第9話 攻撃魔法

「嘘……こんな所に家がある!」

「本当だわ!ランディもう少し頑張って!」


 庭から見ていると、その人達は僕の家の方へどんどん近づいて来た。でも、柵の所まで来て進めずに騒いでる。


「入れない!どうしてよ!!」

「これは……結界が施されているわ!」

「あ!ねえ、そこの僕?私達、怪我をして困っているの。少し中に入れて貰えないかしら?」


 結界……?神様の御守りみたいなやつかな?それであの時、森林オオカミも入って来れなかったのかな?


 その人達のお願いを聞いて僕は迷っていた。


 知らない人を家に入れるなんて、僕より小さい子供でもしないと思ったから。


 でも支えられてる男の人も、2人の女の人も怪我をしてるし…どうしよう…………。


「お願い!暫くの間でいいの!お金が必要なら滞在費は払うから!」

「………………分かった入ってもいいよ。お金はいらない。家には絶対に入らないで」

「「分かったわ!ありがとう!」」


 寒くないし庭で大丈夫だよね?きっと魔物も入って来られないし、その間に男の人を回復魔法で治して、そうしたら出てもらおう。

 知らない人達がいるから、しばらくはシドと庭で遊べないな。


 僕が『いいよ』って言ったら、その人達は庭に入って来れたみたい。


 それを見てから、僕はシドを抱っこして家の中に戻った。


 はぁ〜びっくりした……魔物じゃなかったけど外国人の人達だったよ。髪と目の色が黒じゃなかったし、でも日本語は上手だったな。


 その日はそのまま家の中で過ごして、日課のお掃除をしてからシドと一緒に眠った。



□ □ □ □ □



 次の朝、いつもと同じ様に起きてご飯を食べた。その後、図書室で本を読んでいると、玄関ドアをノックする音が聞こえて来た。


 昨日の人達かな?何の用だろう?


「………はい、なんですか?」

「あ!昨日はありがとう!もう1つお願いがあってね、出来れば食料を分けて欲しいの。パンだけでも助かるんだけど……どうかしら?」


 パンか……それ位ならいいかな?明日になれば元に戻るし、お腹が減ってたら力が出ないもんね。


 僕は台所からパンを3つ持って、玄関のドアを開けた。


「……はい。これでいっ!!」


 パンを差し出したら、急に手を掴まれて、僕は庭へ引き出されてしまった!

 そのまま勢い良くパンと一緒にゴロゴロと転がり、背中を強く打った。呼吸が出来なくなって苦しい!僕は急いで『ヒール』を自分にかけた。


 痛くて涙が滲んで来る。しばらくそのままの態勢でいると、玄関からシドが駆けてくるのが見えた。


「何だこの猫は?邪魔だ!どけ!!」

「ギニャッ!!」


 昨日は顔が見えなかった男の人が、シドを見つけて蹴り上げた。小さなシドは、男の人に蹴られて柵の近くまで飛ばされてしまった!

 どうして?!何でシドを蹴ったんだよ!!


 蹴り飛ばされたシドの元へと這って行く途中で、僕は髪を鷲掴みにされてそのまま持ち上げられた。足が宙に浮いて、掴まれた髪がブチブチと音を立てて抜けてる。


「おお、ボウズ。昨日は結界の中に入れてくれてありがとうな!……でもよ、怪我人を庭に放置はいけないなぁ……そうだろ?」

「……………………」


 男の人の後ろで、女の人達が笑ってる。


 僕は失敗したんだ。この人達は悪い人だった。やっぱり入れちゃいけなかったんだ!


 それより早くシドを治してあげなきゃ!


「ここの家は今日から俺達が使ってやるよ!クソガキは外で寝てな!」

「…………………………『アイスランス』」


 僕は攻撃魔法を唱えた。人に向けて。


 魔法が当たった男の人は、僕の髪から手を離し、自分の胸を見る。氷の塊が胸に刺さっていた。


「ここから出て行け!!!」


 僕がそう言うと、3人共に柵の外へと弾き飛ばされて行った。それを確認してシドの元へと走った。


 僕はバカだ!!……シド!!

 横たわっているシドをそっと抱き、僕は急いで魔法を掛けた。


「『ヒール』!『ヒール』!『ヒール』!!シド!お願い目を開けてっ!『ヒール』!」

「…………ニャ……」

「シド!!」


 良かった……良かったよぉ。シドごめんね。僕が守ってあげるって言ったのに。僕がバカだから……悪い人達を入れちゃったから……。

 シドに痛い思いをさせちゃったよ。ごめんね……。


 シドが腕の中でゴロゴロとし始めて、僕はやっと安心出来た。それから暫くシドを撫でて追加でヒールを何度か掛けておいた。

 本当にもう大丈夫?痛いのは無くなってる?


 撫でながら何度も大丈夫?ってシドに聞いた。そうしたら『ニャッ!』って鳴いて頭をグリグリと擦り付けてきた。

 

 涙がボタボタ落ちた。


 ここは神様がくれた僕の家だ。シドは僕の大切な友達だ。一緒にもっと大きくなって、僕はシドをちゃんと守れる様に強くなるんだ!


 柵の外でキーキーと女の人達が喚いてる。

 玄関まで戻ってから振り返り、僕は魔法を唱えた。


「『アイシクルレイン』」


 ………やっと静かになった。お母さんみたいなうるさい人だった。明日にはいなくなってるといいな。



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