魔王様、戦国乱世に転身す。

灰紡流

第1話

 薄暗い城の中でひび割れた外壁の隙間から星明りが大広間を薄暗く照らし出す。

 そんな大広間では、時折金属のぶつかるけたたましい音と、火花が飛び交う。


「どうした魔王? そんなものか?」


 目の前にいる男――勇者は不敵な笑みを浮かべる。


「くっ……ヒール」


 俺は体のあちこちに刻まれた傷跡に治癒を施すが、魔力が底を尽きかけていた。

 何より相性が悪い。部下を強化して戦うのが俺のセオリーだというのに、部下はほとんどが打ち倒されてしまった。勇者とのタイマンは苦手なうえに、忌々しいのは勇者を覆う加護の存在だ。魔法の威力を半減するソレを俺は苦々しい思いで見つめる。


「ヘルファイア」


 苦し紛れに火の上位魔法を放つが勇者は防ぐこともなく、加護に搔き消される。


「無駄だ!」


 勇者は勢いよく、踏み込み聖剣が振るわれる。


「グレートシールド!」


 掌を正面に突き出し、半透明のシールドが形成される。最上位のシールドによる防御を試みたが、完全な防御は適わずパリンと弾ける音と共に霧散する。だが、まったく無駄だっというわけではなく僅かに軌道を逸らすことに成功した。


 このままではマズイという考えが脳内を駆け巡る。

 だが、もはや勝敗は決しているようなモノ。俺には余裕がなくあちらには余裕がある。


 一抹の希望に縋るしかないか……。

 覚悟を決め、一つの魔法を発動する。


「ダークスモッグ」


 発動と共に、辺りに黒い靄が立ち込める。

 俺はその隙に、宝物庫の方へと駆け出す。後ろからは勇者の迫る声が響く。


「どうした魔王! 次はかくれんぼか?」


 時折、魔法を駆使し廊下を爆破したりトラップを設置することで時間を稼ぎながら一路宝物庫へと向かう。


 宝物庫へと辿り着き一息つくと遠くから勇者が迫る音が聞こえた。

 急がなくては。


 俺は宝物庫に飛び込み、内側から魔法を駆使して扉の強度を高める。ありとあらゆる財物が宝物庫を満たしている中、俺は目的のものを見つける。


 かつて物作りが得意なドワーフの一人と共同制作した魔道具の一つ。テレポート装置だ。それを手に取り、魔力を流す。動き出したそれはチクタクと軽快な音を立てながら、目の前に文字列が出現する。


「転移先の目印になるものを選択しろ……だと?」


 こんな機能があるとは思ってもみなかった。まぁそもそも危険性など理論に解決していない部分があり動くかも程度の未完の一品だったからだ。

 どうしたものかと逡巡する間に扉の方から大きな音が響く。


「魔王! そこにいるんだろ! 出てこい!」


 勇者がすぐそばまで迫っている。俺は焦燥感に駆られる中、宝物庫から一つの武器と目が合う。それは緩やかな孤を描く片刃の剣だった。かつて遠いところから来たと名乗った冒険者が所持していたものだ。

 これならば勇者の知らない異国にまで行けるだろうと思い手に取る。


 その剣を手に取った瞬間、俺の体光に覆われる。

 剣を手に取る反対の手で持っていたテレポート装置が別の文字列を表示する。


 転移先固定完了。テレポートを開始します五秒前。


 その瞬間、宝物庫の扉は盛大な爆発とともに砕け散り、煙の向こうから勇者が現れる。


「魔王……いったい何を⁉」


 勇者の驚愕の表情に優越感に浸る。

 何かとんでもないことをしようとしているというのは勇者も分かったのだろう。

 勇者は血相を変えて血を蹴り、目の前まで迫る。


 だが、時間切れだ。

 俺は不敵な笑みを勇者に送る。


「さらばだ勇者」


 0


 俺は光と共に意識を消失した。


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