第22話 幼なじみとお弁当
剣崎がうちに泊まった日の朝、登校時間。
教室には剣崎が先に入り、俺はその後に続いた。
剣崎は前の方にある自分の席へ向かい、友人連中と挨拶を交わしている。
俺は教室の一番後ろ、真ん中の席だ。席に着こうとしていると、川田が駆け寄ってきた。
「オラア!」
「!?」
いきなり飛び上がり、ドロップキックを放ってきた川田に、俺はギョッとした。
ギリギリのところでかわし、直撃を回避する。
蹴りが不発に終わった川田は、床の上にズダーン、と倒れていた。
「い、いきなりなにをするんだ? 俺に恨みでもあるのか?」
「うるせえ、このリア充野郎が! 幼なじみの女と仲良く一緒に登校してきやがってよう……ナメた真似してんじゃねえぞコラァ!」
えらい剣幕で詰め寄ってくる川田に、圧倒されてしまう。
なにもそこまで憎まなくても……それが友人に向ける目か?
「永瀬」
「おう、大上。川田の馬鹿に言ってやってくれよ。コイツ、どうかして……」
「フンッ!」
「!?」
大上がその巨体を躍動させて体当たりを仕掛けてきて、俺は潰されてしまいそうになった。
ギリギリのところでかわし、激突を回避する。
大上は複数の机にぶつかって動きを止め、よろめいていた。
「お、おい、大上までどうした? ストレスでも溜まってるのか?」
「お、女に縁があるヤツは敵だ。女子と一緒に登校するとか、自慢してるのか? 裏切り者め!」
「えー……」
大上までわけの分からない事を言って絡んできて、俺は参ってしまった。
「お、落ち着けよ、二人とも。女子と一緒に登校って言っても、相手は剣崎だぞ? 男友達と変わらないって」
「たとえ剣崎でも、一応は女だろうが! ただの幼なじみとか言ってイチャイチャイチャイチャしやがって、うらやましいんじゃコラァ!」
「永瀬がそんなヤツだとは思わなかったぞ。女とイチャコラするヤツは抹殺する」
「こうなったら二対一で潰してやろうぜ! 覚悟しろ、永瀬この野郎!」
「くっ……!」
アホな友人二人から本気の敵意をぶつけられ、冷や汗をかく。
そりゃ確かに、一緒に登校してきたけどさ。そこまで非難されるほどの事か?
これでもしも剣崎が俺の家に泊まったって知られたら、コイツらマジで殺しにかかってくるかもな……。
「どうした、秋洋。喧嘩か?」
そこへやって来たのは剣崎だった。
またややこしいのが……頼むからこれ以上騒ぎを大きくしないでくれよ。
「そいつら、秋洋を潰すとか、覚悟しろとか言ってなかったか? 喧嘩なら手を貸すぞ」
剣崎は俺を庇うようにして立ち、川田と大上の二人と対峙した。
小学生と見間違えてしまうぐらい小柄なのに、なんてすさまじい存在感なんだ。
川田と大上は顔面蒼白となり、剣崎から目をそらしていた。二人とも膝がガクガク震えてやがる。
ここであの二人が余計な事を一言でも口にすれば、剣崎は迷わず拳を叩き込むだろう。
朝っぱらからスプラッターでバイオレンスなシーンなんか見たくないし、ここは上手く収めておかないと。
「け、剣崎、別に喧嘩じゃないんだ。ちょっとふざけてただけなんだよ。そうだよな、二人とも」
俺が同意を求めると、川田と大上はコクコクとうなずいていた。
「ふざけただけ? 本当か?」
「本当だって。被害者の俺が嘘つくわけないだろ」
「ならいいけどさ。お前ら、秋洋に妙な真似しやがったら……マジで殺すぞ? 覚えとけ」
「「は、はいっ!」」
剣崎が低い声で呟くと、川田達は気を付けをして返事をしていた。
いや、さすがというかなんというか。うちの幼なじみは怖いなあ。あとで注意しとこう……。
剣崎は俺にニッと笑ってみせ、自分の席へ戻っていった。
川田と大上は命拾いしたとばかりに胸をなで下ろしていた。
「こ、こえええ……恐ろしすぎるな、永瀬の嫁は……マジで殺されるかと思ったぜ……」
「あの目は本気だった……バラ肉にして食っちまうぞ、豚野郎、とでも言いたげな……さすがは『いてほしくないタイプの幼なじみ』だな」
「俺の嫁なんかじゃねえし、言葉には気を付けろよ。あとで剣崎に言いつけるぞ?」
二人ともそれだけはやめてくれと半泣きで訴えてきた。
そんなに剣崎が怖いのか? 慣れている俺ですら怖い時があるから無理もないが。
時はすぎ、昼休み。いつもなら俺は学食へ行くのだが、今日は弁当がある。
自分の席で弁当を広げようとしていると、金髪ヤンキーの田所が声を掛けてきた。
「あれ、永瀬、今日は弁当? 珍しいね」
「まあ、たまにはな……」
「でも、一人で食べてるなんて寂しいね。よし、あたしらの仲間に入れてあげよう!」
「えっ?」
田所に呼ばれ、剣崎と杉浦が集まってきた。
周りの机をくっつけ、四人でテーブル代わりの机を囲む。
俺の隣には、剣崎が座っていた。剣崎は嫌がったのだが、田所と杉浦が無理矢理俺の隣に座らせたのだ。
なんだ、この状況は……どうしてこうなった?
「いやー、幼なじみ二人をおかずにして食べるご飯はうまいわー! 何杯でも食べられるね!」
「ふふふ、ほんとだよねー? 二人とも照れてないで早く食べなよー」
田所と杉浦にからかわれつつ、仕方なく弁当箱を開ける。
剣崎も弁当を広げ、俺達は二人並んでほぼ同時に食べ始めた。
「んん? あれ、あんた達、おそろいの弁当箱なの?」
「二人ともカレーピラフが入ってるんだ? あれ、おかずも同じ? これってまさか……」
ヤバイ、バレたか? ここはどうにかして誤魔化さないと……。
そこで剣崎が、すまし顔で呟いた。
「同じなのは当たり前だろ。私が秋洋の分も作ってやったんだから」
「「「!?」」」
剣崎の爆弾発言に、場の空気が凍り付く。
田所と杉浦は目を真ん丸にして固まっている。ついでに俺も。
「ま、真由が、永瀬の分まで弁当を作った……? マジで?」
「ま、真由っちが女の子みたいな真似をしてる……二人の間に一体なにが……」
信じられないといった顔で呟く田所達をジロッとにらみ、剣崎はつまらなそうに呟いた。
「秋洋んちは家の人がいない事が多いから、たまに私がご飯作りに行ってやってるんだよ。今朝は朝ご飯のついでにお弁当も作ってあげただけ。なんか変か?」
「へ、へー、そうなんだ? つか、真由って料理とかできんの? 信じられないな……」
「えっ、ちょっと待って? もしかして、普段は男の子みたいな真由っちが、この中で一番女子力高かったりするの? ふえええ……」
「嘘じゃないし。なあ、秋洋」
「あ、ああ。お世話になってます……」
俺がうなずくと、田所と杉浦はかなり驚いた様子だった。
「こ、これが幼なじみの付き合いってヤツか……少女漫画やラブコメみたいな事って現実にあるんだな……」
「ていうか、私達の知らないところで、二人はすっごく親しく付き合ってるんじゃないの? ほとんど恋人同士なんじゃ……」
「いや、全然そんなんじゃないし、家が近所で幼なじみってだけだから。誤解するなよな!」
「えー? もうそれ親しいとかいうレベル超えてないか?」
「二人きりの時は普通にイチャイチャしてるんじゃないの? 怪しいなあ……」
田所達は疑いの眼差しだったが、剣崎はすまし顔でとぼけていた。
おお、やるじゃないか、剣崎。自分からバラして、なにも問題はないって態度で通すとは。正直、見直したぜ。
「秋洋、ピラフはどうだ? 割とよくできたと思うんだけど」
「あ、ああ、美味いよ。カレーの残りからこんなのできるんだな」
「そっか、よかった。夜も朝も昼もカレーじゃどうかと思ったんだけど」
弁当の感想を聞いて、剣崎はニコニコしていた。
すると、田所達が「んん?」とうなり、怪訝そうな目を向けてきた。
「あれ、ちょっと待てよ。夜も朝もカレーだったって……真由は晩御飯も作りに行ったわけ?」
「やだ、どんだけ仲がいいの? もうほとんど恋人同士なんじゃ……」
「そ、そんなんじゃないし! 夕飯にカレー作ってやったら余ったから朝ご飯や昼のお弁当にも使っただけ! 別に変な事ないだろ!」
「そ、そうそう。余っただけだよな」
剣崎と俺はかなり動揺していたが、どうにか平静を装う事に成功した。
田所達はニヤニヤしていたものの、さすがに剣崎が俺の家に泊ったとは思いもしなかった様子だった。
「……バレてなさそうだな」
「言わなきゃ分かんないって。とぼけとこうぜい」
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