在する公園がある。遊具は一つだけ。ブランコが一つだけ。寂しげ悲しげ、それでいて何処か優雅に揺れる。


 キーコー、キーコー、キーコー


 金属の擦れる音は絶え間なく。風に揺さぶられたブランコが、悲壮に奏でる冷たい音。

 それは鳴き声のように、ポタリ、ポツリと雨のように降っては消えていく。


 どこから現れたのか。黒猫がひらりと身を翻し、ブランコに飛び乗る。すると遊具の揺れはピタっと収まった。


 背を伸ばしブランコに座る黒猫は、艶やかな漆黒の毛並みを有し、何処となく凛とした顔立ちをしている。


 黒猫はクンクンと鼻を鳴らし「にゃあ」と鳴くと、その鳴き声は、遠くから聞こえる電車の音と混じり合い、溶けて消えた。


 しばらくして、猫の居なくなったブランコがキーコー、キーコーと再び鳴き出していた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る