第30話 幼なじみの複雑な関係
「おいおい、聞いたぜ、永瀬ぇ……ククク……」
「?」
朝の登校時間。教室に入るなり、川田が絡んできた。傍らには大上も控えている。
どうせロクでもない話なんだろうな、と思いつつ、とりあえず聞いてみる事にする。
「昨日は修羅場だったらしいじゃねえか。例の立川って女と、剣崎の二人に挟まれて大変だったんだって?」
「あー、まあ……」
「お前が剣崎と立川って女、両方と付き合ってて、二股かけてたっていうのはマジか?」
「そんなわけないだろ! 誰だ、そんなデタラメな噂を流してるヤツは!?」
「ふっ、俺に決まってるだろ?」
「お前かよ! この野郎!」
とりあえず川田の胸ぐらをつかんでガクガクと揺さぶっておく。
なんてヤツだ。信じられねえな。
「でも、揉めたのは事実だろ? あんな巨乳に迫られるなんてうらやましい! とりあえず揉んでみたか?」
「揉むわけないだろ。アホか」
「馬鹿野郎、せっかくの大チャンスを逃すなよ! 付き合う付き合わないは別として、とりあえず触らせてもらっとけよ!」
「川田。お前って、俺が思ってた以上に最低の人間なんだな……」
ほんと、なんでこんなヤツと友達なんだろ。一度付き合いを考え直した方がいいかもな。
「んで、なんだ。剣崎がいるから付き合うのを断ったのか? もったいねえなあ!」
「い、いや、剣崎は関係ないだろ。俺達はそういうのじゃないし」
「だったら、立川と付き合ってみればいいじゃねえか。あの巨乳を逃すなんてありえねえよ」
俺もコイツぐらい軽く考えられたら楽だったんだろうが。
そんな簡単に、付き合うとか無理だよ。好きでもなんでもないのに。
「いいか永瀬、よく聞け。好きじゃなくても付き合えるし、好きじゃなくても胸を揉む事はできるんだ。それが人間って生き物なんだぜ」
「お前はほんと、呆れるほどロクでもないな……」
もういい、もうやめろ。川田の意見なんか聞いてたら耳が腐るわ。
大上は、根が真面目だからもう少しマシな意見を述べてくれるかもな。
「女に迫られるとかうらやましい。爆散しろ、リア充気取りめ」
コイツもろくでなしだった! 友達は選んだ方がいいよな、マジで。
しかし、噂になっているとしたらマズイな。剣崎まで巻き込んでしまったら申し訳ないぞ。
剣崎は無関係という事にできないものか。俺のせいで嫌な思いはさせたくない。
「聞いたよ、永瀬。大変だったんだってね」
「ふふふ、大変だねー」
ヘラヘラ、ニヤニヤと笑いながらやって来たのは、金髪ヤンキーの田所と、赤毛ロングのでかい女、杉浦だった。
二人は俺の席を囲み、冷やかすように話し掛けてきた。
「5組の立川だっけ? 胸がでかくてかわいいって評判の。そんなのに迫られるなんて、やるじゃん」
「いや、俺は別に……」
「永瀬はさ、女の子みんなに優しいよねー? そのせいで勘違いされちゃうんじゃないのー?」
「そんなつもりはないんだが……」
もしかすると、俺の態度に問題があったのか。
確かに、もっと強く、拒絶しておけばよかったのかもしれないが……俺には難しいな。
「でも結局、真由がいるから断ったんだろ? やるねえ、永瀬。ちょっと見直したよ」
「巨乳好きなのに巨乳の子に迫られても断るなんて、鋼の意志の持ち主だね! やっぱり真由っちの事が大事なんだ?」
二人から妙な事を言われ、さすがに恥ずかしくなる。
なんでそうなるんだ。俺と剣崎は単なる幼なじみであって、それ以上の関係なんかじゃないのに。
「剣崎は関係ないんだ。誤解しないでくれ」
「えー? 本当にそうか?」
「関係大ありなんじゃないの? 怪しいなあ」
疑いの眼差しを向けてくる二人に困っていると、そこへ面倒なヤツがやって来た。
「なにしてるんだよ、お前ら。秋洋に妙な真似したら殺すぞ?」
ごく普通に、殺害予告をしてきたのは、剣崎だった。
剣崎は友人二人をにらみつつ、俺の傍らに立ち、肩に手を置いてきた。
「なんか、昨日の事が噂になってるっぽいな」
「あ、ああ。誰か見てたヤツがいたのかな」
「ま、別に悪い事はしていないんだし、気にすんなよ。あんまりうるさいようなら、私が黙らせてやるからさ」
拳を掲げ、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる剣崎。
言うまでもなく剣崎は本気だ。コイツはやると言ったらやるヤツだからな。
「剣崎はあんまり関わらない方がいいぞ。お前まで妙な噂に巻き込まれてしまうし」
「バーカ、そんなの気にすんなって。私とあんたの仲を疑われるのなんていつもの事だろ」
「そうだけど……剣崎は嫌だろ?」
すると剣崎は俺の肩をモミモミしながら、呟いた。
「からかわれるのはむかつくけど、別に嫌じゃないぞ。秋洋と付き合ってるんじゃないかって言われるのは」
「えっ? そうなのか?」
「そうだよ? なんか文句でもあるのか?」
「い、いや、文句はないが……」
剣崎は眉根を寄せ、拗ねたような顔をして、俺の肩をモミモミし続けていた。
どういう意味だろう。からかわれるのは嫌だけど、俺との仲を疑われるのは別に嫌じゃないって? 矛盾してないか。
「言いたいヤツには言わせとけばいいんだよ。どうせ、他人には私らの関係がどういうものかなんて分からないんだからさ」
「それは……そうかもな」
古い付き合いの幼なじみというのは、本人達にしか分からないところが色々とあるんだ。
単純に、恋人同士とか親友同士とか、そういった言葉では正確に言い表せない。
好きか嫌いかと言われれば好きだが、それは異性に対する恋愛感情的な「好き」とは微妙に違うと思う。
友人以上、恋人未満というか……結構複雑だったりするんだ。
「どうなんだよ、真由。永瀬は巨乳のかわいい子より、あんたを選んだわけだろ? それってやっぱり、そういう関係って事?」
「永瀬は真由っちと絡む時が一番楽しそうだしね。ぶっちゃけ好きなんじゃないの?」
田所と杉浦は興味津々といった様子で、俺と剣崎に詰め寄ってきた。
剣崎はムッとして、眉を吊り上げて叫んだ。
「あー、もう、うるさい! 私と秋洋は幼なじみってだけだ! 無理矢理くっつけようとするな!」
「そうそう。幼なじみなんだから、普通の友達より親しいのは当然だよな」
「だよな? 腕組んだり、肩組んだりするぐらい平気だし!」
「おう。ハグしたり、抱っこしたりしても平気だよな!」
「お、おおう……ごめん、それはあんまり平気じゃないかも……」
「そ、そうか……ごめんな……」
剣崎が頬を染めて俯き、俺も思わず赤面してしまう。
このあたりが幼なじみの限界というか、ボーダーライン的なやつなんだろうな。
「なにコイツら面倒くせー! さっさとくっつけやー!」
「ダメだよ、竜子ちゃん。そういう事言うと余計くっつかなくなるよ? 二人ともひねくれてるから」
「じゃあ、別れろ! よく考えたら仲間内で真由だけ彼氏持ちとかむかつくし、やめとけ! もしくはあたしにイケメンを紹介しろ!」
「りゅ、竜子ちゃん、落ち着いて。自分の願望丸出しになってるよ?」
田所は大丈夫か? だんだん言動が支離滅裂になってきてるぞ。
まあ、なんだ。他人がなにを言おうと結局は余計なお世話なわけで、ほっといてくれってとこかな。
「でもさ、幼なじみって、幼児ぐらいの頃から付き合いがあるやつらを言うんだろ? それってつまり、幼児の頃から相手を見付けておかなきゃダメって事だよな?」
「そうなるね。それがどうしたの?」
「いや、そんなの普通無理じゃん! 幼児の頃の遊び相手なんて覚えてないよ! それをずーっと高校まで付き合い続けていくなんて、どんだけだよ! めちゃくちゃお互いの事好きじゃないと無理じゃん!」
田所はそう言って、未知の怪生物を見るような目で、俺と剣崎を見ていた。
「い、いや、そんな事はないぞ? 中学の時なんか、ほとんど話もしなかったし」
「そうそう。この野郎が、私の事を避けやがってさ。女と一緒に学校行くの恥ずかしいとか抜かしやがって」
「しょうがないだろ、そういうのが気になる時期だったし。剣崎だって、学校では話し掛けるな、とか言ってただろ」
「それはお前が避けるからだろ! 秋洋のくせに生意気な!」
「うるせえよ! 男には女子と絡みにくい時期ってのがあるんだよ!」
剣崎が肘で肩を小突いてきたので、負けじと肘で押し返す。
ほら、全然仲良くなんかないだろ? 俺達の関係なんてこんなもんだ。
「ううっ、またイチャイチャしてる……あたしら、なんでこんなのを見せ付けられなきゃいけないんだ? 拷問か?」
「結構面白いけどね。あんまりしつこいとむかつくかもー」
田所は忌々しげに呟き、杉浦は笑顔で毒を吐いていた。
えらい言われようだな。俺と剣崎はそんなにベタベタしてないし、仲良さげにもしていないと思うんだが。
「秋洋、あのストーカー女がまたなにか言ってきたら、私と付き合ってるからお前とは付き合えない、って言ってもいいからな?」
「えっ? いやでも、そういう嘘は……噂になったりしたら剣崎が困るだろ?」
「私は別に構わないぞ。あの女にハッキリ言ってやれ! お前なんかよりも私の方が好みだってな!」
「い、いや、それはさすがに言いすぎ……」
「なんだ? なにか文句でもあるのか? まさか、あの女の方が好みとか言わないよな?」
剣崎から怖い顔でにらまれ、冷や汗をかく。
だから、殺意全開の目でにらむなよ。それ絶対、好意を持っている人間に向ける目じゃないよな?
「またイチャイチャしてるよー! 誰かコイツらをなんとかして!」
「本人達に自覚がないのがどうしようもないよね。天然で狙ってる真由っちもあれだけど、気付いてない永瀬も大概だよ」
「「?」」
田所と杉浦がなにか言っていたが、よく分からなかった。
揉めてるのにイチャイチャしてるとか、意味不明だよな。
やはり、幼なじみ同士の複雑な関係ってヤツは、赤の他人には分からないんだろうな。
「今日の帰り、あんたんち行ってもいい? この前読んだ漫画の続き見せてよ」
「ああ、別にいいぜ。帰りに飲み物とお菓子でも買っていくか」
「コ、コイツら、これで付き合ってないって言い張るのかよ……一緒に歩いてるの見かけたら、後ろから石でも投げてやろうか」
「ふふふ、さすがにちょっとむかつくかもー! 狙撃してやりたくなるよねー?」
なんなんだ一体。石を投げるのも狙撃するのもやめてくれよな。
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