第2章 大富豪1

 最南端の島から直行便に搭乗し、収容所内で名の知れた経済大国へ向かう。

ファーストクラスの食事とは到底思えないドッグフードのような機内食に辟易しながら目的地に辿り着いた。

ここは所内でも広大な領地と圧倒的な軍事力を保有し、自ら世界の警察を自負する自由と正義が信条の映画大国だ。

なかでも魑魅魍魎たちの豪奢な巣窟がある一際華やかな街に看守は居を構えていた。

 この街は前世期に囚人たちの洗脳の効率化を図るため映像技術の促進に莫大な資金を投入し、既存の紙媒体のものとは比較にならないほどの偉業を成し遂げた。

投資した何百倍もの興行収入が回収され、味をしめた当地の看守は立て続けに映像娯楽を制作させた。

歴史上、短期間でこれほどの多くの囚人を洗脳できたことはなく、類を見ない快挙であり革命的なことだった。

 囚人たちは我先にと新しい娯楽に飛びつき、苦役で得た金銭を惜しげもなく拝観料につぎ込んだ。

目論みだらけの箱舟の中で動く画像に没入し、ふんわりした白玉菓子と黒くて甘い炭酸水を貪りながら舞台袖の悪意に満ちた策略には微塵も気づかず喜怒哀楽の出し物の虜になった。

多少の衰微はあるものの今尚、映画、スポーツ、ポルノなどの大衆娯楽を洗脳の主軸に置き、朝から晩まで大脳の劣化と魂の画一化を加速させているのだった。

 星の数ほどの映画やドラマが配信されたが、制作時に厳守しなければならない規約があった。

それは、宇宙が存在し、数多の星がそこにあるという定説を遵守するというものだった。

アニメーションや漫画、書籍も同様だった。

ジャンルが何であれ、時間軸が何時であれ、登場人物が地球人でも異星人でも、

舞台設定が地球であっても、何万光年離れた惑星であっても、

覆してはならぬ脚本設定だった。

宇宙存在説は嘘偽という名の巨大樹の根幹であり、幹が朽ちれば枝葉も落ちることは看守たちも重々承知してした。

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