第52話 アスワド

 思考が堂々巡りする。陽は昇り沈み、何度も同じ動きを繰り返す。人里離れた荒野の昼は肌が焼けるほど熱く、夜は打って変わって肌寒さすら感じた。


「……俺を騙していたな」

「そうだよ。俺はチンケなジンじゃねえ。ジンの中でも頂点に君臨するマリード様だ」

「何故、俺を騙していた」

「馬鹿な質問するなよ。当然のことをしたまでだ」

「何が目的だ」


「チンケな夢さ。俺は自分の国が欲しいんだよ。こそこそ生き回るんじゃねえ、ジンが好き勝手して生きていける国だ。人間も俺たちのおもちゃとして暮らすことを許してやろう。俺の気分は悪ければ殺し、良ければ見世物にして殺す。いや殺し合わせるのも良いな。とにかくそういう国が欲しいんだよ」


 悪の権化。あのマリードはアスワドをそう評していた。

 実際そうなのだろう。元々真っ当な性格はしていないと思っていた。驚きはない。


「ただ、それを邪魔する奴がいる。あのマリードだ。前回の戦いで運悪く負けちまってな。ほら、覚えてるか。お前の故郷で焼け跡があっただろ。あれがそうだ」

 遠い記憶だ。まだ隣にボズクルトが立っていた頃、俺はヤクブとの揉め事を解決したと思ったその帰り際、鞍の前に子供を乗せてそこに立ち寄った。

「俺がお前に目を付けたのはそのちょっと後でな。俺をあのマリードから匿い、かつ俺の助けになるような強い奴を探してた」


「真実を聞き、俺が手伝うとでも」

「手伝うね。だから本当の事を話した。だってそうだろ? 俺がジンの国を作って人間を慰み者にしたとして、ハリル、お前は何か困るのか?」

「……困らないな」

「そうだろ? だってお前の目的は裏切り者のボズクルトを殺すことだ。他に眼中はねえ。俺が何をしようが構わねえ筈だ」

「いや、ボズクルトは後回しだ」


「あん? そりゃどういうことだ?」

「ボズクルトが俺を裏切ったのはクトゥブにも原因がある。少なくとも奴がいなければボズクルトは自ら一族を率いていた。それならクトゥブも俺が殺すべき対象だ。いや、むしろクトゥブこそが元凶だと言って良い」


「なるほどね。それなら頼みがある。クトゥブを殺すのは良いが、躰はできるだけ綺麗な状態にしてくれ」

「死体をマジュヌーンにする気か」

「ご名答、普通のジンは無理でも俺の力ならできるんだよ。一から国を作るより乗っ取った方が早いからな。ずっと誰を操り人形するのが良いか考えてた。クトゥブなら丁度良い。あいつならスルタンに近づくのも簡単だ。後はスルタンを操るなり直接乗り移るなり好きにできる」


「良いだろう」

「今度はちゃんと俺も力を貸すぜ。俺とお前の力が合わさればマリードだろうが敵じゃねえ。さくっと互いの目的果たそうや」

 俺は自らの意思で炎を生み出した。練習がてらに一帯の低木を燃

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