うちの幼なじみはすべり台を破壊する! ~ガサツで小柄でツンデレな幼なじみとの付き合い方で苦悩する毎日の、俺~

之雪

第1話 幼なじみの理想と現実


「○○ちゃん、起きて、朝だよー」

「××か。勝手に人の部屋に入ってくるな。あと、ちゃん付けはやめろ」

「えー、いいじゃない、幼なじみなんだしー」

「いいわけあるか。お互い、もう子供じゃないんだし、少しは周りの目を気にして……」



 そこまで読んだところで、俺は本を閉じた。

 ここは学校の教室、現在は休み時間だ。

 最近、人気だというラブコメのコミックを読んでみたんだが……。


「くだらねえ。こんな幼なじみが存在するわけないだろ……」


 すると本の持ち主である川田が、俺に言った。


「フィクションにマジなツッコミ入れるなよ。ロマンが分からないヤツだなー」

「多少はリアリティがないと話に入っていけないだろ。同い年でかわいくてプロポーション抜群で優しくて面倒見のいい幼なじみが毎朝起こしに来るだと? 妄想も大概にしろ!」

「そのぐらい、幼なじみが出てくるラブコメのお約束だろ。いちいち文句言ってたらきりがないぜ」

「いや、でもな……」


 俺が渋い顔をしてみせると、川田はニヤッと笑って言った。


「大体、お前が文句言うのはおかしいだろ、永瀬よぉ」

「はあ? どういう意味だ」

「だってさあ、お前にはいるじゃん、幼なじみが。同い年の女の」

「!」


 コイツ、とうとうそれを言いやがったな?

 俺にとってはNGワードなのに。

 というか、幼なじみがいるからこそ、ああいう嘘くさい幼なじみの描写が許せないんだよな。


 川田に文句を言おうとしていると。

 そこへ、俺の頭を悩ませている元凶がやって来た。


「なにやってんだ、秋洋あきひろ

「……剣崎」


 コイツの名は、剣崎真由けんざきまゆ

 俺とは物心ついたばかりの頃からの顔見知りであり、俗に言う、幼なじみというヤツだ。

 高校生にしてはかなり小柄で背が低く、身長と反比例するように髪が長い。

 顔付きは幼く、ややつり目がちだが、割とかわいい部類に入ると思う。

 パッと見は、小柄で愛らしい美少女……に見えなくもない。


 だがコイツは、決してそういうタイプの女じゃない。

 それどころか、本当に女なのか、怪しいぐらいだ。


「男ばっか集まって、ニヤニヤしながら話して……さてはエロい話なんだろ?」

「違うって。俺はただ、リアリティのない漫画に文句を……」

「漫画? どれ、見せてみ」

「あっ」


 剣崎は俺から例の漫画を奪い取り、パラパラとページをめくって最初の方を読んでいた。

 俺に目を向け、ニヤリと笑って言う。


「同い年の幼なじみが毎朝起こしに来る、ねえ? こういうのがいいんだ、秋洋は?」

「い、いや、違うぞ? 俺はこんなのありえないって言ってたんだ」

「ふーん?」


 剣崎は少しだけ考える素振りを見せてから、俺に告げた。


「じゃあ、私がやってやろうか? あんたを起こしに行ってやるよ」

「は、はあ? なんでそうなるんだよ」

「本当はこういう事をしたいされたいって思ってるから、ありえないとか言ってるんだろ? 分かってるって!」

「ち、違う。俺は別に……」

「かわいそうだから私があんたの願望を叶えてあげよう! 優しい幼なじみがいてよかったな?」


 椅子に座った俺を見下ろし、ヘラヘラと笑う剣崎。

 それが優しい幼なじみがする表情か? 悪魔の微笑みにしか見えないぞ。


 剣崎は、なんというか、男子小学生みたいなヤツなんだ。

 小さい頃は近所のガキ大将だったし、小学校でも女子のボスみたいなポジションだった。

 中学生になると、さすがに多少は落ち着いていたみたいだが、それでも暴れ出すと手が付けられないので、全校生徒から危険人物として恐れられていた。

 そして、高校生になった現在では、以前よりはかなり大人しくなっている。

 普段の言動や行動を見る限り、中身はあんまり変わってないみたいだが。


「こら、秋洋! 優しい幼なじみがあんたの願望を叶えてやろうって言ってるんだから、もっと喜べよな!」

「俺はそんなの望んでないんだが。むしろ迷惑……」


 刹那、剣崎は左の拳をシュッと振るい、俺の鼻先でピタリと止めた。

 拳圧で顔の皮膚が波打ち、前髪がバサッと浮き上がる。


「なんか言った?」

「い、いえ……なんでもないです……」


 剣崎が拳を引き、俺は胸をなで下ろした。

 これだよ。ヤツが恐れられている理由は。

 コイツは恐ろしく手が早いのだ。相手に防御をさせる暇すら与えずに、プロボクサー顔負けのパンチを打ち込んでくる。

 嘘か本当か、確認するのも恐ろしいのでしていないが、握力は二〇〇キロ、パンチ力は二トンあるらしい。

 俺の握力は確か四〇キロぐらいだったか。実に俺の五倍の握力だ。

 ちっこい女のくせに、握力二〇〇キロのウルトラハードパンチャー。それが剣崎というヤツなのだ。


 そんな戦闘専門サイボーグみたいなヤツが幼なじみなんだからたまったもんじゃない。

 ラブコメ漫画に出てくるゆるふわな幼なじみ連中とは違いすぎて、文句の一つも言いたくなるというものだ。

 外見はロリロリした美少女なのに、中身は女らしさの欠片もない男っぽい性格で、暴れ出すと手が付けられない無法者。

 こんなのが幼なじみなんて、悪夢としか言いようがない。

 どうせならもっと、女らしくて優しくておっぱいの大きい幼なじみが欲しかったよな……。


「んー? なんか言った?」

「い、いえ、なんでもないです……」

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