第5話 純潔の処女
「ちょ、ちょっと待ってください! 売られたって、どういうことですか!?」
「文字通りの意味だよ。嫁がせるというのは名目で、君は教会に売られたんだ」
私が、売られた……? 教会に……?
「そ、そんなの、あり得ません! 聖女教……、いえ、この国は、人身売買を禁忌としているハズです!」
この国――ステラには、奴隷制度が存在しない。
それ以外の人身売買も固く禁じられている。
これは人権を認められていない亜人種に対しても適応される、厳密なルールだ。
それを、この国の中枢機関である教会が破るなんて、あってはならない。
「だから、表向きは嫁がせるという形式を取っている。しかし、実際には金銭のやり取りで嫁ぎ先を決めているんだ。買った私が言うのだから間違いない」
……実際に買ったのだと言われてしまうと、否定のしようがない気がする。
「でも……、そんな……」
「信じたくない気持ちもわかるよ。だが、この国の闇は相当に深い。そのことについて説明しよう」
ウラヌス卿は組んだ足を解き、両膝に肘を乗せ、組んだ手の上に顎を乗せる。
その表情は真剣そのものだ。
「聖女学校には、聖女になる条件さえ満たしていれば身分を問わず入ることができる。平民出身の君なら当然知っているね?」
「は、はい」
聖女学校に入るためには、いくつか条件がある。
まず第一に女であること、12歳以下であること、そして最後に、一定レベル以上の回復魔術を発現していることが条件となる。
実はここにもう一つ……、純潔であることが加わるのだけど、12歳以下という条件の時点で普通はクリアされているので、あってないようなものとして扱われている。
条件さえ満たしていれば、たとえ平民であっても聖女学校に入学することが可能だ。
それも、学費は免除されるため、少額の入学金さえ用意できれば金銭面の負担も少ない。
私の場合、村の病院のお手伝いで稼いだお金があったので、何の問題もなく入学することができた。
「入学条件を満たす者はそう多くないが、国中から集めればそれなりの数にはなる。実際、君の他にも平民の生徒は何人かいただろう?」
「はい、同学年では私を含め4人、他の学年も含めるともっといたと思います」
私が把握している限り、同学年の平民は10人以上いたハズだ。
過酷なイジメに耐えられず、最終的に4人にまで減ったけど……
「ふむ、思ったよりも少ないね。この地域の聖女学校は、平民にとって厳しい環境だったということかな」
「……その言い方ですと、他の地域ではそうじゃないんですか?」
「皇都に近い地域だと、生徒の管理が行き届いているからイジメや差別は少ないと聞いている」
そうだったんだ……
サザンクロス大聖堂において、平民は私と同期のルシオラくらいしかいなかった。
それだけ平民が聖女学校で生き残るのは難しいのだと思っていたけど、実際はそうでもなかったようだ。
「君の通っていた聖女学校は平民が少なかったようだが、皇都近辺の聖女学校では学年ごとに平均して20名以上の平民がいる。そして、毎年5人ほど平民が聖女となっている」
「え、そんなに……?」
私の通っていた聖女学校では、毎年5人の生徒が聖女に選ばれる。
この人数は聖女学校の規模により変動するため、皇都近辺の聖女学校では10人以上選ばれることもあるらしい。
しかし、だからといって平民から5人以上も選ばれるだなんて、正直信じられない。
今年はウチの聖女学校からも私とルシオラが聖女に選ばれているので、比率的にはあまり変わらないけど……
「そうは思えないだろう? しかし、実際は平民の聖女はかなりの数いるんだ。……表に出ないだけでね」
「それは……、私のように貴族様に嫁がされているから、ですか?」
「半分は正解だ。嫁ぐ、または養子になることで貴族となり、元平民とはわからなくなっているというケースもある」
「ということは、もう半分は別のケースになるということ、ですよね?」
「そうだ。一つ確認だが、君は処女かな?」
「っ!?」
こ、この人は、一体何を聞いて!?
そんなこと、答えられるワケ……いや、答えるまでもないというか……
「偽っているという可能性もあるだろう? 正直に答えれくれ」
「……私は、聖女です。純潔の、
「そう、純潔は聖女たる資格だ。さて、では問うが……、妻として娶られた聖女が、その純潔を保てていると思うかね?」
「っ!? そ、それは、聖女として娶られたのですから、そこは配慮されるんじゃ……」
「配慮はされない。何故ならば、そのために高い金額を払って買い取っているからだ」
私は無意識のうちに、
しかし、一度意識すると体が強張ってくる。
「これがもう半分の理由だ。聖女は買い取られ、その純潔を散らすことで聖女の資格をはく奪される。恐らく君の名前も、既に教会の名簿からは抹消されているだろう」
そう言ってからウラヌス卿は腰を上げ、私の隣に座る。
「君の立場を、理解したかい?」
私はその言葉に反応できず、ただ震えて
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