不死鳥~あの時、僕の一言が無ければ~

味噌村 幸太郎

第1話 知らなくてよかった。


 1997年、7月。

 

 中学3年生だった僕は、福岡県の繫華街。中洲を歩いていた。

 15歳の僕が歩く場所ではない……。

 ちょっとでも一本、道を間違えたらバニーガールのお姉さんたちが立っている。


 この場所へ来るときは、キャッチとかも多いし、色々と怖い人がいると聞いているから。

 暗くなるとビクビクして歩くものだ。

 しかし、今夜は違う。


 なぜならずっと待ちに待ったアニメの映画の封切り日だったからだ。

 社会的なブームを巻き起こした、あのアニメ。

 『新世紀エヴ●ンゲリオン』の旧劇場版。

 

 その最後がようやく発表されたのだ。

 劇場から出てくると、僕は背伸びをしながら余韻に浸る。


「うわぁ~ 楽しかったな~」


 中学校が終わってすぐに見に行ったから、尚のこと楽しい。

 学ラン姿のまま、中洲へ来るほど待ち遠しかった。


 

 劇場版で完結したとはいえ、僕の中で作品に対する情熱が冷めることはなかった。

 むしろ色んなグッズを買い漁っては、新しい発見を楽しんでいた。

 

 特に当時のゲームソフトは、色んなハードで発売していたので。

 『スーパーロ●ット大戦』に、例の初号機が参戦すると聞いただけで、セガ・サ●ーンを購入した。


 深夜に徘徊癖があった僕へ親から、PHSという携帯電話を持たされたのだが。

 録音機能があったので、ヒロインの声を着信音に設定していた。


 人通りの多い博多駅で、誰かと待ち合わせしていると。


『これが涙? 泣いてるのは私……』


 と僕が気がつくまで、数分間も爆音で流れるのだ。

 よく白い目で見られていた。

 それでも、中学生の僕にはヒロインの声が聞こえてくるだけで、満足だった。

 一人じゃないと、いつも安心させてくれるのだ。

 

 ~一か月後~


 お盆休みに入り、母方の祖父が遊びに来た。

 みんなで夜ご飯を外へ食べに行ったり、カラオケを歌って楽しんだ。

 その帰りに本屋へ寄って、新刊コーナーを見ていると。

 おじいちゃんが言った。


「幸太郎ちゃん、欲しいのあったら、どれか買ってあげるよ」

「え、ほんと?」


 僕はその一言が嬉しくて、さっそく新刊コーナーを物色する。

 すると、一冊のコミックが目に入った。

 

 例の作品……のアンソロジーコミック?

 見た感じ、4コマのギャグだろうか。

 でも結構高い。


 ためらっていると、おじいちゃんが声をかけてきた。


「幸太郎ちゃん、それが欲しいの?」

「あ、うん……でもちょっと高いよ」

「いいよ。なかなか会えないし」

「ありがとう、おじいちゃん」


 ここまでは、祖父と孫の良いエピソードだ。

 まさか、これが悲劇の始まりになるとは、思いもしなかった……。

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