5月 ツクオミ
テーブルに並んだ大量の料理は、とても手作りとは思えない程に美味しく。
部屋に居る時の食事が3食、インスタント食品だと言う事もザラだったタナカにとっては、まさに夢の様な食事だった。
冷蔵庫に溜まったビールを一度に6本飲み干したタナカは、いざ7缶目を開け口を付け始める頃。
タナカは酔っぱらった勢いで、この5日間に受けた拷問の様な法務省にでの暮らしを包み隠さずに話したのだった。
食事と睡眠はもちろん。個室トイレやシャワーにすら役人の同行の
加えてそのどれもが長くて3分程、睡眠で10分程の時間制限がある生活。それらの話には、流石のアリスもドン引きしていた。
「何それ!? ヒドイよー!アリス姉ちゃん! タナカを虐めるなら怒るよって! その人に伝えて!」
話を聞いた三日月の男の子は、机を叩きながらタナカ越しに座るアリスに言った。すると、タナカは「ぎゃははは!!」と山賊の頭領、
「良いねぇ!良いねぇえ!! テメェとアタシ!あとアリスの3人が居たら最強だなぁ!? よぉし!そんなら全員でこんな世界ブッ壊そうじゃねぇかぁ!!」
「ちょっ!タナカ様!? 何とんでも無い事を言ってるんですか!? 特に君は絶対にダメですよ!! あと私を巻き込まないで下さい! それはそうと、先程のお話の件や、待遇の改善はお伝えしますので!どうか血迷わないで下さい!!」
そう言うアリスだが、やり過ぎだと思いつつもその待遇には内心、納得していた。
何故なら、三日月の男の子は禁忌級と確定してるのに対し。その禁忌級を召喚(?)させた上、月本体を三日月分かけさせた、上級魔法使いとなれば、それだけの警戒を敷くのは当然の様に思えたからだ。
むしろ即刻、処分判定されて無いだけでも十分に温情と言えるのでは、とアリスは複雑そうに顔をしかめた。
「グビッグビッ! かぁーっ!ほんまよぉ! ヒック! 休ませろゆーてんのにあのデカブツよぉ! ヒック! あれよこれよ質問やら読心魔法やら掛けやがってよぉぉお!」
「おぉ!独身魔法かぁ!」
「絶対に受けたくない魔法ですね、あと読心です。それよりタナカ様、飲み過ぎですよ? それとデカブツってまさか、キマイラ大神官のハルマドン様の事ですよね? あの方、王族なので不敬罪ですよ?」
酒癖の悪い中年男性の様な絡み酒で、アリスを抱き寄せてるタナカは、仮にも女性だと言う事を忘れさせる程の、豪快な笑い声を上げながらジュースを飲む男の子の頭を叩く様に撫で。
その様子に、エルフはアルコールの分解が早いとは言え、今後の飲酒は自分が徹底的に管理しようとアリスは、虚無顔で心に決めたのだった。
「…あのタナカ様? そろそろこの子の名前を教えてくれないですか?」
アリスは、食事前にタナカの言っていた「この子の名前は考えてるんだよ」と言う言葉を思い出し、気を入れ替えつつ聞いてみた。
「おぉ!そうだった!そうだったぁ!」
「え!? オイラの名前!?」
アリスの言葉に目を輝かせる男の子。タナカは、手を叩きながら壁のフックに掛けられた仕事鞄から、ファイルに
タナカは「ほれほれぇ」とテーブルに紙を広げて見せ。アリスは、やっと話が進んだ…と、溜め息を付きながら、紙に視線を落とした。
「…え、マジかよ…」
紙には、
これまでのタナカの酒癖の悪さがフィルターになり、書かれた真面な名前に思考が麻痺し、思わず素の声を出すアリス。
自慢げに腕を組むタナカが「どぅうだぁ! 名前はツク……」と名前を読み上げようとしたその時。ツクオミと名付けられた男の子がタナカの言葉を遮りながら紙の上に乗り出した。
「おぉ~!?コレなんて書いてるんだ!? ウンコかぁ!?」
「…ブフォッ!」「プフッ!」
文字が読めなかったツクオミの突然の発現にタナカとアリスは、同時に吹き出した。
こうして、タナカのおかえり祝いの会は、3人の笑い声に包まれながら終わりを迎えたのであった。
※後日。タナカ宛に魔法法務省から、大神官・ハルマドンの書いた床を埋め尽くす程にバカデカい謝罪文が届いたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます