自由の決定権

第6話 幸せの再来



凛律side




久しぶりに心結とここで会えるのが楽しみで、早く来すぎちゃったかな。




スマホの画面には14:30と表示されている。




待ち合わせの15時まではまだ時間がある。




橋の下は最後に来た時と何も変わっていないはずなのに、なぜか以前より明るく見える。




これが自由なのかな……




1週間前。




心結に背中を押してもらって、私はお父さんたちの気持ちを知ることが出来た。




あの後家に帰ったら、お母さんが泣きながら謝ってきて少し困っちゃった。




でも、その日家族で食べた夕食は、今までで1番美味しく感じた。




家族って、こんなに温かいんだ……




不器用だったり勇気がなかったりで長い間すれ違っていたけど、心結のおかげでもう大丈夫。




改めて心結にお礼をしたいから、ドーナツも買ってきた。




心結早く来ないかな?




楽しみに待っていると、その10分後に心結がやってきた。




「はぁ、はぁ……凛律!」




「わわ、心結汗だくだよ?急いできたの?」




「あ、ああっ……凛律来るの、早い……っ」




「ご、ごめんねっ」




早く来たのが返ってダメだったみたい。




あ、そうだ。




「心結、先週は本当にありがとう。もう家に帰るのも嫌じゃないし、お父さんもお母さんもすごく優しくしてくれるよ。全部心結のおかげ。それでね、お礼にドーナツを……」




「えっ、マジで?ありがとう。まあ、そうだな。凛律が苦しくなさそうで良かった」




私苦しそうだったの?




そんな顔見せたくなかったんだけどな……




もう遅いか。




私と心結はその場で隣に座った。




「それで、今日はどうしたの?また遊びに行く?」




「いや、今日はどこにも行かない。凛律に伝えたい……見てもらいたいものがあるんだ」




見てもらいたい?




なんだろう?




すると、心結は首にかけていたカメラをバッグに入れて、代わりに束ねてある数枚の写真を取り出した。




1番上の写真を見て気づく。




えっ、これって……




「今まで撮った、私の写真?」




「ああ。“それだけじゃない”けど、裏面も一緒に見てみて欲しいんだ」




そう言った心結の瞳は、真剣な目をしていた。




頬はほんのり赤いようにも見える。




裏面って……何か書いてあるのかな?




私は、順番に目を通した。




1枚目は、私が自殺をしようとしていた時の写真。




裏面には、




『端麗な迷子の少女』




と書いてあった。




これって……




「心結が考えてこの写真にタイトルつけたの?」




「ああ」




「端麗な、迷子の少女……」




あの時の私、心結からは綺麗に見えてたんだ……




心結が今まで、私にどんな景色を覚えたのか気になり、次々と写真を見ていく。






2枚目、初めてソフトクリームを食べた時。


『バニラを恋う少女』





3枚目、ゲームセンターでクレーンゲームをしてる時。


『テディベア誘拐犯の少女』





4枚目、商店街で買い物をしている時。


『細長い世界に魅了された少女』





5枚目、水族館でクラゲを見ている時。


『透明な輝きと双子に生まれた少女』





6枚目、空港で心結にお礼を言った時。


『映画「アウトフォーカス」主演の少女』

『そんな君に






と、途中で切れている。




不思議に思いながらも7枚目。




そこには、私ではなく花の写真があった。




紫色の、可愛らしい花。




「この花って、もしかしてクジャクソウ?」




そう聞くと、心結は黙って頷く。




今までのは私の写真だった。




タイトルを読んで、照れ臭かったり、クスッと笑えたり、胸を締め付けられたり。




なら、この写真は?




心結と出会った日、心結が教えてくれた。




ゆっくり、写真を裏返す。




クジャクソウの花言葉は確か、美しい思い出、悲しみ、そして……




























一目惚れ』














そう、心結の繊細な字で書いてあった。




うそ、でしょ……?




一目惚れってつまり、心結は私のこと……




溢れてくる涙が止まらない。




ぼやける視界の隙間から微かに見える心結の頬は、数分前よりも赤くなっていて。




「俺と、付き合ってください」




風に揺られるスズランのように神妙な声で、彼はそう言った。



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