第一王子様は、妹だけいれば婚約者の事なんてどうでもいいそうです
大舟
第1話
「エミリア、君との婚約は今日をもって破棄することに決めたよ」
広い広い王室の中に、冷たい口調でそう言葉を発するエディン様の声が響く。
彼の元に呼び出された私は反論などできるはずもなく、ただ黙って彼の言葉を聞くほかない。
「サテラ、君は貴族家の生まれだからいろいろと期待していたんだが…。僕の思いに応えてくれなくて残念だよ」
思いにこたえる、というのは浮気されても文句を言わずに我慢をしろという事?
食事会で私が他の女性たちからねたまれて勝手に悪者にされても、黙ってそれを受け入れろという事?
あなたが私との時間よりも、妹であるユリアとの時間ばかりを優先することにも、目をつむれという事?
「第一王子であるこの僕と婚約をするからには、それなりに僕の思いも受け入れてもらわないと意味がない。でなければ、わざわざ好きでもない君の事を婚約者として置いておくメリットがないだろう?我慢ができないのならそれはもうほかの女に代わってもらってもいいのだから」
エディン第一王子にとって必要な婚約者と言うのは、どこまでも自分にとって都合のいい女性の事を言うのでしょう。
私がどれだけ傷ついても、貶されても、全く私の事を守ってもくれなかったのだから。
「ただ、いろいろと勉強になった事もあった。好きでもない相手と婚約など結ぶものではないという事や、僕にとってはやはりユリアとの時間がなにより大事であった事、それは他の何にも代えがたいものである事。その点君には感謝をしているよ」
好き勝手な言葉をどこまでも連ねてくるエディン様。
やっぱり彼の中で私の存在など、あってないようなものだったのでしょうね。
「さて、今日をもって君と僕とはもう完全に無関係の人間となるわけだが、最後になにか言い残したいことはあるか?」
「……」
形式上そう言葉をかけてくるエディン様だけれど、ここで私がなにか言葉を返すことは許されていない。
あくまで彼は、私になにか言葉を発する機会を与えたという言い訳を作るためだけにこうして私に言葉をかけてきているだけなのだから。
「言いたいことが何もないのなら、この婚約破棄は君も納得してくれていると理解していいんだな?まぁここで何か言われたとことでもう決定していることだからなにか変わるわけでもないのだが♪」
揚々とした口調でそう言葉を発するエディン様。
やっぱり私は、最初から全く必要とされてなんていなかったのですね。
どうせエディン様の暇つぶしの付き合いをさせられただけで、結局愛されてもいなかったのですね。
それならもう、私も言う事は何もありません。
「話はこれで終わりだ。速やかにこの王宮から出て行ってくれたまえ」
――――
「サ、サテラ様!?本当に出て行かれてしまわれるのですか!?」
「はい。エディン様から直接そう言われてしまいましたから」
「ちょ、ちょっとお待ちください!!」
「…?」
王宮を出て行く準備を整える私に向かってそう言葉を発するのは、エディン様の右腕としてその手腕を発揮しているノドレー騎士様だ。
彼は私がここに来た時から私の事を献身的に支え続けてくれた、まさに騎士らしい優れた心を持つ美しい男性だった。
「私がエディン様に掛け合います!このままサテラ様だけが追い出されることなど、絶対におかしいのですから!納得ができません!」
騎士らしい正義感もまた併せ持つ彼は、感情的になりながらそう言葉を発する。
私にはその思いが本当にうれしく思われたけれど、もうここに残る理由も気持ちもなくなってしまっていた。
「ありがとうノドレー様。けれど、私はもう必要とされていないのです。だからここにこれ以上い続けても、なんの役にも立たないのです。エディン様は妹のユリアさえいればなんでもいいと言っておられましたし、私の事を愛したこともないと言っておられました。もう、私がここに残る理由はなにもないのです」
「そ、そんなことを…」
私の言葉を聞いて、どこかショックを受けている様子のノドレー様。
…私にはそんな彼の姿が、少しだけうれしく感じられた。
「だからノドレー様、私たちはここでお別れです。今まで私の事を助けてくださって、本当にありがとうございました。ノドレー様の騎士としてのご活躍を、陰ながらお祈りしておりますね」
「……」
ノドレー様は非常に寂しそうな表情を浮かべながら、私の言葉をかみしめている様子。
今までそんな彼の姿を見たことがなかった私は、少しだけ驚きの思いを心の中に抱いていた。
最後の最後に彼のそんな姿を見られたことに少しうれしさも感じながら、私は自分の心の中でこう言葉をつぶやく。
「(ノドレー様、本当は私はあなたの事が好きでした。でも、その淡い恋心ももうおしまいです。ノドレー様には私なんかよりももっとふさわしい方がいらっしゃるのですから)」
エディン第一王子との婚約関係にあった私がその思いを抱くことは、罪な事であったと思う。
けれど、それは私の心の中だけの秘密。
その思いは誰にも知られることなく、人知れず消えていく運命の方がふさわしいのだから。
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