第13話 腕の見せ所
「さて……と」
佐切は今一度スキルで戦場を見渡す。
現在、佐切達のいる路地裏は建物に囲まれ、東西南北の四方向に抜け道が存在している。
無論、王都の守護を任務とする近衛騎士団がその事を把握していないはずが無く、俯瞰のスキルによると、少し離れてはいたが、東側からも近衛騎士団が迫ってきていた。
「サナン。この地図を見れば分かるが、どこに逃げれば良いと思う?」
「え? そんなの、敵が居ない南側しか無いんじゃ無いか? ……そうか、そういうのもこのスキルなら分かるのか。斥候を放って、情報を持ち帰るまで待つ必要すら無く……」
「あぁそうだ。もし自分が指揮官ならば、『念話』で本陣から即座に的確な指示を出すことが出来る。有用性は分かってもらえたかな?」
サナンは頷く。
「よし。ならば南から……と、言いたい所だが、相手もそこまで馬鹿じゃないだろ」
「と、いうと?」
「南側は王都側だ。つまりは敵の本拠地。そっちに逃げても未来は無い。いずれ捕らえられる。相手もそれが分かっているから部隊を置いてないんだろう。ということは……」
佐切は東側を向く。
「全員で東側を突き抜ける。それしか道は無い」
「な……正気か!? 近衛騎士団は全員が戦闘系のスキルを持っているんだぞ!」
「あぁ。だから戦うとは言ってない。幸いにもまだ距離はある。路地裏から出た事に気付く者は居ないだろう」
東側の近衛騎士団は他とは少し離れており、建物等の障害物で、出ていっても気付かれる事は無い。
北や西からは見通しが良く、迫る近衛騎士団から見られてしまう。
そう判断した佐切は東側からの脱出を提案した。
「このスキルがあればすり抜けて行くことが可能だ。だが、うずれ北と西の連中が俺達が逃げたことに気が付くだろう。そこで、俺に考えがある。後は任せてくれ」
「行け!」
佐切の合図で全員が駆け出す。
十数人が一斉に駆け出したのを見て、付近の住民は慌て始める。
因みに、皆武器はしまわせている。
「な、何?」
「何の騒ぎだ?」
ザワザワと人が出てくる。
その様子を見た佐切はすぐに大きな声で叫ぶ。
「魔族だ! 魔族が穴を掘ってそこの路地裏から出て来た! もう何人も殺されてる! 逃げなかったら死ぬぞ! 走れ!」
佐切がそう叫ぶと、騒ぎは一気に広がる。
「そ、そんな……」
「ま、魔族!? 何でこんな所に!?」
「騎士団は何をやってるんだ!」
皆、佐切達が向かっている東側へと走って行く。
事の真意を確かめる者はおらず、騒ぎだけが広まる。
「おいおい……まさかこの混乱に乗じて逃げるのか? 良く思いついたな……だが、近衛騎士団が魔族の話を無視して、検閲でも始めたら……」
「いいや、それはしないさ」
佐切は走りながらサナンに説明を始める。
「どこの世界でも危険があるのかもしれないと分かれば多少なりとも対応する人員を割かなければならない。それがデマの可能性があろうとも、デマであると確証を得る為の労力は割かなくちゃ行けないんだ。俺の世界でも、如何に胡散臭い犯行予告ても、警察は出動したからな」
「警察……よく分からんが、成る程な何となくは分かった……あ、そういえば」
すると、サナンは思い出したかのように口を開く。
「そういえば、勝ち戦だと言ったが……戦ってないな?」
「……確かに。しかしな……おっと」
佐切は前方に近衛騎士団を確認する。
それを見た魔王派の仲間は一瞬目を逸らすが、佐切は迷わず走り抜けるように合図する。
「た、助けてくれ!」
「魔族が出たんだ!」
「は、早く助けてくれ! あっちだ!」
民衆が近衛騎士団に駆けより救助を求める。
近衛騎士団はその対処に専念しており、佐切達には気付かなかった。
「く……事の真意を確かめろ! 王都のど真ん中で出てくるとは考えにくい! だが万が一のこともある! お前達は避難誘導を!」
佐切の憶測通り、近衛騎士団は対処を始める。
佐切達は一度物陰に身を潜め、『俯瞰』を使い、戦場を確かめる。
「……よし、敵は居ない。もう大丈夫だ」
皆が安堵のため息をつく。
「……疑って悪かった。本当に助かったよ。あ、そういえばさっき何かを言いかけてたよな?」
「あぁ」
佐切は軽く咳払いし、続ける。
「孫氏曰く、百戦百勝は善の善なるものにあらず、戦わずして人の兵を屈するは、善の善なるものなり。あと、色々省いて、諸侯を役する者は業を以て云々、とあります。つまりは、戦って勝つばかりが良いことではない、戦わずして勝つことこそ最善だと。そして、敵を使役したいのならば業、辛い仕事を作り、苦労させよとあります。つまりはこの魔族騒ぎですね」
「……孫氏? なんだそりゃ? それに、なんで急に口調が変わったんだ?」
佐切はその説明はしなかった。
単純に面倒臭かったからである。
「まぁ、一応年下でしょうから。孫氏については追々。さ、まずは貴方がたのアジトまで行きましょう。そこから、作戦会議です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます