第44話 真夏の海にて
夏休み真っ只中のある日。
年々強まっている気がする異様な暑さに耐え忍ぶ毎日を送るのにもいい加減飽き飽きしてきた頃。
俺は友人達数名と共に、地元の海水浴場に来ていた。
地元であるF県F市は、海と山が非常に近い地形なのだ。最寄りの海水浴場まで、自転車で三〇分も掛からない。
「海か。やっぱり暑いよな……」
海パンに着替え、適当な場所にビニールシートを敷き、パラソルを立てておく。
アホの川田と、肥満体の大上も一緒だ。
暑苦しい野郎どもだけで遊びに来ているのかと言うと、そうではなく、野郎以外の人間も参加していた。
「お待たせー!」
「「「!?」」」
笑顔で声を掛けてきたのは、剣崎の友人、杉浦美里だった。
杉浦は麦わら帽子を被り、真っ赤なビキニの水着を身に着けていた。
背が高く、発達しまくったプロポーションの持ち主である杉浦は、露出しまくった過激な水着を披露してくれた。
なんだあれ、すさまじいな。生きててよかった……。
「はあ、やだやだ。男ってみんな、美里みたいなのがいいんだよなー?」
不愉快そうに呟いたのは、金髪でヤンキーっぽい少女、田所竜子。
中肉中背だが、出る所は出ていて、黒のビキニがよく似合っている。同い年には見えないな。
本人に自覚はないみたいだが、田所は田所でなかなかの美人だ。実は男子の間じゃ結構人気があったりするんだよな。
「……暑い」
続いて現れたのは、やたらと長い髪をした小柄な少女、幼なじみの剣崎真由だった。
背は低く、あまり出る所は出ていないが、脚だけは割と育っている。
剣崎は、上下に分かれたセパレートの水着を着ていた。淡いピンクのランダムドット模様で、ミニスカみたいなフリル付き。
普段とは違う、可愛らしい女の子みたいな水着を着た剣崎を見て、不覚にもドキッとしてしまった。
「なんだよ、文句でもあるのか、秋洋。どうせ、『なんでコイツは胸がないんだ、小学生か?』とか思ってるんだろ? このムッツリの巨乳好き野郎が!」
「い、いや、全然そんな事は……」
なにか言う前に剣崎からツッコミを入れられ、リアクションに困ってしまう。
あれって、この前、俺が選んだ水着の一つだよな。改めて見ると、ロリロリした剣崎には抜群に似合っているな。
「……かわいいな」
「は、はあ? か、かわいいとか、心にもない事言うなよな! 騙されないぞ!」
「いや、マジでかわいいよ。まぶしくて直視できないぐらいだ。後でスマホで撮影させてくれ」
「そ、そうか? 水着とか恥ずかしいけど、秋洋がそう言うんなら、たまに着てみるのも悪くないかもなー?」
剣崎は頬を染めて目を泳がせ、そんな事を言っていた。
ツンデレかよ。しかし、マジで可愛すぎるよな。後で撮影するとして、目に焼き付けておこう。
中身はガサツで男子小学生みたいなのに、なんでこんなに可愛らしい外見なんだろう。実に不思議だ。
「ロリコン野郎にさらわれるかもしれないな。みんなの傍から離れないようにしろよ」
「子供扱いすんな! 自分の身ぐらい自分で守れるっての」
「いいから。とりあえず、俺の傍から離れないようにな」
「……お、おう」
不満そうな剣崎の両肩をつかみ、注意を促しておく。
真正面から顔をのぞき込んで真剣な口調で告げると、剣崎は頬を染め、目を泳がせていた。
「あ、あの、秋洋? ちょっと近い……」
「真面目に聞けよ。変なのに絡まれたら自分でどうにかしようとしないで俺に言うんだぞ。分かったな?」
「わ、分かったから。そんなにマジな顔で見つめるなよな……」
「?」
コイツときたら、自分の可愛らしさを自覚していない節があるからな。俺が守ってやらないと。
いくら剣崎が強くとも、ロリコンの変態野郎から迫られたらどんな目にあわされるか分かったもんじゃない。
俺の幼なじみに妙な真似なんかさせないぞ。周囲の警戒を怠らないようにしよう。
「永瀬君は少し過保護なんじゃないかしら?」
「そ、そうかな? って、藤崎?」
ボソッと呟いたのは、いつの間にか隣にたたずんでいた藤崎だった。
眼鏡が似合うクラス委員の優等生は、水着を着用していた。
白のビキニだ。発育しまくっているボディを強調しているようで、白い肌が眩しすぎて直視できない。
特に胸回りのボリュームがすごい。大きいとは思っていたがこれほどとは……すばらしいな。
「田所さん達に誘われて、暇だから来ちゃったんだけど、お邪魔だったかしら?」
「い、いや、そんな事はないと思うぞ。歓迎するよ」
「私みたいな地味な女がこんな水着を着ても見苦しいだけじゃないかな? 店員さんに勧められてつい買っちゃったんだけど……」
「すごく似合ってると思うよ。店員さんグッジョブだな」
「そ、そう? ……ありがと」
藤崎は頬を染め、モジモジしていた。
なんだかかわいいな。露出度の高い水着姿というのがまた、ギャップがあっていい。土下座して頼んだら撮影させてくれないかな?
「くぉら、秋洋! アレがアレな藤崎ばっか見てんじゃねーぞ! このムッツリが!」
目を吊り上げて俺を非難してきたのは剣崎だった。
かわいらしい水着姿なのに、口にする台詞はヤンキーというかチンピラみたいだ。やれやれ。
不愉快そうに顔をしかめて俺をにらんでいる剣崎に、落ち着いた口調で言っておく。
「そんなに怒るなよ。心配しないでも、可愛らしさじゃお前がナンバーワンだ。誰も勝てないよ」
「えっ? そ、そうか? い、いや、私なんか、全然アレじゃないし、お子様みたいだし……秋洋も不満なんじゃ……」
「お前はほんと、自己評価が低すぎるな。もっと自信持てよ。普通にかわいいって言うか、そこらのアイドルにも負けてないレベルだぞ」
「え、えー? 急にそんな事言われても……」
頬を染め、小さくなっている剣崎に苦笑する。
外見に限って言えば冗談抜きでアイドルデビューしていてもおかしくないぐらいなのにな。少しは自覚してほしいぜ。
まあ、アイドルはアイドルでもU-12とかにカテゴライズされるだろうけど。言ったら殴られるな。黙っとこう。
「秋洋ってまさかロリコン? ……いやコイツはおっぱい星人のはず……」
「おいコラ聞こえてるぞ。自分で自分をロリ扱いするな! あと俺はロリコンでもおっぱい星人でもないからな!」
「えー?」
疑いの目を向けてくる剣崎に顔を引きつらせてしまう。お返しにあとで水着姿を撮影しまくってやろう。
失礼極まりない幼なじみはひとまず放置しておき、藤崎に尋ねてみる。
「剣崎は水陸両用MS並みに泳ぎが達者だけど、藤崎はどうなんだ?」
「わ、私は……水泳は苦手で……バタ足で二メートルぐらいが限度かな……?」
「二メートルって……自分の身長プラス四〇センチぐらいしか泳げないって事か? そんなの泳げるって言えないんじゃ……」
「言ってないもの。海でもプールでも、溺れたらそれで終わりなのよ」
いや、終わらせるなよ。なんだそのあきらめのよさは。
「できればもう少し泳げるようになりたいけれど……永瀬君は泳げるの?」
「まあ、一応は。そこそこ泳げるよ」
そんなに得意ってわけじゃないけどな。学校の水泳の授業で教わる泳ぎ方って、あんまり実用的じゃないし。
クロールは苦手だし、息継ぎなんかも難しい。もっと単純で、高度なテクニックなんか必要ない泳ぎ方を教えてほしいもんだ。
個人的に色々と試してみたんだが、平泳ぎでグダグダ泳ぐのなら、割と長距離でも行けると思う。
「あの……よければ、教えてくれない?」
「えっ?」
藤崎からお願いをされ、困惑する。
正直言うと、人に教えられるほどではないんだが……しかし、藤崎は真剣みたいだしな。
「分かった。俺でよければ」
「ありがとう。お願いします」
そんなわけで、藤崎に泳ぎを教える事になった。
海に入り、波のない、浅い位置まで移動して、そこで練習してみる事にする。
他のみんなは、適当に散って遊んでいる。剣崎は俺と藤崎の様子をチラチラと見ながら、周囲を泳いで回っていた。
「バタ足はできるんだよな。溺れないように泳ぐのなら、平泳ぎがおすすめだ」
「で、でも、平泳ぎって難しくない? 私がやるとすぐ沈んじゃうし」
「犬かきでもいい。顔を水に付けずに浮いていられるから楽だぞ」
水泳の授業なんかで教わるのは、バタ足、顔を水につける、クロール、クロールで息継ぎ、というのが基本的なものだと思う。
だが、バタ足はともかく、クロールって意外と難しいんだよな。息継ぎだって覚えるのは簡単じゃない。
水泳が大して得意じゃない俺が、そこそこ泳げるようになるために覚えたのが、平泳ぎ。
顔をあまり水につけないでいいので、覚えるとかなり楽なんだ。スピードは遅いんだが、持続性は高く、疲れたら休めばいい。
「顔を上げたまま、浮く練習をしよう。その状態で足を動かして前に進むんだ」
「は、はい。やってみます」
藤崎はあまり運動が得意じゃないらしく、特に水泳が苦手なのだとか。
俺もそんなに得意じゃないので、気持ちは分かる。できる範囲で力になろう。
「あっぷ、うっぷ……」
「いいぞ、その調子だ。身体を浮かせていられれば、後は適当に水をかけば前に進む。急ぐ必要はないから、ゆっくりやろう」
俺が手を引き、藤崎に身体を浮かせる練習をさせる。
何度も沈んでしまいそうになりながら、藤崎は練習を続けた。
やがて、どうにか、身体を浮かせた状態をキープできるようになってきた。まだまだ厳しいが、これなら平泳ぎぐらいはできるようになるかもな。
「い、犬かきなら……五メートルぐらいは行けそう」
「おお、いいじゃないか。要は沈まないようにすればいいんだよ。がんばれ」
懸命に手足を動かし、犬かきで泳いでみせる藤崎を励ます。
俺の指導で泳げるようになってくれたのなら、うれしいよな。
もうちょっとがんばってもらって、二五メートルぐらいは泳げるようになって……。
「あっ……!」
「ん? どうした?」
不意に藤崎が声を上げ、動きを止める。
脚でもつったのかと思ったのだが、どうやら違ったらしい。
「み、水着のブラが……取れちゃった……」
「!?」
白いビキニのブラジャーが外れてしまい、波に流されたらしい。
藤崎はあせり、両腕で胸を隠していた。姿勢が崩れ、そのまま沈んでしまいそうになる。
水深は浅いので、普通に立てば両足が付くはずだが、泳げない藤崎はうろたえ、溺れてしまいそうになっていた。
「がぼごぼがぼ……」
「お、おい、落ち着け! 大丈夫だから!」
目の前で沈んでいく藤崎に驚き、俺は彼女の腋の下あたりに手をやり、抱え込むようにして支えてやった。
顔を水面から出してやると、藤崎はゲホゲホと咳き込んでいた。
「だ、大丈夫か? もう心配ないからな」
「……」
藤崎は、俺を見つめ、ガバッと、抱き付いてきた。
剥き出しの大きな胸のふくらみを押し付けながら、手足を絡ませて、しがみ付いてくる。
「ううっ、怖かった……死んじゃうかと思った……」
「だ、大丈夫だって。ほ、ほら、もう離れて……」
なぜか藤崎は俺にしがみついたまま、離れなかった。
ものすごくでっかくて柔らかいふくらみが、ムニュウウ、って押し付けられてるんだが……うれしいけど、困ったな。俺の理性が吹き飛んでしまいそうだ。
「おーい、藤崎! これ、お前のだろ? 見付けてきてやったぞ」
そこへやって来たのは剣崎だった。
藤崎のビキニの水着を手にしていて、差し出してくる。
「あ、ありがとう。助かったわ」
「おう! それはいいけど、トップレスで秋洋に抱き付くのはよくないと思うぞ! 早く離れて!」
「……もう少し、このままで……永瀬君、意外と頼もしいし……」
「離れろってば! 秋洋は私のだぞ!」
しがみついたまま離れようとはしない藤崎に、俺は困ってしまった。
溺れそうになったからな、怖かったのかもしれない。
剣崎が顔を真っ赤にして怒っていたのが謎だが……どうかしたのか?
「どうかしたのかじゃねーだろ! 藤崎にばっか構ってないで私と遊べよな!」
「ああ、悪い。剣崎にはあとで水着姿を撮影させてもらおうと思って……いいかな?」
「そ、そのぐらい、いいけど……なんで私なんかを撮りたがるんだ? 藤崎や美里の方がアレがアレだし、撮り高があるんじゃ……」
「お前の水着姿がかわいいからに決まってるだろ。あんまりウロウロして他の男に見せるなよな。剣崎の水着姿は俺だけのものだ」
「は、はあ? 別にあんたのものなんかじゃないんだけど……他の男に見られたら嫌なんだ? ふーん……」
「普通に嫌だが。それがどうかしたか?」
「ど、どうもしないけどさ……あんまり人前でそういう事言うなよな……」
「?」
剣崎は相変わらずで、なにに怒っているのか、照れているのか、よく分からなかった。
とりあえず水着姿の全身像を撮影させてもらわないとな。ややローアングルなのや、上から見下ろす視点なんかもいいな。
「そうだ。せっかくだし、藤崎と仲良しの親友みたいな感じで、抱き合っている姿を撮影させて……」
「……却下。調子に乗るな、馬鹿!」
「ええっ?」
駄目か。まったく違うタイプの組み合わせだし、すごく映えると思うんだが。
無論、他人に見せたりSNSで拡散したりはしない。俺が個人的に保存してニヨニヨするだけだ。
「秋洋、キモイ」
「キモイ言うな!」
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