第22話


「絶望的なフォロー能力!」


 俺は腹の底から叫んだ。

 案の定、恋芽の視線には敵意を通り越して殺意すら浮かんでいた。


「最低ね! とにかく、この学園の風紀は、この私が守るわ! じゃあさよなら!」


 言うだけ言って、恋芽は不機嫌もあらわに、大股でずかずかとその場から立ち去った。

 その背中を見送りながら、女子たちは肩を落とした。


「あーあ、怒っちゃった」

「う~ん、明恋って、悪い子じゃないんだけど、ちょっと堅すぎるんだよねぇ」

「あたし小学校同じなんだけど、昔はあんなんじゃなかったんだけどなぁ」

「中学に入ってからだっけ? 急に当たりがキツくなったの」

「せっかく同じクラスで寮も同じなんだから、もっと仲良くすればいいのに」


 どうやら、恋芽は特に嫌われているわけではないらしい。

 この時代の女子は、いい子が多いな、と思いつつ、ちょっと恋芽のことが心配になった。


 ――あいつ、あんなんで将来、戦場で仲間と上手くやれるのかな?


 そして……。


「さてと、じゃあ場も白けちゃったし、ここはひとつ景気づけに罰ゲームといきますか!」

「というわけで奏美! この場で脱ぐのよ!」


 こっそり逃げようとしていた奏美が、数人の女子に捕らえられた。


「え!? なんで!? なんの罰ゲームなの!?」

「細かいことはいいから、ほら、さっさと脱いだ脱いだ!」

「そうだそうだ、ブラ見せろ! パンツ見せろおらぁ!」

「いやぁ~、やめてぇ~!」


 両腕で胸元をかばいながら身をゆする奏美。その涙を誘う光景に、俺はいたたまれない気持ちの二乗になった。

 家族を助けるべく、俺はやれやれと立ち上がったのだった。


   ◆


 三時間後。

 奏美を助け出しつつ、みんなから千年前と今の時代の違いなんかを色々聞かせてもらってから、ようやく俺らは解放された。


 奏美は途中で部屋に戻り、ブラを着け直しはしたものの、精神的ショックからはなかなか立ち直れず、終始無言だった。


 今も、部屋のベッドに倒れこみ、うつぶせにぐったりとしている。


「うぅ、酷い目にあったよぉ」

「災難だったな」

「同情するなら今日は一緒に寝てよね」


 ぐりん、と首を回して、奏美はベッドから恨めしそうに見上げてきた。


「おいおい勘弁してくれよ。男女が一緒に寝るってのは、結構恥ずかしいことなんだぞ」


「埋め合わせ、してくれるんだよね?」

「今日はどこにも泊まらないってのが埋め合わせなんだろ?」

「じゃあおかわり。一緒に寝てくれないと埋め合わせてあげないんだから」

「奏美って温和に見えて、なかなか欲望に忠実だよな」

「当たり前だよ。わたしだって人間なんだから」

「いま、ちょっと宇宙の真理を聞いた気がするな」


 冗談めかしてから、俺はため息をついた。


「まぁ、可愛い子と眠れるのは俺も役得だからいいか」

「~~ッッ」


 俺に可愛いと言われて、奏美はベッドに顔をうずめて、イモムシのようにもじもじし始めた。


 相変わらず、感情が駄々洩れだな。

 そういうことをされるほど、ますます可愛く思えてしまうから困る。


「ねぇ、守人は……わたしのナイトウェア姿、見たい?」

「ん? そりゃ見たいぞ。でも、恥ずかしいなら無理しなくていいぞ」

「……いま、準備するね」

「え?」


 俺が驚く間に、奏美は布団をかぶると、中でごそごそと動き始めた。

 それから、ベッドの中から、ブレザーとシャツと、スカート、それにソックスがすとんと落ちた。


 ベッドの中の奏美の姿を想像して、軽く興奮した矢先、布団がばさりとめくれ上がった。


 期待に胸を高鳴らせた俺の期待は、しかし裏切られた。

でも、むしろ期待以上だったと言える。


 ベッドの上にお尻をおろす奏美は、いわゆるベビードール姿だった。

 ただし、他の女子みたいにセクシーなものではなく、可愛らしいデザインのものだった。


 相変わらず、胸元は腕で抱き隠してはいるし、露出度は腕以外、制服と大差ないのに、妙にドキドキした。


 俺が見入っていると、恥ずかしそうにうつむいたまま、奏美はちょっと唇を尖らせた。


「そんなに、驚かないでよ。わたしだって、寝るときはナイトウェア着るもん。無理やり脱がされた時のために下に着ておいたの。守人は?」

「あ……俺は昨日、病院で夏用の短パンと半そでのシャツの申請しておいたから。それ着るよ。俺の生活用品は、もうひとつの部屋にあるらしいから」


 そう言って、俺は部屋を出た。

 今日、眠れるかな?

 どんな劣悪な環境下でも眠れるのが兵士の嗜みではあるものの、ちょっと不安だった。


 ――それにしても、胸のサイズがバレるのが恥ずかしいから一人部屋を申請したのに、俺とは同居するんだな。


 ほとんど初対面だってのに、信頼されてるなぁ。

 二週間後の勝負では、カッコイイところを見せてあげたい。そんな気持ちに、俺は胸を焦がした。

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