目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫

第一章 異世界に続く穴に入っちゃった!

◇1 レミリアゼルド


「いつこちらの世界に来たのかは分かりませんが、発見して30分後くらいから熱が出ていて、中々下がってくれなくて……」



 意識が少しだけ浮上すると、そんな声が耳に入ってきた。


 聞き覚えのない、女性の声だ。



「こちらに来た反動というものなのでしょうか」


「いえ、今までの異世界人・・・・ではそのような事はなかったようです」



 もう一人、男性の声も聞こえてくる。



「彼女の場合、見たところ何かの病を抱えていると思われます。ですが、どんな病なのかまでは……」



 よく分からない言葉ばかりだし、途切れ途切れに聞こえる。


 誰、だろう……



「神官様がご到着されましたっ!!」


「神官様っ!」



 それよりも、体が熱くて、瞼が重くて、だるくて、息苦しくて……


 この感覚は、よく知ってる。



「そうですね……病が分からない以上、熱が治まるまで神聖力を施す事になるでしょう。ですが、これはあくまでその場しのぎという事になってしまいます」


「そう、ですか……」



 何となくで会話を聞いていると、おでこに冷たいものが当てられた感覚がした。それから、少しずつだけど熱かった体の熱の温度が下がっていっている感覚がする。息苦しさも少しだけど治まってきている感じがする。


 けれど、次第に意識が重くなり、沈んでいってしまった。




「目が覚めた……!?」



 意識が浮上し、重たい瞼を少しだけ上げると、聞き覚えのない声が、耳に入ってきた。



「私の声、聞こえるかしら? 気分はどう?」



 視界に、二人の女性が入っている事に気が付いた。見覚えのない服を着た、知らない女性達がそこにいた。



「お医者様を!」


「はいっ!」



 慌ただしい声がする。



「気分はどうかしら? 頭痛とか、腹痛とか……」



 右手が温かい。握られてる、のかな。この人に。とっても、温かい。頬に添えられた手も。



「よかった……ずっと目が覚めなかったから……今お医者様が来るわ。だから安心してちょうだい」



 そんな女性の声に驚きつつも頷いた。


 誰、なんだろう。ピンクの綺麗な髪をした女性なんて、初めて見た。とても美人だ。


 知らない天井、嗅いだことのない匂い、触れたことのないふわふわと肌触りのいいお布団。


 私が眠っていたはずの病室とは、全然違う。


 ここ、どこなんだろう……?



「こ、こは?」


「ここはね、レミリアゼルドという星なの」



 まだ手を握ってくれている女性が答えてくれた。レミリアゼルド、星……星? じゃあ、地球とは、違うの?



「ここはね、私の屋敷なの。倒れていた貴方を見つけて保護したのよ」


「ほ、保護……」



 私、倒れてたの? 病室じゃないの?


 地球じゃない、違う星で、私、倒れてたの……?



「私はメルティアナ・アドマンスよ。貴方の名前を、教えてほしいわ」


「奥村、菖です」


「もしかして、アヤメ、が名前かしら?」


「は、はい」



 外国の方って名前とファミリーネームが逆だから、この人もその通りなんだろうけれど……どうして分かったんだろう。オクムラ、よりアヤメ、の方が名前っぽいから、かな?


 彼女は、説明してくれた。ここは異世界で、私は偶然二つの星が繋がった穴からこっちに来てしまったという事。


 その穴がちょうどこのお屋敷の敷地内に繋がったため保護されたらしい。


 ここと、私のいた病室が偶然繋がっちゃったって事?


 そして、もう一つ教えてくれた事実。



「ママに、会えない、の……?」



 地球には、戻れないという事。


 その事実を聞いたら、ぽた……ぽた……と私の瞳から、涙の粒が頬を伝い布団を汚してしまっていた。


 もう、会えない……


 病弱で入院していた私の為に、何でもしてくれたママに、もう会えない。


 私がいなくなって、ママはどんな顔をしただろうか。


 こんな事になるんだったら、せめて最後に、ありがとうとか、言いたかった。


 それと同時に、どうしたらいいのか分からなくなった。この身一つでこっちに来てしまったから、いつも飲んでいる薬もないし、私の事をよく知る先生もいない。医療技術もどうなっているのか分からないし……



 ――私、死んじゃうのかな。



 そう、悟ってしまった。


 そんな時……ふわり、と暖かいものが私を包んだ。



「大丈夫、私もいるわ。だから、大丈夫よ」


「……」



 彼女が、抱きしめてくれた。


 ぽんぽん、と背中を撫でてくれる。


 涙が止まらない。


 まるで、どんどん不安な心が外に流れていくように。心が晴れやかになっていく。



「……ありがとう、ございます」


「えぇ、慣れるのに時間がかかるかもしれないけど、私達に出来ることがあったら何でも言ってちょうだい」



 周りにも優しい者達がいるから安心して。そう言ってくれた。顔を少し上げると、周りにいた女性達は、私に笑顔を向けてくれた。


 ……歓迎、してくれてるのかな?



 それから、男性が入ってきた。70代くらいかな。こんにちは、と挨拶する人は、呼んでくださったこの国のお医者さんだそうだ。シモン先生というらしい。


 問診などを受け、何かを考える様子を見せるお医者さん。



「少し難しいですが……やってみましょう」


「治るのね……!」


「まだ確定は出来ませんが、薬を調合して様子を診ましょう」



 だいぶ驚いてしまって声も出なかった。無理、と言われると思っていたから。私はこちらとは違う人間だ。もしかしたら全く知らない病気なのでは? と思っていたのに、治るかもしれないという光が見えた。


 嘘、じゃ、ない……?



「……えっ」



 そんな時、私の目の前が光り出した。金色の光を放ち、粒粒の塊と一緒に……小さな生物が3匹現れた。


 私の目の前に、ふよふよと浮かんでいる。これ、なんだろう……羽の生えた、小さな小人のような……



「えっ!?」


「あ、の……」


「よっ妖精!?」



 え、よ、妖精……!? 妖精って言ったら、ファ、ファンタジーでよく出てくる生物、だよね? 小人みたいな、羽の生えた、お人形みたいな……うん、何となく、私の知ってる妖精みたい……かな?


 初めて見たから、信じられない。で、でも、目の前にいるわけだし……


 妖精さん達は、何かを持っていた。綺麗な白いお花がついた植物で作られた、小さな花束を渡してくれた。



「あ、りがとう……?」



 これ、貰っちゃっていいんだよ、ね? 何だろう、これ。でも、とっても綺麗。小さな花がいくつも付いてる。鈴蘭、みたいだけど、ちょっと違う?


 とってもいい匂いがする。



「それっ!! トルトリカ草じゃないか!!」



 トル、トルトリカ、草? お医者さんがこんなに驚いてるのだから、薬草か何かかな? でも、どんな薬草なんだろう?



「し、失礼しました。つい……それは、妖精の国に生息しているとされる薬草です。幻の薬草だと言われているのですが……まさか、ここでお目にかかれるとは……」


「幻、ですか……」


「アヤメちゃんの病気を治す薬に使えるの?」


「それは勿論! 古い文献に使用方法が記載されていますから、その通りにすれば、確実に良くなる事でしょう」



 耳を、疑ってしまった。


 目の前には、ニコニコと笑顔を見せる妖精さん達。私のために、持ってきてくれた、って事かな?



「あ……ありが、とう、妖精さん……」



 その言葉に、にっこりと微笑み、私の頬にキスをしてから光を放つ。


 消えてしまう。そう思った時には、焦りつつも声をかけていた。



「ママに伝えて! 私は大丈夫って! お願いっ!」



 そんな私に、笑顔で頷きつつも消えていってしまった。


 よ、よかった……ママに、伝えてくれるんだ……ありがとう、妖精さん。

 

 ……治るんだ。


 私の病気が、治るんだ。



「あっあのっ! 私、医療費とか持ってなくて……」


「そんなことは気にしないで。アヤメちゃんは病気を治すことに専念して」


「私も、最善を尽くしますよ」



 医療費、出してくれるんだ……支援、とか? それは、嬉しいな……



「ありがとうございます」


「えぇ。早く元気な姿を見せてちょうだいね」



 ど、どうしよう……嬉しいんだけど、何となく、現実味がないというか、何と言うか……


 ……ママ、ママ、私、治るんだって。やってみないと分からないみたいだけれど……


 でも、きっと、これを聞いたら喜んでくれたと、思う。


 じゃあ、私は、どうしたらいいんだろう……?



「あの、アドマンスさん……」


「メルティアナ、でいいわ。ティア、でもいいわよ」


「ティアさん……あの、お世話になってしまって……」


「いいのよ、ここは自分の家だと思ってね」



 そんな事、言ってくれるんだ……


 拾ってくれたみたいだけれど、とっても、優しい人に拾ってもらえてよかった。


 もしかしたら、そのまま誰にも見つけてもらえず死んでいたかもしれない。そう考えると、私はとても幸運だったんだ。



「これからよろしくね、アヤメちゃん」


「は、はい。よろしく、お願いします」



 何か、恩返し出来る事、考えなきゃ。




 と、思っていたら。夜また熱を出してしまった。


 いつも飲んでいる薬がないんだから、当然だよね。



「アヤメちゃん……アヤメちゃん……」



 そう、手を握ってくれるメルティアナさん。汗を拭ってくれるメイドさん。おでこに乗せている濡れタオルを何度も替えてくれる。


 少しして、誰かが入ってきた。さっきのシモン先生かな、と思っていたら違う人だった。長い銀髪の男性。



「30分くらい前から熱が出ていて、中々下がってくれなくて……」



 そう話しているメルティアナさんと、神官様と呼ばれる男性。すると、おでこに彼の冷たい手が当てられる。これは、覚えがある。


 それから、少しずつだけど熱いのが下がっていっている感覚がする。息苦しさも少しだけど治まってきている感じがする。


 メルティアナさんと神官様の会話を何となく聞いていたところでだんだん眠くなってきてしまい。



「……アヤメちゃん? アヤメちゃん!」



 だんだん瞼が重くなってきて、意識が下に落ちていった感覚がした。


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