19.つるつる

 どちらかと言えば、少数派である女性二人組のペアであった。


「あ、あの人たちはメグ・クロペアだな……」


 ハルが言う。


「知ってるの?」


「いや、同じ学年にいるだろ……」


 そうなのか……?


 まぁ、それはいいとして、二人とも小柄で女性らしく割と可愛らしい色の迷彩服に身を包んでいた。


 一見、カラフルな色はカモフラージュを目的とする迷彩に合わないように思われる。しかし、ハンミョウという昆虫は、虹色のような美しい体色をしているが、特定の条件下で非常に視認しにくくなるらしい。


 そう考えると合理的と言えなくもない。しかし、あの人達がそれを理解した上で、あの服を選択しているのかどうかはわからない。


「警戒してますね」


 セナの言う通り、向こうも……かなり警戒しているようで、身を屈めて、見つかりにくくしつつ、背中同士で向き合いながら、すぐに動ける体制を取っている。


 だが、メグ・クロペアがこちらに気付いている様子はない。


「金髪の方がメグ」


  メグは金髪のショートヘアで、元々なのかカラーコンタクトなのか、はたまた俺の知らないユナイトの装飾機能なのかは、わからないが目が緑色になっている。日本人顔なので外国人ではなさそうだ。


「黒髪の方が黒だな」


 クロは黒髪のショートヘアだ。目の色も黒っぽいが、どちらかと言うとこちらの女性の方が西洋風の鼻が高く彫りの深い顔面をされている。


 それにしても、この状況はユナイトにおいて、かなり有利な状況だ。


 ユナイトは敵より早く相手に気付き、先制攻撃を叩き込むのが主流のゲーム性だからだ。


「さて、どうする?」


「どうするって、決まってんだろ!?」


 俺が確認すると、ハルはキリッとした顔で、確定事項であると豪語する。

 いや、何に決まってるんだ?


 と、俺が思っていたその時であった。


「「きゃぁあああああああ!!」」


「「!?」」


 メグ・クロが突然、悲鳴を上げる。


 二人はなにかつるのようなものに足を捕らえられている。

 そして、逆さまに吊るされているではないか。


「いやぁああ゛あああ゛ああ!!」


 そのつるは二人の身体をまさぐるようにウネウネと動く。


「ちょっ、な、なによ、このスケベつる……!」


 金髪のメグが焦りの表情を浮かべながらそんなことを言う。


 すると、上空から、妙にニタニタした表情の神々しい鳥が舞い降りてくる。


「あ、あれは……! ツルツル!」


 ユシアがそのモンスターの名称を教えてくれる。


「つ、ツルツル……?」


 ハルが聞き返す。


「そうです、つるを使うつるです」


 非常にわかりやすい。


「特に女性の柔らかい肉を好む肉食鳥です」


「いやぁああ、やめてぇえええ!」


 ……ということは、結構、やばい状況じゃねえか。


「グヘェヘ、グヘェヘ」


「い、いやぁあ! そんなとこつつかないでぇ! あ……ん……いやぁ……」


 蔓鶴つるつるはなにやら楽しむように、つるで拘束したメグとクロをつんつんとつついている。

 本当にこいつ鳥か?

 って、俺も悠長に見てる場合じゃないな……


 などと思っていると……、


「兄貴、プロテクト、お願いしますぜ!」


「あー……わかった」


「そんじゃ、行くぜ……!」


 ハルはニヤリとして、そして……、


「うぉおおおおおおおおおおお!!」


 叫びながら、彼女らの元へ突撃していく。


「グヘっ?」


「女の子に卑猥なことしてんじゃねえ! このエロ鳥が! 食らいやがれぇえええええ!!」


「グヘェエエ゛エエエ゛エエ!!」


 ハルは蔓鶴つるつるを殴り、蹴散らす。


 ◇


「あ、どうもこんにちは! こちら、対話を希望しています!」


 蔓鶴つるつるを撃退したハルは、早速、メグとクロに話しかける。


「「……」」


 メグ・クロペアは身構える。


「あ、あなた誰?」


 金髪のメグの方がハルに尋ねる。


「え……? えーと……ハルです」


「ハル……? ユナイトのプレイヤーよね……うちの学校に、こんなに可愛い子がいたら私たち、絶対覚えると思うんだけど……」


「あはは……そうですかね……」


 ハルは頭を搔いている。


「ところで対話ってなに? そう言って、騙し討ちするんじゃないよね?」


 メグが険しい表情で言う。


「……だけど、メグ、あの人、私たちを助けてくれたし……本当かも……」


 黒髪のクロは少し弱気な雰囲気だ。


「……確かに……」


 メグは釈然としないながらも納得せざるを得ないといった様子だ。


「まぁ、話だけでも聞いてくださいな」


「わかった……」


 メグが了承する。


「それでは、まずこちらのメンバーの紹介から……出て来てください」


「あ……? えっ、出るの? 私達……」


「そうみたいですね」


 陰で待機していたユシアとセナ、そして俺がそそくさと出ていく。


「どうも……あはは……」


 ユシアは相手が女性であったからか、女性特有の気まずさがあるのか、苦笑い気味に微笑んでいる。


「四人か……って……え?」


 メグとクロは数的不利で状況が芳しくないことと、プレイヤーでない二人が現れたことに困惑しているようであった。


「こちらの二人は現地の方々です」


 ハルが手の平を向けるようなジェスチャーをユシア、セナに向ける。


「現地……? え……この世界、人間……っていたんだ……」

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