第50話 強襲

「そして私はここに宣言をする。私はソニア嬢の提案を受け入れ、同盟を結ぼうと思う!!」


 グルーセシアの演説と共に巻き起こる割れんばかりの拍手。

 誰しも平和が一番だと思っているんだろうな。

 俺だって平和な国に生まれ育ったから、出来る事なら戦いたくはない。

 でもこの世界は命が軽い。

 その為に戦わなくてはならないなら、それは仕方のない事なんだろうな。

 そう言い聞かせてきた。

 だからこそこうして戦争をしないという決断をすることは簡単ではないと思った。


「ありがとうございます、グルーセシア様。我が国はこの総領地を同盟領とし、これからの平和的発展を願います。」


 グルーセシアの宣言に答えるように、ソニアが礼を述べた。

 ただ前提条件としてソニアが即位したらって話なんだけど、二人の間ではそうなることで一致したようだった。


「今宵はめでたい席。皆楽しんでいってほしい!!乾杯!!」

「「「「「乾杯!!」」」」」


 会場中から歓喜の声が上がる。

 こうやって他の領地も周り、一つ一つ頭を下げて回る。

 ソニアのやろうとしていることは、簡単ではないんだろうな。

 俺にはそれが分からないが、出来る事ならソニアの力になりたいと新ためて思った。




「グルーセシア様!!」

「何事だ!!パーティーの最中であるぞ!!」


 突然会場の入り口ドアが開け放たれる。

 そこに会わられたのは息を切らせている騎士だった。

 あまりにも緊迫した声と様子で、ただ事ではないことが伝わってきた。

 近くで話を聞いていた人から動揺が漏れ伝わり、会場を動揺が包むまでそれほど時間は必要としなかった。


「火急の知らせ故、無作法をお許しください。只今総領都東側に賊軍が襲撃。現在交戦中であります!!」

「なんだと⁈その賊とはどこの勢力だ!!」


 グルーセシアはその騎士を問い詰めようと、近づく。

 あまりにも無警戒に近づくもんだから護衛騎士が一瞬対応が遅れてしまった。


「目の前の俺だ!!」


 グルーセシアと騎士の身体が交差する。

 騎士の剣はグルーセシアに向けられていた。

 護衛が機能せず、無防備な状態のグルーセシアにその狂剣が振るわれる。


「グルーセシア様!!」


 護衛騎士の声が会場に木霊するが、俺たちはさして問題だと思っていなかった。

 その狂剣がグルーセシアに届くことは無かった。

 光の板に阻まれ、びくともしなかったからだ。


「さすがリリー。展開が早いな。」

「そりゃね、あれだけ殺気を出していれば攻撃しますって言っているようなものじゃない?」


 リリーが発動した防壁魔法は問題なく機能していた。

 しかもその魔法も料理を食べながらの片手間作業クラス。

 そのミスマッチな光景に襲撃者も唖然としていた。

 これががんばって魔法を発動させていますって感じだったらまだ違っていたんだろうが……

 まぁ、リリーだしな。


「くそ!!どうなってやがる!!話が違うじゃないか!!」


 狼狽える襲撃者をよそに、続々と兵士が会場に集まってきた。

 これが味方なのか敵なのかは今の段階で確証が持てない。

 さて、どうしたものかな。


「これはこれは……閣下、ご機嫌……よろしくはなさそうですね。」

「今更現れて何の用だ、オグニス。」


 なだれ込んできた兵士と共に一人の男が姿を現す。

 180cmくらいの身長で、大柄だが……いかんせん体格が。

 昨日見た油塊もそうだったけど、運動嫌いが多いのかこの国は。

 気道を圧迫されているからか、呼吸するたびにブヒーブヒ聞こえてくるのが、緊迫感を損なわせてくれる。


「何用とは……言わなくてもわかるでしょう?売国奴を始末しに来たのですよ。」


 にたりと笑うオグニス。

 その笑みはあの油塊を連想させる。

 オグニスが片手をあげると、なだれ込んできた兵士たちが一斉に武器を構える。

 一触即発の状況……なのに俺たちの態度はいたって変わらなかった。

 リリーに至っては今だ食事中だった。


「かかれ!!」


 オグニスが手を下ろすと、一斉に動き出す兵士たち。

 そして次々に拘束されていく貴族連中。

 その中に……グルーセシアは含まれていなかった。


 うん、そんな気がしてた。

 だって、兵士たちに敵愾心はなく、むしろ来賓の中に数名焦りの色を浮かべていた人物が含まれていたから。


「全く、君を囮にして敵を炙り出すとか、正気の沙汰じゃないからね?」

「すまないなオグニス。だが、到着が予定より遅かったのは事実だろうに。」


 二人の会話からすると、この襲撃はある程度予測されていたものだったようだ。

 むしろそうなるように仕組まれていた、とさえ思える。


「それは仕方がないよ。私は動くのが苦手なんだから。」

「少しは痩せたらどうだ?」


 そう言ってオグニスはグルーセシアの手を取り、床に膝を着いていたグルーセシアを引っ張り上げる。

 グルーセシアは自身に付いたホコリを手で払い、崩れた衣装を軽く整える。

 なんだかまた巻き込まれた感が半端ないな。

 ただこの夜会に俺たちを招待する必要はあったのか?

 

「巻き込んでしまってすまない。ソニア嬢に万が一のことが起こらぬように、貴殿たちを招待させてもらった。」


 グルーセシアとオグニスは二人そろって俺たちに頭を下げた。

 どうやら身内の膿み出しが目的だったようだな。

 それも一応は成功したとみていいのかもしれないな。

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