04 "ダイケンジャ"(前編)
* * * * *
…………あー……ジジィの茶淹れてる間、この世界に来たばっかりの頃のこと思い出してたわー……。
マジでこの世界に来て一番きつかった時期だからなー……黒歴史というか、半ばトラウマになってるというか……。
……まぁ、あのころのあれやこれやがあったからこそ、今の俺があるのも確かなんだよな……。
そう考えたら、ただ暇を持て余して時間を無駄に過ごすっていうのも、色々な人に悪いか。
ジジィはともかく、色々面倒見てくれているノンさんや親っさんたちに恩返すためにも、もっとがんばらないといけないのかもしれない。
で、ジジィだけでなくノンさんと俺の分も茶を淹れ、事務所内は今まったりムードだ。
「……むーん……」
そんなまったりムードの中、俺は一人唸りながらスキルの『特訓』をやっている。
机の上にあるのは前の時の土の塊とは異なり、幾つもの小さな鉄の輪だ。
これで何を作るかというと――これらの鉄の輪を繋げて『鎖』を作ろるつもりだ。
俺のスキルの内容について、おさらいをしておこう。
まずは、対象の物質の材料や作り方を調べる『
『解析』した内容を元に、複数の材料を組み合わせて新しいものを作り出す『
『合成』可能なものであれば、材料の続く限り何度でも繰り返せる『
同じく『解析』済みや『合成』した物質を自在に動かすことができる『
最後に、スキルの効果対象の物質の形を変えることができる『
今のところこの5種類の使い分けができる。
……もしかしたら、この先にスキルが『進化』するという可能性もあるかも?
ただ、これについてはジジィ曰く『期待するな』と言われている。
「まずは、鉄の輪を『変化』させて――」
俺のスキルは、自分で言うのもアレだが、割と出鱈目な効果だと思う。
この世に存在するものであり、かつ現物さえあれば『失われた伝説の金属』だろうが作り方がわかってしまうし、材料があれば複雑な工程も大がかりな道具も必要なしに簡単に作れてしまう。
普通に工事したら何ヶ月もかかるであろう砦の建設だって、俺のスキルを使えば建築材料制作に数日。実際の組み立ては一晩でやれてしまうのだから、出鱈目具合はわかりやすいだろう。
ただし、
作れるものには割と制限があるのだ。
例えば、スキルを使って『剣』を作ることはできない。
刃と柄が一体化しているようなタイプの剣であっても、だ。
『鉄』さえあれば『鉄の剣』は作れる――が、あくまでも出来るのは『形だけ』であり、刃部分の切れ味なんかはナマクラにしか作れない。
これがスキルの欠点の1つ。『あくまでも「形」を変えたりすることはできるが、性質は変えられない』というものだ。
剣の譬えであれば、物を切れるような刃にするには単に鉄の形を変えるだけではダメなので、『合成』『変化』を使っても対応できないということになる。同様に、刃の研ぎ直しなんかも俺のスキルではできない。
他にも『複数の素材を組み合わせた物』は作れない。
『合成』で出来るのは、モルニック砦の材料となった煉瓦のように、『複数の素材から新しい素材を作る』ことだ。
例えば『槍』みたいに、穂先が金属・柄が木製のような構造でできている物は、スキルの対象外となってしまう――やるならば、穂先と柄をそれぞれ別々に作って、後から手作業でくっつけていくことになるだろう。
まだまだある。
扱える素材にも色々と制限があるみたいだ――これに関してはまだ調査中なところが多い。
土や石、金属なんかは問題なく扱える。
木材は、伐採した木であれば扱えるが、そのまま生えている木はスキルの対象外となる。
他に、動物の毛や皮なんかは完全に対象外であり、『液体』も扱えたり扱えなかったりとよくわからないことが多い……。
『形』を変えることはできるが、細かい変形はかなり苦手だ。
直方体、円柱、円錐、球なんかは特に問題ないのだが、三角錐だったりもっと複雑な形への変形は難しい。
これは俺自身がスキルに慣れていないせいもある……と親っさんやジジィは言っていた。
基本的に俺が目で見て頭で思い浮かべた形にすることができるだけなので、俺の中でしっかりとイメージとか寸法が固まっていないと上手くいかないという理屈だ。
ヴィーナス像みたいな有名な彫刻作品をスキルを使って量産する、とかは今のところできない。
……あれだな。『絵を描く』のと似ている。
頭の中で描きたいイメージはあるのに、実際に手を動かすと全然違うものになっちゃう感じだ。
だから、これについては絵と同じように俺自身が経験を積んでいけば多少はマシになる……はず。
そして、当然のことながら『無』から物を作り出すことはできない。
絶対に『材料』が必要となっている。まぁこれは当然っちゃ当然だな。
『合成』についてはちょっとだけ注意しなければならないことがある。
それは、
モルニック砦の煉瓦を再び2種類の土に戻すことはできないということである。これも当然と言えば当然。
コーヒーに混ぜたミルクを取り出すことはできないのと同じ理屈だな。
早々これが問題になることはない、とは思うが……この世に二つとない貴重な素材なんかを扱う時には慎重にならないとダメだろう。その辺は親っさんとかが近くにいてくれれば安心ではある。
「……ぬぅ……むずい……」
最後に、さっきの『槍』の譬えにも少し関わってきている欠点でもあるが――
例えば……今まさに俺がやっていることなのだが、『鎖』を作ることは現状では難しい。
鎖と言えば、鉄の輪っかを幾つも繋いで作るものなのは常識だろう。
これを俺のスキルで作ろうとすると、輪っかがくっついた状態の、鎖というよりぼこぼこと穴の開いた『棒』になってしまう。
要するに、同じ鉄を使って輪っかを幾つも作ってそれをちゃんと鎖状にするのは難しいのだ。
どうやらスキル的には『輪っか』の時点で作るものが確定してしまい、『別の輪っか』はスキルの対象外になってしまうようだ。
……まぁこれも俺自身の経験でもしかしたら補えるようになるかもしれない。
が、難易度はちょっと高そうだ。
――というわけで、親っさんが俺に課したのは、『
それが今やっている、鉄の輪っかを変形を使って鎖にするというものだ。
鉄の輪っかを『変形』で一度開き、別の輪っかに噛ませてからもう一度『変形』で輪っかに戻す――という単純作業ではある。
……これが意外に難しい。
輪っかはあえて小さめにしている上に、手を使わずにスキルだけでやっているので、細かいところの調節が難しいのだ。
上手く輪っかを閉じた、と思ったら輪っか同士がくっついてしまっていることが多く、その都度やり直ししなければならない……。
「ふん、まだまだじゃな」
「……るせー、ジジィ」
俺が鎖を繋ぐのに悪戦苦闘している様子を見て、ジジィが絡んでくる。暇人め……。
「ま、その調子で励むが良い。
武術や学問と同じ――
「……わーってるって……」
とはいえ、ジジィは完全に俺をバカにしているわけではないのもわかっている。
こうして地味な練習をさせているのは、他ならぬジジィなのだ。鎖を繋ぐとか、内容を考えてくれたのは親っさんだけどな。
ジジィの言うことはわかる。
俺のスキルは便利だが万能ではない。そして、きっとこの先も万能となることはないだろう。
だが、便利さをどんどんと上げていくことはできるはずだ。
今やってる鎖繋ぎだって、スキルに慣れていけば一発で鎖を作ることができるようになるかもしれない。もしそうなったら、仕事の幅はもっと広がるだろう――建物のほとんどはスキルで組み立てることはできるが、ドアの蝶番とか燭台の設置場所とか、そういう細かいところは俺にはできないので親っさんがやっている状態なのだ。
それに、スキルで『木材』を加工できることを考えれば、細かい変形ができるようになれば『家具』とかも作れるようになるかもしれない。
……建物プラス家具もセット、となればうちの売り上げにも貢献することができるだろう。あるいは、家具のみ販売とかしてもいいだろう。
売上が伸びれば、ノンさんも喜ぶだろうしな。
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