流通LADIES

ハミル

第1話 ミル

遠州灘から吹く潮風を体一杯に受け留める

月明かり照らす砂丘を見渡して宙を見上げた

南の宙にペテルギウスを発見してオリオン座を擦る

こいぬ座のプロキオンを人差し指で捉えた

おおいぬ座を探した

星空の宙で最も輝く光を放つシリウスを見つけるのは容易かった

冬の大三角形のラインを脳内で描いて両手で形取る

形を崩してあの形にしてニコ


ふたご座は意図して探さない

ルミには頼らないで1人で強くなる

どうしても苦しい時だけ双子座に助けを求めて私は1人ではないことをしっかりと確認する

'再び呼吸をする時は 君と一緒に'


振り返って車に乗り込んだ

舘山寺温泉で旅館を営む実家に向かって車を走らせる

いつもの通り車内でBUMPを絶叫した

私なりの仕事ストレス解消法だ


星の鳥からメーデーに曲が切り替わる

腹が千切れるほどにフレーズを叫んだ

'再び呼吸をする時は 君と一緒に'


May Day 労働者の祭典


赤が目に入りブレーキペダルを踏み込みテールランプ、姉の姿が眼球の裏に浮かび上がった


留美

美流


双子の姉ルミは東京で元気に暮らしているだろうか

私の元気はホトホトだ


私は都内の大学を卒業して地元に戻り食品問屋に就職した

大学では文学部で日本文学を学んだ

双子の姉のミルは地元の大学に進学して、東京で即席麺の製造・販売を主とする企業に就職をした


不思議なものだと思った

私は食品卸でルミの会社の商品を取り扱っている

高校を卒業してから行き違いの道を進んで来たのに、

その袋麺の包装を見る度に幼いルミが小さな口を大きく広げてラーメンを啜る姿が浮かんでしまう

ルミの会社のカップ麺を見ると、あれ、何も浮かばない

ルミの会社が販売するカップ麺をルミが食べている姿を見たことがないからだ

ルミが好きだったカップ麺はあの縦型とどんぶり型の和風


そんなことを想っていたら気が緩んでクリープ現象で車体が前進する

ブレーキを踏み直すと同時に青が見えて、そのペダルを緩めて小さく再出発した


ルミとミル

うちの親も安直だなあ

本当に幼い頃は、この名前が好きだった

2人合わせてルミルなんて呼ばれたりすると嬉しかった

私もルミも私達はルミルだ!なんて、


物心がつくと恥ずかしさが上回る

高校を卒業するまでは、単体の名前が嫌な訳ではなく、逃げ場のないコンビ感に抵抗を感じた

離れて暮らすとまた、悪くないかな、なんて

人間は都合良くできているものだな、なんて物思いに耽る


同じ食品業界に辿り着いた

メーカーの姉と問屋の妹

回り回ってルミと私が商談したりすることがあったりするのだろうか

一卵性の私たちは瓜二つだから、回りから見たら妙な光景だろうな


そろそろ家に着く

中田島砂丘から舘山寺温泉

約30分程度のドライブが終わってしまう

もう少し辺りを流そうか

この夜道のドライブが私の癒しだった


帰ろう

明日は年明けに新規OPENするスーパーハミマツ店に顔を出さないといけない


たまにはバスタブではなく温泉に浸かろうか

やめよう

芯から温まってしまえば心が溺れるかもしれない

私は女将にはならない


MAYDAY 救難信号

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