第46話 夜会の準備

「3日ぶりですね。」

「ソニアも元気そう……ってわけじゃないみたいだな。」


 どうやら感動の再会とはいかなかったようだ。

 ソニアは元気がなく、どことなくやつれて見えた。

 普段であれば毛並みの良い尻尾も鳴りを潜め、幾分か垂れ下がっていた。

 耳も同様にペソりとしており、この三日間であまり良い出来事は無かったように思えた。


 


 時間は今日の昼過ぎにさかのぼる。

 

 あの肉塊とのトラブルがあった日から俺たちは何事もなくこの街で過ごしていた。

 流石に路銀に困ることは無かったものの、ただ待機していても身体がなまってしまう。

 特にリルが……

 それはもう盛大にひまひまコールをされてしまった。

 ということもあり、狩猟者連合協同組合ハンターギルドで適当な依頼を受けて、それをこなす日々だった。


 俺たちが依頼から帰ると、狩猟者連合協同組合ハンターギルドにソニアの使いの者が待っていた。

 使いの者は総領主の部下であり、ソニアの警護担当なのだとか。


 彼はソニアからの手紙を預かっており、その手紙には明日総領都領主館で開かれるパーティーに参加してほしいとのことだった。

 流石にドレスコードなどが分からず、服装にも無頓着な俺はそう言ったパーティーに着る物が無かった。 

 さてどうしたものかと考えていると、その男性がもう一つの手紙を俺に渡してきた。

 それはリグリット師団長からのものだった。

 おそらく俺が服がなく困っているだろうと、先回りをしてくれていた。

 この手紙によればその店である程度の服はそろえることは可能だとか。

 貴族相手でも問題ない物を取り揃えているんだそうだ。

 そうなれば迷う必要もないので、その手紙を頼りにその店に行ってみることにした。




 商店街ではなく、少し脇道に入ったあたりにその店はあった。

 店の名前は【  】。

 そう、看板にも案内板にも【  】と書かれていた。

 俺は手紙にもそう書かれていたが、半信半疑だった。

 そう、この店には名前が無い。

 ただ空白がそこにあるってだけだった。

 店の特徴である、店構えの説明を聞いていなかったら疑ってかかっていたに違いない。

 

 恐る恐る俺たちは中に入る。

 気品漂う店内は、どこか場違い感が半端なかった。


「いらっしゃいませ。」


 店員と思しき男性が、店の奥から姿を見せる。

 70代くらいだろうか、白髪で細身の男性は品の良い黒のジャケットに身を包んでいる。

 その動きの端々から気品が漂っていて、俺の場違い感がさらに浮き彫りになってきた。


「すみません、リグリット師団長の紹介できたのですが。」


 若干雰囲気に飲まれ気味になってしまって手が震えそうだった。

 もらった手紙をその男性に手渡すと、男性はじっくりと中身を確認していた。


「はい、確かに。お話は伺っております。私はこの店の店主クロードと申します。今後ともよろしくお願いいたします。それでは、明日に必要とのことでしたので、既製品を手直しいたしましょう。」


 そう言ってクロードさんは手を打つと、店の奥から女性店員が2名姿を見せる。

 女性店員に連れられるようにしてリルとリリーは店の奥に進んでいった。

 さすがに見える場所での女性の試着は憚られるから、気遣いってやつなんだろうな。


「ではリクト様はこちらへ。今回の夜会は身内を中心としたものとお伺いしておりますので、それほど格式ばったものでなくても問題無いでしょう。」


 そう言ってクロードさんは数着俺に見せてくれた。

 どれもこれも俺が今まで着たことのないような洋服で、さすがに気恥ずかしさを覚えた。


 それから俺はクロードさんの着せ替え人形と化し、靴やハンカチ、小物に至るまでコーディネートされていく。

 さすがに派手なのはやめてほしいと懇願したところ、なんとなくテンションが下がったところを見ると、仕事モードとプライベートにかなりギャップがある人なんじゃなかろうかと思ってしまった。



「主殿……助けてほしいのだが……」


 俺の着せ替え人形化が終わるころ、よろよろとした足取りでリルが姿をあらわした。

 銀色の髪に会うように、青を中心としたドレスのコーディネート。

 元が美少女だけあり、そのドレスの華やかさに負けない可愛らしさがあった。


「リル、似合ってるじゃないか。」

「我はこのような動きにくい服装は好まん!!」


 普段から格闘戦主体で戦っているリルだけあり、ひらひらしたドレスはお気に召さなかったらしい。

 足元もブーツからヒールに履き替えており、歩きづらそうであった。

 ただ、身体能力が元から高いためか、転ぶようなことは無かったけど。


「リル様……まだお召し替えがありますからこちらへ……」


 奥から出てきた店員に捕まり、そのまままた奥に連れされれるリル。

 さすがに今回は助け船を出せないから、がんばってくれと心の中で祈った。


「リル様もなかなかお美しい。化粧などをすればさらに磨きがかかるでしょうな。」

「なんだかんだ言っても美少女だしね。」


 リルが去っていった先を見つめながら、苦笑いを浮かべるしかなかった。

 がんばれリル!!



「陸翔終わったわよぉ~。」


 リルより先にリリーが着替えを終えてやってきた。

 

「早かったね。もう少しかかると思ってたよ。」

「ほら、私のって特注でしょ?で、採寸とデザインを決めて明日の昼には準備してくれるって。」


 なんか迷惑かけてしまったかもしれないな。

 リリーの場合人形店に行った方がよかったかもしれない。


「じゃあ、かなり急がせてしまったみたいですね。」

「問題ありませんとも。リリー様もサイズですとそれほど時間はかかりません。明日来ていただいて、最終調整をすれば問題無いでしょう。もちろんリクト様の手直しも終わらせておきますので、ご心配なさらずに。」


 クロードさんたちはほんとプロフェッショナルだよなって思えるな。

 客を前にして余裕の笑みを崩すことは無かった。

 それだけ自信があるんだろうね。


 こうしてリルの帰りを待ち、俺たちはクロードさんの店を後にしたのだった。

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