第19話:失敗しても、責任は自分で取れよ。
「いったい、何をやってる……」
翌日。
兄に
「どうせお客さんも来なくて暇なんだから、いーでしょ。まあ、黙って見てなさいよ」
ピンク色お下げに深緑の瞳に伊達眼鏡を掛けた一見文学少女風の超絶美女(それがこの世界での私)は、店番をしがてら、手芸にいそしみ出した。
まずはやっぱりお花のモチーフがいいかしら。材料が少なくても華やかに見えるものがいいわね。
そう。私の前世での趣味はビーズ細工だった。
たしか、はじめての出会いは、小学校の図書館の棚の上に飾られていた昆虫を
誰が作ったのか知らないけど、生徒か先生か、
テントウムシとか蝶々とか
彩りも鮮やかで、ビーズでこんなものが作れるのかと、本当に心が
百均にビーズのキットが売られていることを知った私は、母からたまに与えられる食費の百円玉を大事にとっておいて、一つできたらまた一つと、少しずつ作品を増やしていった。
ねこちゃんとかウサギさんとか、イチゴパフェとかチョコレートケーキとか、クリームソーダとかクリスマスのリースとか、百均のキットで作れるものは本当に小さいものだったけど、リカちゃんもシルバニアも持っていない私にとっては、自分の手でそれらを作り出せることが、夢のようだった。
そしてその趣味はずっと続いていて、高卒で働きはじめて少し自由になるお金ができたら、手芸屋さんで材料を少しずつ買い集め、アクセサリーももちろん作るようになったし、自分で考案したデザインのものも作るようになったし、本当に色々なビーズ細工を作ってきた。
唯一の趣味だったとも言えるだろう。
おかげで今、レシピがなくても、兄に貰ったビーズ(大きさも色もまちまち)から、様々なモチーフを作れる。
異世界で昆虫が好まれるかは謎なので、スタンダードにお花にしようか。
薔薇、コスモス、マーガレット、蝶々や四葉のクローバーも作れるぞ。
「おかあしゃま、すごーい!」
一つ目の作品は、アリシアにあげることにした。
白い小さなビーズで作った、小さなマーガレットのモチーフを幾つか連ねて作ったブレスレットだ。
アリシアの小さな腕にぴったりとはまる。
大人用には同じモチーフで指輪を作った。
指輪なんて秒で作れる。
他にもいろんなモチーフをどんどん作る。
蝶はブローチにしたらいいかな。
蝶々は羽根にいろいろな色や模様を入れて、でも懲りすぎて時間を掛けすぎてしまうので要注意だ。
「すごいすごーい……!」
アリシアは作品ができ上がる度に歓声を上げて喜んでくれた。
手にとって遊びはじめる。
私はあまりにもお客さんが来ないことを
でき上がったお花の指輪や蝶々のモチーフを見てカレルさんの目の色が変わった。
相変わらず迷惑そうな表情はしていたが、明らかに目の色が違う。
この人はこんな感じでもやっぱり商売人だから。
宝石商の血を
「どう?これをね、ブルジョワの奥様方が集まる喫茶店や美容院に置いてもらうの!」
カレルさんはしばらく
「失敗しても、責任は自分で取れよ」
口ではそう言いながらも、
「おい、出掛けるぞ」
「え……っ?」
「作ったもの残らず全部持ってこい」
私は慌てて箱にビーズ細工を詰めると、アリシアを連れてカレルさんの後を追う。
本当に
「お前みたいな新米従業員に任せてたら何をされるか分からないからな。『カレル・クラマルス』の名前を使う以上は、それなりの対応をする必要がある」
カレルさんはそれだけ言うと、
もしやカレルさん、私の作品売り出そうとしてくれてる……?
私の心は
現代日本に居た頃は、こんな作品、作れる人は山ほどいたし、私のはあくまで趣味で、自分のために作っていただけだったけど、この世界では
自分の作品が売り物になるかもしれないと思ったら、とんでもなくワクワクしてきた。
私は斜め前を歩くカレルさんの横顔を盗み見た。
肩の長さで切り
カレル・クラマルスは不思議な人だ。
シンデレラの世界の魔法使いだって、眠れる森の美女の魔法使いだって、頭巾をかぶった人の良さそうな妖精さん(なぜかみんなおばちゃん)だったじゃないか。
唯一魔法使いらしさがあるのは左耳にひとつだけ付いた青い宝石のピアスかな。
年齢不詳。落ち着いているからセレスタよりは年上に見える。
フィドルさんぐらいかもしれない。
ふらりと出て行って店を空ける時間も長いし、ぐうたらしていて頼りにならないようでいて、この人に任せておけば取りあえずなんとかしてくれるのではないかと言うような、不思議な安心感もある。
それにアリシアも「カレルさんなら、おかあしゃまを護ってくれる」と言っていたではないか。
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