第二章
第1話 現代にて
「おはようシンちゃん。」
「お、綾じゃん。なんか機嫌良さげ?」
シンちゃんと呼ばれた少年は、通学中の道端で幼馴染に声をかけられた。
少年の名は
どこにでもいる普通の高校生である。
見た目も特筆したものはなく、趣味としている空手とパルクールがそこそこ上手いだけであった。
それ以外では勉学の成績も中の中。
ザ・平凡を絵に描いたような人物であった。
声をかけた少女の名前は
こちらは真一とはうって変わって、学校でも人気者であった。
成績も上位をキープしており、母親譲りともいわれる容姿は男女問わず羨望の的であった。
本人としては気後れせず接してほしいと常日頃思っているが、それもまた難しい話であった。
そんな綾に対し普通に接している真一を、やっかむ者も少なくはなかった。
時折暴力事件に発展するのではないかと言われる場面もあったようだが、真一はなんとか切り抜けていたようであった。
本人曰く、当たらなければどうということはない……
ただそれが回りのヘイトをさらに買ってしまう要因ともなっていることは、本人は気付いていないようであった。
「聞いて聞いて、この前拾った猫さんなんだけどさ、やっとなついてくれたの!!でねでね、チュルーリを手から食べてくれたんだよ!!」
目をキラキラと輝かせながら、真一に話して聞かせる綾。
しかし、真一との身長差は30cm近くもあり、真一を下からのぞき込む格好となっていた。
綾は容姿端麗なほかにスタイルもよく、年頃としては発育の良い方であった。
おかげで、真一は見下ろす格好となってしまい、目のやり場に困ってしまう場面が多々存在していた。
真一は何とか我欲を抑え、うまいこと目をそらすことを幾度となく繰り返していた。
時折絶対わざとだろ?と思いたくなる場面もあるが、性格的に超が付くほど天然な綾は、まったく気にしている様子は見られなかった。
「ほんと二人とも仲がいいね?」
そんな二人の会話に入ってきたのが、これまた容姿端麗な少年だった。
少年の名は
真一と綾の幼少期からの幼馴染である。
身長は真一よりも少し高いくらいっで、イギリス系の血が混じっているせいか、日本人離れしたルックスの持ち主であった。
幼少期はそれがコンプレックスであり、よく真一の後ろに隠れていた引っ込み思案な少年であった。
だが、年齢を重ね徐々に自身のコンプレックスと向き合い、今ではそれを乗り越えるまでに成長を遂げていた。
真一曰、コンプレックスを跳ね退けたのはいいけど、若干ナルシスト気味になってないか?と……
これについては本人も自覚しており、どちらかというと王子様キャラを演じている節さえ見え隠れしていた。
天然キャラの綾。
王子様キャラの伊織。
二人が並び立つと見目麗しく、そんな二人に挟まれた真一は居た堪れなくなるのも無理からぬことであった。
「おはよう伊織。なんだか今日は眠そうだな。まさかまた徹夜か?」
「そうなんだよ、聞いてよ真一。実はさ、また見つけたんだよね、ツボにはまる小説をさ。」
伊織はそう言うと、カバンから一冊の本を取り出した。
あまりにも自分好みだったために、真一に貸し出そうともってきていたようだった。
期待を込めて手渡されたために、真一は拒むことは出来なかった。
「おい、ちょっと待て……これは持ってきたらダメな奴だろ……」
真一が中身を確認すると、いわゆる触手系凌辱物と呼ばれる分類の小説であった。
しかも18禁……
そう、この伊織は一点だけどうしても隠している趣味があった。
それは官能小説の大ファンだったのだ。
「これ学校に持って行って見つかったら俺の高校生活が終わりを迎えるからな……」
「だってこれ凄いんだよ?もうさ……」
「もういい!!これ以上ここでしゃべるなって!!」
伊織がいつもの調子で饒舌に内容を語りだそうとしたのを、真一が慌てて止める。
そうしなければ、隣にいる綾にすべて聞かれてしまう。
さすがに幼馴染とはいえ、こういった話を聞かれるのは恥ずかしすぎたのである。
伊織はしぶしぶ引き下がったが、結局その小説は真一のカバンの奥底にしまわれていた。
真一もなんだかんだ言ってそういった小説に興味があることは間違いなかった。
そんな二人のやり取りを全く気にする様子もなく、綾は道端であった犬や動物に声をかける。
本人的には将来獣医になりたいらしく、今のうちに動物に触れていたいと言っていたが、それが役に立つかは謎であった。
話を聞かれていなかった真一は安堵の表情を浮かべていた。
何を隠そう、真一は綾に対するほのかな恋心を抱いていた。
ただ、自分のモノにしたい、両想いになりたいなどといったものではなく、ただいつまでもそばにいたい。
そういった、友達以上恋人未満の関係が真一には心地よかったのだ。
それから三人は仲良く登校をつづけた。
少し前を歩く綾と伊織に、周囲の視線が二人に集まる。
そして当然のようにヘイトが真一に集まる。
ごくありふれた日常であった。
だがこの日はこれで終わることはなかったのである。
突如として綾と伊織を包み込むように光の柱が降り立った。
「綾!!伊織!!」
光の柱に飲み込まれた二人を見て、真一はとっさに身体が動いた。
その光の柱から二人を押し出そうと、体当たりを敢行したのだ。
光の柱が消えるころ、そこには三人の姿はどこにも見当たらなかった。
そして、周囲の人間は何事もなかったかのようにその歩みを進めていたのだった。
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