26月 予兆
草木の無い、汚れた地下鉄の駅構内まで逃げてきたアリス。欠けた体を隠す様に上着で包んでいたツクオミを、寝かせる様にベンチに下す。
「ツクオミ様! 私の声は聞こえますか!?」
必死に声を掛けるアリスだが、アウラウネの毒水で満たされたツクオミの体は元の何倍にも青白く
「ゴポッ! ガボッ!」
水で重い体はただ小刻みに震えるばかりで必死に呼吸をしようにも、体の水が口から逆流しツクオミは溺れていた。
(ダメだ…! ただ死なない事だけ考えている! 甘やかし過ぎましたかっ…! こうなったら…一度肉体を消し飛ばして、戻る様に仕向けなくちゃいけない…っ!!)
「くそっ…! ツクオミ様! 今から体を消し飛ばします!! ですから必ず戻ってきてください!! 大丈夫!貴方なら出来ます!! 一緒にお…タナカ様に会いましょう」
この場にタナカが居ない事が唯一の救いだと、思いながらアリスは気持ちが揺らぐ前に間髪入れず腕をベンチのツクオミに突き出した。
ドヒュゥウン…!
アリスの手から放たれた衝撃波の魔法は、ベンチを跡形の無く消し飛ばし壁に、切り取ったかの様なクレーターを作った。だが、アリスは「くっ…!」と息を漏らして天井を見上げる。
天井には、体の水をまるで
「あっっぶな~! お前! コイツが禁忌だからって躊躇いなく消し飛ばそうとするかよ普通!?」
タプゥン!と着地したツクオミから声がした。
(まさかツェンシーの水に紛れ込んでいたの!?)
まさかの強敵の登場に苦虫を噛み潰した様に顔をしかめるアリス。するとその隙を突く様に、ダクトやトイレ、売店から様々な種の禁忌狩りが出て来て、あっという間にアリスを取り囲み始めた。
「今だ!囲め囲めぇ!」「逃がすなぁ!」「やんややんやー!」
ドタドタドテドタッ!
突如現れた自分以外の禁忌狩りの乱入はシャルルムントにとっても予想外だったらしく。少し驚きつつ「…ふ、ふははは! さぁエルフさん! 大人しく手を引けば危害は加えないぞ!」と勝ち誇る様に声を張り上げた。
「チッ! まだこんなに居たのですかっ…! ってかコイツらトバリの息が掛かったままだし…!」
集団から感じ取れた、全く異なる微弱な魔力がトバリの物と察したアリスは、苛立ちを
だが、視線を外した方向から───「ワシは英雄になるんじゃー!!」とエプロン姿のゴブリンが叫びながら持っていた包丁をアリスに投げ付けたのだ。振り返る事無く包丁の取っ手を掴み受け止めるアリス。
だが、ゴブリンの攻撃に禁忌狩りが一斉に雄叫びを上げながら攻撃を始めるのだった。
その様子にシャルルムントは「なっ!? 何をしてるんだ!! お前達止めろ!!」と慌てて止めに入ろうとした。
アリスは「あ~もう…!」とウンザリした様子で、飛んでくる魔法や武器などの攻撃と、1人1人の顔を見合わせると。
それらを紙一重ですり抜ける様に躱しながら片手に拳を固め、もう片手に魔方陣を展開。それからは、ほんの刹那の出来事で1人1人を丁寧に殴った先から転送するのだった。
ドガアァン!!と禁忌狩り同士の魔法と武器がぶつかり駅自体を揺るがす程の爆発が起き。
砕ける床に火花を散らし消える電気、壁と天井が積み木の様にガラガラ!と崩れ始め。駅内一帯には、黒煙が膨らみ広がっていた。
半透明ドーム状のバリアを張り、その様子を
左右も分からない暗闇の中。地上の雨が流れ落ちる音と、小さな瓦礫が落ちる音だけが聞こえている。
「お、お~いぃ…。エルフさぁ──────っ!?」
アリスが気になり恐る恐る声を出したその時。シャルルムントは頭の奥に熱が籠るのを感じた。
(未来視!? この暗闇の中で一体どこから!?)
焦りながら見渡していると「あとは、君だけだよ。シャルルムントさん」と、すぐ背後から声が聞こえ咄嗟に振り返る。
そこには、魔方陣を片手に髪を掻き上げて見下ろす様に、未来視で瞳を黄色く光らせるアリスが立っていたのだ。
「ば、バカなッ! ど、どうやって入って来たのだあ!?」
何故かバリアが消えてる事と傍に居るアリスに怯えるシャルルムント。すると、アリスは未来視を止めて微笑みながらツクオミの頭に手を伸ばした。
「ありがとうございます。オボロさん」
アリスの行動と言葉に疑問が尽きないシャルルムントは、顔を覗かしてツクオミの頭上を見上げた。
なんと、ツクオミの特徴的な巨大なアホ毛は、一匹の顔の無い白龍に変わっていたのだ。
「なん、だ…これは…? なっ! なんなんだこれはぁあ!? 止めろぉ!! 触るなぁあ!!」
悲鳴のような叫びを上げるシャルルムントは、偽りの魔法が解けて、少し小柄になったアリスに魔法を放とうとした。
しかし…何も起きない。ますます理解が出来ず固まるシャルルムント。オボロから手を離したアリスは「あ、私の魔法まで解けちゃった。久しぶりの体だ」とはにかみながら退路を塞ぐためにバリアを張り、再び魔方陣を展開した。
「その子に触れると魔法が使えなくなるんだよね。つまり今、君は魔法が使えなくなっちゃったってわけ」
徐々に魔方陣を近付けるアリスにシャルルムントは「ひっ…! う、うわぁあああ!!!」と叫びながらツクオミの体の毒水を一気にバリア内に放つ。
バッシャァアン!!
水を取り込まない様に口と鼻を押さえるアリスは、ニヤリと笑ってバリアを解除し水を流す。
シャルルムントは、自身が未来視を受けた事をすっかり忘れ、ツクオミから飛び出し滴る雨水を伝いながら地上へと逃げるのだった。
アリスは「ツクオミ様!!」と水が抜けたツクオミを抱き寄せた。ピロリンとオボロがアホ毛に戻る。
極端に浅い呼吸。青白くふやけた冷たい体。瞼を開けて光を照らしてみるも、動かない瞳孔。瀕死なのは言うまでもない。
アリスは今すぐにでもツクオミを助けたい気も里を押し殺し。テレポートで逃げたシャルルムントを追い駆けるのだった。
「どこに行くのですか?」
仄暗い曇天から突然現れた、ツクオミを抱えたアリスが目の前に立つ。
シャルルムントは「ひぃい!!」と悲鳴を上げつつも体を飛散。ぁkらだの形状を保っていたゼラチン状の塊を囮として、司法に滑らせる。
一瞬、少女の様な正体を現したシャルルムントは、溶ける様に雨水に紛れて逃げるのだった。
(くっそぉ! なんでこんな事に…! でも、これで撒いたハズ…!)
そう安心したのも束の間。頭上を並走する影から「そこまでとっくに見えてるのですよ」とアリスの声がし、魔方陣の静かに響く鐘の様な音が間近に迫る。
「そんなぁ! い、いや…! いやぁああ!!」とシャルルムントが泣き叫んだその時─────「失礼、お嬢ちゃん。少し退いてくれないかな?」
背後から声がして目を丸くするアリス。咄嗟に片腕に抱えたツクオミを護る様に背を丸めながら振り返る。
自分に被さる大きな影、灰色の狼男が斧を振り
しかし。スゥゥ…!と
ズジャアアア!!「くっ…!」
地面に靴跡を作り、これでもかと狼男を睨み付ける。
「シャ、シャーディさぁあん!! 僕っ! 僕もう…! ダメかと思ったよお~!」
泣き付くシャルルムントをシャーディは面倒くさそうに、
「あんのババァ…。ほんとエグい事しやがるな…」
◆
「空にもこんなに居たんやなぁ」
「寄り道のつもりでしたが。ちょっとこれは…」
ヤナセの上で雲海を見下ろすローウィンは、空でサボっていたドラゴンやガーゴイル等の禁忌狩りを大量に転送していた。
「アホオミのヤツ、苦戦してるみたいやで~? ま、アホにはエエ薬やね──────ハッ…!?」
その時、微かに空気が揺れ。刹那、血相を変え冷や汗を掻くローウィンは、慌てて一帯を見渡した。
「っ! どうかされましたか!?」
ヤナセの言葉にローウィンは、強気な笑みを浮かべながら落ち着いた口調で言った。
「シラジラしぃわアホ、分かっとるやろ…。ツェンシー、タナカを離脱させてくれて感謝するわ。トバリが、動き出したでぇ…!」
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