【18日目~24日目】クリスマス企画配信までの日々を駆け抜けたVTuber阿戸辺むと

~18日目~

クリスマス企画で今から緊張して眠れない阿戸辺むと「羊が1017匹……」


~19日目~

クリスマス企画のことをいったん忘れるためにDLsite(R18)に赴く阿戸辺むと「ンヒョヒョ~♡ 全身あたたまりますな~♡」


~20日目~

アロエヨーグルトのフタの裏を舐めとる阿戸辺むと「れろぉん」


~21日目~

コーラを飲んだ阿戸辺むと「げぷ。……わ~、むとちゃんのげっぷ助かる」


~22日目~

クリスマス企画に備える阿戸辺むと「」カシュッ!! エナドリッ…エナドリッ…エナドリッ…


~23日目~

うたたねから覚め、夢のなかで再会したあの人を想う阿戸辺むと「……」






~24日目~

 夕方。いよいよクリスマス企画配信まで一時間を切った。二十代もそろそろ後半に差し掛かる彼女は、配信機材の準備を始める。どこで働いてもうまくいかず、逃げるように職を転々とした。ハローワークの人にまたこいつか、という顔をされるのが嫌で、アルバイトも続かず、日々を這うように過ごしていた。自己嫌悪。死ぬことが何より怖いのに死にたくなって、絶望しかけた。そこでこのままではいけないと一念発起し、辿り着いたのがこの配信業だった。いつの間にかチャンネル登録者数は一万人。身を削り、醜態を晒しても配信を続ける自分のことを〝推し〟と言ってくれる視聴者がいる。彼女は考える。この幸福はなんなのだろう。こんなことが長く続くわけがない。やがては配信を続けられなくなり、老いさらばえて、貯蓄もなく、飢えて死ぬような最期を迎える。推してくれていた人たちの心も離れていき、VTuber阿戸辺むとは、忘れ去られる。

 配信準備、完了。

 よし、と小さく呟き、彼女はあの人のことを想う。

 配信を始めたての日、三十分以上喋り続けて、三十分以上誰も来なかった。配信タイトルは『バイオハザード4やります 初見さん歓迎』……確かにこんなタイトルでは人は来ない。結局これだ、自分は何もうまくいかない、何も為せない無能なんだ。そう思って俯いた時、忘れはしない、配信開始三十四分十八秒目。コメント欄に現れた最初の視聴者。最初の、VTuber阿戸辺むとの、ファン。


neko_9u6o:こんばんはー アバター可愛いですね


「ひぇっ!? わぁー! あ、ありがとうございマヒュ、えへ、うへへへ……」


neko_9u6o:今日も来ました マイクラ楽しそー


「あ、neko_9u6oさん来てくれてありがとうございます~! そうなんですよ! マイクラ前からやりたくて~」


neko_9u6o:こんむとー 最近私、毎日来ちゃってますねw


「neko_9u6oさん、こんむとー! 毎日来てください! ふへへっ!」




 neko_9u6oさんは今では配信に来なくなった。理由はわからない。配信初期とはキャラが様変わりして、視聴者と煽り合ってプロレスごっこをやるような今の阿戸辺むとのことを、嫌いになってしまったのだろうか。

 もしかしたら最初のコメントも、アバターが可愛いなんて思っていなくて、ただの、誰もいない配信で独り言を喋り続けている人間への同情だったのかもしれない。

 毎日来てくれていたのも、哀れみからくるただの義務感。

 あの優しい挨拶も、笑ってくれたことも、心からのものではなく。

 内心では面倒だと思っていたのかもしれない。

 だとしても。

 今日はクリスマス企画配信。

 配信タイトルは『【メリークルシムス】お前ら!!!!赤い服の老爺に気を付けろ!!!!!!【不法侵入罪】』

 あの時neko_9u6oさんがコメントしてくれたから、阿戸辺むとは、多くの人を楽しませられるVTuberに成長できた。

 neko_9u6oさんがどんなことを思っていようと、その言葉は阿戸辺むとを支えた。

 neko_9u6oさんのように生きると決めた。

 自信がなくても。社会不適合者の無職でも。この道の先に、バッドエンドが待っているとしても。

 VTuberとして今を頑張る姿や、今楽しむ姿に救われて、明日を生きられる〝きみ〟がいる。

 そう信じて、VTuber阿戸辺むとは、今日も配信を開始する。


「メリ~~~~~、苦シムッス~~~!!!!!!!!!!!!」

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