第9話 それ、俺が売ったやつですけど?
月曜日。
学校へ行くと、教室ではまた、いつのものように加橋が生徒たちの中心にいた。
「見てくれよみんな。これ、アンオブタニウム合金の盾だぜ」
加橋はレコード盤サイズの、青いスモールシールドを両手で掲げ、みんなに見せびらかしている。
高級感溢れるその意匠に、女子たちは黄色い声を上げ、男子たちは感嘆と畏敬の声をもらした。
「すっごーい♪ アンオブタニウムって、スーパーレアメタルだよね?」
「一グラム一万円とかだっけ?」
「これ、何百万もするんでしょ? 学校に持ってきて大丈夫!?」
――女子たち、お金の話しばっかだな……。
「大丈夫だって、ストレージに入れちまえば誰も盗めないし、なにより20レベルのオレから誰が盗めるんだよ?」
「だよな、加橋ってうちの中学最強だし、卒業したらやっぱ冒険者系の高校行くんだろ?」
「スーパーレアメタルの装備品とかオレも一生に一度でいいから使ってみたいぜ」
「なぁ、今日の放課後ちょっと貸してくれよ」
「おいおい、気安く触るなよ、そうだな、お前が15レベルになってオレのパーティーに入るなら貸してやってもいいぜ」
「無理ゲー、15レベルとか中学生に求めるレベルじゃねぇだろ」
みんなで加橋を持ち上げ、その環境に加橋は上機嫌だった。
が……。
――あれ、俺が売ったやつじゃね?
火山洞窟で36個手に入ったので、31個を換金した。
――いや、でも他の冒険者だってドロップするだろうし、企業が工場で製造したやつかもしれないし、流石に自意識過剰かな?
と、俺が自省した矢先。
「でもラッキーだったぜ。オレの兄貴が務めるラビリエント社に、急に大量入荷があったらしくてよ!」
――俺が売ったやつだぁああああ!
「すっげぇ、やっぱ加橋って持ってるよなぁ」
「それに加橋の兄貴って、確かラビリエントでAランク冒険者やっているんだっけ?」
「しかも役員冒険者で、企業の方針にも口を出せるんだろ!?」
「エリート一家かよ……」
「まぁな、おっ」
加橋は俺を見つけるなり、座っていた机から下りて距離を詰めてきた。
「おはよう奥井。これ見ろよ、スーパーレアメタル製の盾だぜ。お前には一生縁がないだろうし、触ってみるか?」
――俺がドロップして俺が売った俺の盾ですなんかごめん。
見下されて自慢されているのに、何故か俺はものすごく申し訳ない気持ちになってきた。
事実を知ったら、こいつショック受けるんだろうなと、加橋のために優しいウソをつくことにした。
「う、うんそうだな、俺には一生縁がないよな。だけどもったいなくて触れないよ。俺には鑑賞するだけで胸がいっぱいっていうか、今度、それを装備して戦う動画投稿するんだろ? 楽しみにしているよっ」
めいっぱい媚びを売るように話すと、加橋は上機嫌に盾を抱えた。
「わかってんじゃん、弁えた奴はオレ、好きだぜ。じゃあ動画投稿待ってろよな」
鼻で笑ってから、加橋は意気揚々とみんなの輪に戻っていった。
俺は、謎の達成感に心の中でガッツポーズを取った。
◆
「ただいまぁ」
「おかえりなさいマスター」
放課後。
家に、というか、自宅ダンジョンに帰ると、いつものようにコハクが笑顔で出迎えてくれた。
コハクは一流ホテルのクローク係のように上品な手つきで、俺の鞄とブレザーを受け取ると、クロークに収納してくれた。
ここが家のリビングだったら、まるで奥さんのようだ。
――さて、今日もガンガン素材を採取しますか。
お金目的、というわけではないけれど、自分の頑張りが数字という形で見せられると、なんだかやる気が出てくる。
それに、お金はあって困るものではない。
これまでのことを考えれば、きっと今日も多くの素材を手に入れられるだろう。
そこへ、クロークから戻ってきたコハクが笑顔で一言。
「そうだマスター、昨日でもう10属性全部の特性も理解できたし、今日から素材狙いで階層選ぼうか?」
「素材狙いって、いままでもそうだったろ?」
スーパーレアメタルのインゴットや、貴重装備の数々が、その証拠だ。
なのに、コハクはきょとんとお人形さんのように首を傾げた。
「え? 昨日までは弱点が極端で倒しやいけどEXPをたくさんくれる、レベル上げ重視で階層選んでいたんだけど?」
「え?」
言葉を失う俺に、コハクは幼児のように無邪気な笑みを見せてくれた。
「ボクのおススメはこーれ」
コハクがウィンドウを開くと、そこにはとあるポーションと、生成に必要な材料が出ていた。
「コハク、これってまさか……」
愕然とする俺とは裏腹に、コハクは歯を見せて笑った。
「アークポーション♪ 材料は30階層で、全部そろうよ♪」
万病薬を前に、俺は言葉が出なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます