作戦開始

「ところでどうして君がここにいるんだい?」

 螢は横で待機している百合佳に問いかけた。

「アンタに何か関係あるわけ?」

 棘のある返答に螢はお道化て肩をすくませた。

「単なる興味だよ」」

 そう言いながら螢は百合佳の顔を下から覗き込んだ。

 百合佳は螢のサングラスの下に隠れた眼に心を見透かされているような気になり顔を背けた。

「表では島一番の名士。裏では多数派のトップ。そんな家に生まれ有望視されているであろう娘が、どうして真反対の立場の少数派に組して祭りの妨害までしているんだい?」

 螢は回り込み百合佳の顔を覗き込んだ。

 二度三度顔を背けても覗き込んでくる螢に百合佳は我慢できなくなり苛立たしく答えた。

「狂信的な名士の家に生まれながら、神から一切恩寵を得られない娘がどう扱われたと思う?」

 彼女の顔には情けない自嘲が張り付いている。

「他の兄弟は少ないながらも恩寵に預かったわ。ずっと比較されながら育ったの。でも、皆不幸があっていなくなった。残ったのは箸にも掛からないあたしだけ。英人に宛がわれたのだってより血が濃い方がいいからってだけ!それなのにあの糞親父、島中の娘に英人の子を産むように訴えて、結局自分の血を引いていれば誰でもいいのよ!!」

「それは歪むねぇ」

 螢の心ない合いの手に百合佳は力一杯拳で壁を叩いた。

「歪んで何が悪いのよっ!そもそもこんな辺鄙な島で歪んでない奴なんて一人もいないわっ!!」

 地雷を踏んでしまったのか、何と言っていいかわからない反応に螢はポリポリと頬を掻く。

「それよりアンタ。なんでさっき渋ったのよ。怪異退治がアンタの仕事でしょ!?」

 吹っ切れた百合佳に躊躇や遠慮という物はなかった。

 無遠慮に何も気にしない大胆な問いに、螢もあけすけに答える。

「どうせ働くにしても報酬は高い方がいいだろ?」

「この島に大金や価値のある物なんてないわよ?」

 何を期待しているのかと馬鹿にするように百合佳は笑ったが螢も笑顔で返した。

「僕の職場は新人の定着率が低く万年人手不足でね。不死身の同僚は何人だって欲しいのさ」

「肉壁が欲しけりゃあの誇大妄想癖のキ印集団を生かしたまま捕まえなさい。生きて帰れたら好きなだけ持って帰っていいわよ?」

 片方の口端を二っと持ち上げ皮肉を言う百合佳に螢もニヤリ笑った。

「勿論プロだからね。自分の命もモルモットも新たな同僚も全部持って帰るさ」

 ブブッ ブブッ ブブッ

 螢がそう言うと懐の衛星電話が数度震えた。

「こちらイング0」

「こちらアンスール0回収作業完了の報告を得た。これより攻撃を開始する」

 盗み聞きをしていた百合佳は螢と顔を見合わせ目くばせをした。

「イング0了解」

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