第18話 時間旅行の計画
春休み期間中、
春休み中、大輝と
もちろんその分、大輝と星那は毎日欠かさずLINEのやり取りをし、また時折電話をするなどして二人の時間を楽しんだ。
そんな大輝にとって最後となるであろう春休みは穏やかに過ぎ、4月8日の入学式。始業式を経て、12日金曜日、満を持して星那が演劇部に入部してきた。
これまで何度か繰り返してきた場面であったが、今回は違和感なくすんなりと星那の「幸恵」役が決まった。
4月12日と言えば、二人にとって過去2回、不可思議なループを経験した日でもあった。その原因は不明のままだが、藪蛇になるのも嫌なので、二人はこの日の接触を避けた。
そんな予定調和の穏やかな日々に変化が訪れたのが、翌13日、土曜日の夕方の事だった。
【会長のお姉さんとコンタクトがとれそうです。お姉さんは今、埼玉に住んでいるらしいのですが、さすがにこっちに来ることは難しいですかね?】
大輝は驚いた。もちろんすぐにでも行きたい思いはあるが、現実はなかなか難しい。
取り合えず、美里さんにはお礼を述べて検討する旨を伝えたのち、星那に連絡を取った。
★ ★ ★
翌日の午後、大輝と星那は部室にいた。部室には二人のほかに部員はいない。星那も正式に部員となったため、今までの様にコソコソする必要もなかった。
大輝は改めて、美里さんから伺った内容を星那に話した。
「直接会ってお話を伺いたいのはヤマヤマだけどさ、さすがに埼玉は遠いよね」
大輝の話を一通り着た星那は、机に突っ伏しながらそう言った。
「せめて道内だったらよかったんだけど……」
「埼玉に行くお金もないしね」
星那がそう言うと、大輝はふと思いついた。
「金なら何とかならんことも無いけど……」
「え? 大輝、そんなにお金持ってるの?」
星那は驚いて起き上がる。
「いや、そういう訳じゃなくて……」
大輝は以前、タイムリープのお陰で当せん番号がわかっている宝くじを購入した経験を伝えた。
「それ、ナイスアイディアじゃん!」
星那はそういって表情を明るくするが、大輝はあまり乗り気じゃなかった。
「なんかさ、そんなんで大金をせしめるのも気が引けるよな」
「でもさ、その後もう一度タイムリープすれば、なかったことになるじゃん!」
「そりゃまぁ、そうだけど……」
お金のこと以外にも、大輝は引っかかることがあった。
「折角、今回が『最終回』だと思って気合い入れて、しかも変なところでタイムリープしない様に今までやってきたじゃん。星那はまたタイムリープすることに反対じゃないのか?」
しかし、星那はもう一度タイムリープすることにすっかり前向きだ。
「でもさ、健太の想いを知れる最後のチャンスだよ!」
「まぁな……」
「きっとさ、その宝くじのエピソードってさ、そのためにお金を使って言うメッセージなのかもしれないよ?」
そういって星那は浮かれながら早速作戦を立て始めた。
――宝くじを当てて埼玉に行く。
ただそれだけの事ではあるが、背景に色々な事情が絡んでいるため、綿密に計画を立てる必要があった。
まず、大輝が宝くじの当せん金を獲得するには「離脱」だ必要だ。これは、宝くじの当せんと言う現象が「1回目」とは異なり、タイムリープのトリガーとなるからだ。折角宝くじが当たっても、翌日タイムリープしちゃうのでは意味がない。
次に、健太のお姉さんとの接触には、美里さんと出会う必要がある。そのためには前回同様、一度引っ越し前の佐倉家を訪問し、おばあさんに美里さんを紹介してもらった後、引っ越しの日に美里さんにお会いするという手順を踏まなくてはならない。
そして最後に、「離脱」したままだと、「想いよ、届け」を上演するストーリに結びつかないので、元のストーリーにリセットするため、もう一度タイムリープを行う必要がある。これには
これらのプロセスの歯車が1つでも狂ったら、この作戦は成功しない。ミスの無いように星那がカレンダーに想定するスケジュールを書き込み、チェックをしていく。
この計画は、最後にタイムリープし再び3月22日からやり直さなければならないので、都合2か月以上かかる、気の遠くなるようなプロジェクトだ。
「なんかさ、考えただけでもうんざりするな」
「でもさ、やるっきゃないよね」
壮大な時間旅行を前に、星那は意気込んでいた。
「星那は、これだけの時間をまた繰り返すのに、随分とご機嫌だな」
大輝がそう言うと、星那は笑顔で答える。
「だって、大輝とお泊りデートできるんだよ~!」
そんな星那の発言を聞いて、大輝が俄然やる気を出したのは言うまでもない。
計画を実行するには、まずはタイムリープをする必要があるため、「今回」は埼玉に行くことが出来ない。美里さんには残念ながらお断りの連絡を入れた。
翌15日、月曜日。
今日から演劇部では役者の「半立ち稽古」が始まった。いつものように部長がビデオカメラで撮影を開始しようとすると言った。
「あ、ごめん、SDカードのメモリがいっぱいだ。消去するからちょっと待って」
――そういえばそんなこともあったっけ。
大輝は以前、イライラを部長にぶつけたことがあったが、今日は穏やかに準備が整うのを待つ。
その日の部活終了後、大輝は星那に呼ばれ、誰もいない空き教室に入った。教室のドアを閉めると、星那は目を輝かせて言う。
「4月12日のタイムリープの原因が分かったよ!」
「ホントか? 原因は何だった?」
「ビデオカメラ!」
「ビデオカメラ?」
大輝は首をかしげる。
「そう。12日、ボクたち1年生が演劇部に入って来た日、先輩たちが模擬稽古をしてくれたじゃん?」
「あぁ」
「その時に、いつもの稽古みたいにビデオ撮って、『こうやって役者自身も自分の演技を確認するんですよ~』って」
「そうだな。それがどうかしたのか?」
「そのビデオカメラが、ずっと録画しっぱなしだったんだよ! それで、今日、メモリーがいっぱいだってこと」
「……っていうこは、俺が星那に告った時の場面もビデオに撮られて、部長に見られたってことか?」
「まぁ、そう言うことになっちゃうよね」
「最悪じゃん!!」
大輝は俄然、慌てる。
「まぁ、誰の記憶にも残ってないとは思うけど」
「それはそうだけどさぁ……」
大輝は赤面する。
「2回目も、あれか? 確か生徒会の話をしたんだよな。それは何が悪かったのか?」
「う~ん、タイムリープの話をするのが禁忌なのか、それとも……」
「それとも?」
大輝は星那に先を促す。
「なんかさ、今までの経験から、1回目のストーリーを変えるようなことをするとダメだったじゃん?」
「あぁ、そうだな」
「ボクさ、実は大輝に言ってなかったことがあって……」
そう一視線を逸らす星那に、大輝は俄かに緊張する。
「言ってなかったこと? な、なんだ?」
大輝は固唾を呑んで続きを待った。
「実はさ、7月6日の上演が終わった後、ボクさ、毎回、
「え? あ、そうだったのか」
陽太は星那と同じ1年生の演劇部員だ。大輝は予想だにしない答えに、どう反応していいか困った。
「だからさ、ボクと大輝が今付き合ってることがバレたら、ストーリーが変わっちゃうのさ」
大輝は驚いた。
「ってことは、『1回目』のストーリーだと、星那と陽太は付き合うのか?」
「いや、1回目からボクはお断りしてたから、それは問題ないんだけど、多分『陽太がボクに告るって』いうストーリーが無くなっちゃうんだと思う」
「……なるほどな。俺は星那と付き合っちゃいけない運命かと思って焦ったよ」
そう言って安堵のため息を漏らす大輝に星那は笑って言った。
「もしそうだとしたら、ボクと大輝が付き合った時点でタイムリープしてるって。付き合うのが許されても公表することが許されないのは、そのせいだよ」
「なるほどな。それにしても陽太のやつ、そんな目で星那の事見てたのか」
「そんな言い方したら、いくら何でも陽太がかわいそうだよ。だって、大輝はむしろ、『1回目』はボクの事、好きじゃなかったんでしょ?」
「そんなこと……」
「え? 実際どうだったの?」
星那は興味津々の瞳で大輝の答えを待つ。
「まぁ、星那の事、気になっていないわけではなかったけどさ。でもあの時はもう部活も引退だし、俺なんかと付き合ってくれるわけないよなって思ってたな」
「そうなんだ」
「星那は?」
「ボクもまぁ、おんなじ感じかな。急に『桜』役をやることになって、大輝と急接近して、だから実は『1回目』の終わりから大輝の事好きだった。それで陽太の事も断ったんだけどさ。でももう大輝は部活引退しちゃうし、ボクみたいな1年生の女子なんか相手にしてくれないだろうなって思ってたかな」
「あれ? 俺って『1年の女子なんか相手にしない』みたいな、そんなクールな感じに見えた?」
大輝が笑いながら言うと、星那も笑う。
「うん、当時はね。でもボクの勘違いだったね。実際は中学生でもイケちゃう口だもんね」
「ちょ、星那! それは誤解だよ!」
大輝は慌てて続ける。
「星那とはもう知り合って実質1年以上は経ってるんだし、中身はもう高2か下手したら高3くらいだろ?」
そんな大輝を星那はからかうように言う。
「でも、カラダは中学生だよ?」
「やめろ! それ以上言うな!」
そう言って大輝は星那の両頬をつまむ。
「いや~! ごめん、ごめんって!」
そう言う星那に大輝はそっとキスをする。
「でも、今は高校生だから良いよな?」
「もう! 先輩のえっち……」
翌日からも二人は稽古に励み、そして4月27日、あの暑い土曜日。
2人は舞香の骨折事故を回避することにより、再びタイムリープを成功させた。
――今度こそ、「最終回」となることを願って。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます