マケクド〜負けヒロインに転生したので、他のヒロインを口説いて百合の花園を創った件

薬味たひち

第1話 銀髪のお嬢様に転生しちゃった!?

 窓から射し込む陽光のシャワーにくすぐられ、俺は寝ぼけ眼を開く。すると絵本でしか見たようなガラスのシャンデリアが視界に飛び込んできた。

 

 ……ここはどこだ?

 視線を左に移すと、ピンク色の可愛らしいクマのぬいぐるみが俺と添い寝している。

 いや、クマだけじゃない。布団と枕はパステルな水色で、しかも天使の羽のみたいに軽くてふわふわ。明らかに、男子高校生には似つかわしくない寝室だった。


 夢、じゃないよな。なんで俺はこんなところに……?

 今度は身体を起こし、周囲をぐるりと見渡す。広さは俺の部屋の3倍はあるだろうか。いたるところに高そうな絵とか、観葉植物とか、変な形のオブジェなんかが置かれている。まさにお嬢様の部屋って感じだ。


 そして窓際に置かれた机はよく整頓されており、ハンガーに掛けられた純白のセーラー服にはしわ一つない。さらにその隣には大きな化粧台――


「キャッ!? 誰ですの!!!!!」


 鏡に映る銀髪の美少女と目が合い、俺はびっくりして声を上げてしまった。それがまるで女の子みたいな声で二重にびっくり。しかも鏡の中の少女も俺の驚いた動きを模倣したので三重にびっくりである。


 お、おお、落ち着け俺。冷静に。

 俺は視線を落とし、自分の身体をじっくりと観察した。着ているのは美味しそうなクリーム色のネグリジェ。可愛らしいフリルに彩られた女性用の寝間着だ。しかも胸の部分が大きく膨らんでいる。

 試しに揉んでみると──


「おぉ、すごい弾力感……」


 これは癖になるぞ――じゃなくて!

 どうして俺に胸があるんだよ! 何が起こってるんだよ! どうなっちまったんだよ俺は!


 ……まてよ。ということはまさか。


「――ない!!!!!!!!!!!!!」



 俺がこの世に生を享けた瞬間から、片時も離れることなく、苦楽を共にしてきた相棒が――どこにも、いないのだ。何度股をまさぐっても、あいつがいた場所はもぬけの殻。

 ……ふと鏡を観ると、胸と股を執拗にいじる少女がいたので、俺は慌てて手を引っ込めた。破廉恥過ぎる。


 どうなってるんだ?

 こんな銀髪碧眼の美少女、俺は知らないぞ。

 俺はどこにでもいる平凡な高2のオタク男子で、名前は……あれ、名前は……なんだっけ。記憶は確実に存在してるのに、どうしても思い出せない。まるでもやがかかっているような。


 ──そして次の瞬間。

 頭に知らない記憶が溢れ出し、俺の記憶を靄ごと塗りつぶしていく。大手外資系に務める両親の顔、才色兼備な2つ下の妹の顔、想い人の誠司くんの顔。

 昨年トップで合格した夢ヶ咲高校の入学試験、先月庭で開いたティーパーティー、そして昨日の体育館裏での……


 数秒前まで存在しなかった記憶が、まるでずっと前から存在していたみたいに、俺の脳に溶け出していた。


 そうだ。

 俺──私の名前は、三之宮あゆみ。


「おねーちゃーん。起きてるーーー???」


 リビングから私を呼ぶ七海の声。


「お、起きていますわー」


 時刻はもう6時半。登校の準備を致しませんと。

 妹の七海は中学校の生徒会長を務めていて、成績も優秀。後輩たちからも慕われていて、噂ではファンクラブまであるようなのです。

 両親は海外出張が多いので、平日はそんなしっかりものの七海と二人で手を取り合って生活しております。エリートな一家過ぎて自分のことなのに妬ましいですわ。


 ……あれ。俺、なんでさっきからお嬢様口調なんだ? 


「ご飯できてるよー」

「はーい。いま行く……ますわー」


 お嬢様口調が抜けない……ですわ。

 もしかして転生に伴い、デフォルトで口癖が設定されてる……? プリキュアの妖精的な?


 というか。そもそもこれは現実なのだろうか。いや、夢だと思わない方がおかしい。

 だけど……夢にしてはあまりにも五感がはっきりし過ぎている。爽やかな朝の日差し、小鳥のさえずり、みそ汁の良い匂い、柔らかな胸の弾力……あらいけない。また無意識に揉んでしまいましたわ。おほほ。


 コホンッ、では夢じゃないとしたら? この身体の持ち主と入れ替わった? あるいは生まれ変わった? もしくは女体化? かつて私だった男子高校生は今も生きている? 既にこの世にはいない? それとも初めから存在しなかった? 実は男だったという記憶はすべて、気が狂った私の妄想……?


 ──改めて鏡を見ると、そこに映った私はまるでヨーロッパのお姫様。 

 エメラルドグリーンの澄んだ瞳。透明感のある肌はつやっぽく、頬はほんのりと赤く染まっていて。肩までまっすぐ伸びた銀髪はきらきらと神々しく輝き、自分の顔にも関わらず、つい目を奪われてしまいますわ。

 状況だけ考えれば間違いなく、根暗男子の悲しき妄想でしょう。


「おねーちゃーん。ご飯冷めるよー」

「は、はーい」

 

 七海に急かされていますし、まずは制服に着替えませんと。寝間着で学校に行くわけにはいきませんし。


 ええっと。最初にこのネグリジェを脱げばいいのですわね……おぉ、胸が大きい。ぷるんと揺れる2つの果実。しかもセクシーな黒いブラから下乳がはみ出ているのもなかなかエッチいですわね……。


 さらに下着を脱ぎ、現れる私の裸体。本当はじっくり観察したいところですけれど、残念ながら時間がないので次の機会にお預けですわ。

 タンスから取り出した肌触りの良いパープルのブラとパンツ、そしてキャミソールとスパッツを身につけたら、いよいよセーラー服。被るように上着を着て、スカートを持ち上げ、リボンを付けたら……完成ですわ!


 着替え方は身体が覚えていましたけど、スカートは下半身が心許ない気がして、なんというか……少し恥ずかしいですわね。

 

 けれども、改めて鏡で見た私は、まさに王道の美少女お嬢様で─―こんな女子が学校にいたら、きっと男性は皆夢中になるのでしょう。間違いなく。


 なんとなく嬉しくなってしまったので、鏡の前でピースしてみたり、悪戯っぽく舌を出してみたり、少し色っぽく女の子座りしてみたり……あぁ、楽しいですわ。

 前世では手も届かなかったような美少女が、いまは私の思うまま。というか私そのもの。嬉しすぎるわ。


「……おねーちゃん。何してんの」

「あっ」


 気がついたら、部屋のドアが開いていて。

 立っていたのは、呆れたように私を見つめる七海。み、見られてしまいましたわ、私の一人ファッションショー。


「じ、自分の身体の確認? ……ですわ」


 苦しい弁明に、七海はジトーッとした視線を私に向けます。

 えぇ、わかっております。わかっておりますとも。さすがに無理がありましたわね、はい。


「……私先行くからね。おねーちゃんもご飯食べなよ」

「う、うん」

「コーヒーも入れといたから」

「豆乳!」


 つい大きな声が出てしまい、七海に怪訝な顔を向けられてしまいました。


「豆乳?」

「え、ええ。コーヒー豆乳が、飲みたいですの」


 僅かに残る前世の記憶では、私のモーニングルーティンがコーヒー豆乳を飲むことで……美少女になっても、これは譲れませんわ。


「コーヒー、豆乳……」


 すると七海はなぜか困惑したように、宙を見上げました。


「七海?」

「ううん、大丈夫。たしか冷蔵庫にあったと思う」

「ありがとうですわ」

「そ、それじゃあ私、学校行くね」


 そうしてガチャンとドアを閉める七海。あぁ、絶対変に思われましたわ

 ……というか、七海はお嬢様口調じゃないのですわね。


─────

 こちらは現在連載中の「ヒロインみーんな彼氏持ち!?なラブコメ」 に登場するライトノベルをイメージして描いた作品になります。

 不定期の更新にはなりますが、合わせて楽しんでいただけると嬉しいです!

https://kakuyomu.jp/works/16818093082811961845


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