8.エリート探索者、円城ユウトの没落 その1: 僕は役立たずを追い出しただけなのに!?



 僕の名前は円城ユウト。17歳。

 僕は知っている。

 僕こそが、この世界の主人公なのだと。

 

 没落中の日本では珍しく、僕は資産家の家に生まれた。

 両親は僕に甘く、欲しいものは何でも買ってもらえた。

 それだけでも勝ち組なのだが、僕に与えられたものはそれだけではなかったのだ。

 僕は類いまれなダンジョン適応度を持っていた。

 数値にして500以上。

 一般的な探索者が100ということを考えれば、その差は歴然。


「す、すごい! 円城君、君は我が国の宝だ!」


 適応度を計った時、検査官にそう言われたのを覚えている。

 ダンジョン適応度500は世界ランキングでもトップクラスに位置する。


 常人はダンジョンに入れば魔素にやられて動けなくなるが、僕は違う。

 ダンジョンの中ではむしろ常人離れした動きができるのだ。

 僕の拳は岩を割り、剣を持てば魔物を切り刻むことができた。


 しかも、僕に与えられたスキル、「テイム」は人類で唯一のものだった。


 初めて潜った探索では怒り狂う竜種の群れをなだめ、僕の眷属にすることができた。

 難攻不落の秋葉原ダンジョンを攻略したときには、一晩にして英雄になった。

 僕はダンジョン探索のための高校に特待生として迎え入れられ、将来のエース、人類の救世主として最大限の待遇を約束された。


『円城くん、かっこよすぎ!』


『アイツこそが、本物の英雄だよ!』


 女子も男子も僕の魅力に圧倒され、口々に賞賛した。

 ダンジョン配信を始めた僕は瞬く間に巨額の富と名声を手に入れた。

 人々は僕を称賛し、僕の名前を叫んだ。


 富、名声、力…すべてが僕の手の中にある。


 僕は思う、僕こそがこの世界の主人公なのだと!!


 



「ひぃひぃ、すみません」

 

 僕が成功するに従って怒りを感じることも増えた。

 その一つが、高校二年生になって僕に振り分けられたパーティメンバーだ。

 その名は入谷イリア、小太りの女だ。

 学校から、あいつを押し付けられたのは本当に苦痛だった。

 パーティに加入する時には普通の体型だったのだが、探索を続けるうちに太っていった。

 食事係を引き受けていたから、つまみ食いでもしていたのだろうか。

 戦闘力もなく、回避しかできないクズ。

 正直、僕のパーティにはふさわしくない。


「円城先輩、もっとペースを遅くしてください! イリアが参ってしまいます!」


「イリア、大丈夫か? あたしに捕まるか?」


「あ、ありがとう。頑張る……」


 それなのに、僕のパーティメンバーである蔵前姉妹は彼女のことをやたらとかばう。

 たかが料理係で、替えはたくさんいるというのに。

 無能なくせにイライラする。


 それにあの女は僕を完全に舐めている振る舞いをしたのだ。

 ダンジョンの中で食事をしていたときのことだ、僕はあの女に言われたのだ。


「円城先輩、ピーマンは苦手ですか?」


 その時、僕は嫌いなピーマンを残そうと、皿の隅に移動させていた。


「ぐ……」


 図星を突かれた僕は何も言い返せない。

 ピーマンは食べられないこともないが、風味が嫌いだ。

 くそが、なんでカレーにピーマンなんか入れるんだよ。


「円城パイセン、ピーマン食べられないとかマジ? ダンジョン内で好き嫌い発動?」


「こらこら、モナカ、口が悪いですよ。円城先輩がピーマンを食べられないわけないじゃないですか、子どもじゃないんですから。ねぇ、食べられますよねぇ?」


 しかも、蔵前姉妹が僕のことを煽ってくる。

 姉妹は双子で、粗暴なのが蔵前モナカ、丁寧な口調の癖にトゲがあるのが蔵前アズキだ。

 二人とも外見はいいが、アメリカ帰りらしく自分の思ったことをズバズバ言う。

 それでも探索者として優秀だったので、その実力は僕自身、認めていた。


「くそったれ」


 腹が立った僕は無言のまま、ピーマン入りのカレーを飲み込んだ。

 苦くて大嫌いだ。

 僕のママならこんな料理は作らないっていうのに。


 くそ、くそ、くそが。

 そもそも、パーティーリーダーは僕なのだ。

 ただの食事係が僕を蔑ろにしていいはずがない。

 それなのに学園側は完全にお荷物の入谷イリアをねじ込んできた。

 こいつさえいなければ、蔵前姉妹の意識は僕だけに向かったはず。

 僕はハーレムを失ってしまったのだ、この無能のせいで。


 それにこの入谷イリアは少し気味が悪い。

 モンスターの死骸を勿体なさそうにいつも見ているのだ。

 「ここのお肉美味しそうですねぇ」なんて悪趣味なことを言いながら。

 面白くもなんともない!

 人間はモンスターの肉を食うと中毒死するのだ。

 まったく、こういう頭の悪い女は大嫌いだ。


 だから僕は奴をパーティから追い出した。

 あんなやつ、いなくていい。

 僕は僕のためのだけのメンバーがほしい。



「はぁ? イリアを追放だ!? 円城パイセン、ふざけんなよ!」


「円城先輩、本気で言ってるんですか!?」


 入谷イリアを追放して数日後のことだ。

 企業の仕事から帰ってきた蔵前姉妹に事の顛末を伝える。

 すると、彼女たちは口々に抗議の声をあげるではないか。


「当然だ。あんなのは完全に足手まといだったじゃないか。あんなのがいたんじゃ、高みを目指せない。雑魚に固執するなんてバカバカしい」


 彼女たちの反応に面喰ってしまう。

 蔵前姉妹は僕ほどではないが、優れた探索者だ。プロライセンスも持っている。

 それなのに、あの足手まといをかばうことが理解できない。


「バカはテメーだろうが! イリアあってのパーティだろ! 飯はどうすんだよぉ!?」


「そうですよ!」


「食料なんか買っていけばいいじゃないか! バカなことを」


「はぁ……。ダメだ、こいつ。イリアの食事がないなら、あんたと探索なんかできねぇわ」


「私もです。イリアさんがいないんなら、私、やめます!」


「な、何を言ってるんだ!? 僕のパーティを辞めるだと!? 学園ナンバーワンの僕のパーティを?」


「何がナンバーワンだよ。あんたの功績作りにつきあうのはこりごりなんだわ!」


羅桃ルオタオと勝手にやっててください! 料理もご自分で作ることですね!」


 口論の末、二人は部屋から勢いよく出ていく。

 残された僕はぽかんと口を開けるだけだ。

 何を言ってるんだ、あいつらは!?

 僕を誰だと思っている?

 僕は選ばれた人間なんだぞ、ダンジョン適応度だって500以上あるんだ。

 怒りのあまり机を思い切り殴ってしまう。


「許せない! 雑魚が僕のことをコケにしやがって!」


「あの二人、円城先輩を舐めてるネ! そうだ! 財閥企業のパーティからも締め出した方がいいネ」


「そうだ、そうしよう! 解雇されてむせび泣けばいいさ!」


 羅桃ルオタオが素晴らしい仕返しを提案してくれる。

 蔵前姉妹はもともと僕がチームリーダーを務める、財閥企業の探索パーティにも所属しているのだ。

 一握りの優秀な探索者だけが所属できる日本最高峰のパーティだ。

 報酬も莫大で、何万人もの探索者がそのポストを狙っている。


 僕のパーティの人事権は僕が持っている。

 僕が企業に働きかければ、その瞬間に、あいつらは無職になる!


「ありがとう、羅桃ルオタオ。君のおかげで、胸がすっきりしたよ」


「えへへ。円城先輩のために羅桃ルオタオ、頑張るネ! 事務仕事も雑用もやるよ。お料理も私が用意するから心配ご無用ネ」


「おぉ、そりゃ、ありがたい。嬉しいよ!」


 中国からの留学生である羅桃ルオタオは非常に優秀な探索者だ。

 年は僕よりも下だが、根が素直で好感が持てる。

 桃色の髪の毛も素晴らしくかわいい。


 彼女がいれば、別に蔵前姉妹がいなくてもどうとでもなる。

 まぁ、僕の操る魔物がいれば、怖いものなんて何もないんだけど。


「円城先輩、今まで秘密にしていたことがあるのネ。実は……」


「ほ、本当なのかい!?」


 僕は目を見張ってしまう。 

 羅桃ルオタオの伝えてきた話が本当なら、僕は無限の力を手に入れられることになる。

 蔵前姉妹がいなくなり、少しだけ意気消沈したけれど、運は僕を見捨てていなかったのだ。




−−−あとがき−−−



やっとこさ一部を書き終わりました。


円城先輩が徐々に没落しそうな気配がします。


ここまでお読み頂きありがとうございます。


ぜひぜひ、☆で評価を頂けたら幸いです。







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