第27話『逃れられぬ罪と罰は牙を剥く』
「んー! んーっ!」
拘束されたカナリは抵抗虚しく牢屋へと放り込まれる。
「おうおう、若いってのは元気でいいねぇ」
「いいぞいいぞー」
筋肉隆々な男たちは、縛られながらも必死に抵抗するカナリを観てゲラゲラと笑う。
「まあ、俺たちは優しいからな。拘束は解いてやるよ」
1人の男はナイフでカナリに施されている拘束を全て解く。
「おっと危ねえ」
「くっ!」
「下手に抵抗すると、そのかわいい顔に一生消えない傷ができちゃうぞ~」
「がはは! お嫁に行けなくなっちゃうなぁ!」
「いやいや、こんな金持ちだったらもう許嫁が居るだろ」
「じゃああれか? 白馬に乗った王子様がきっと助けに来てくれる。とか頭の中お花畑な妄想でもしているっていうのか?」
「あるある、たぶん図星だろ。がっはは!」
歯を食いしばり、鋭い目つきで睨み返すカナリ。
「おーおー怖い怖い」
男たちは檻の外へ出て、施錠をする。
「私の父を知らないんですか、こんなことをすれば――」
「そりゃあ知ってるからこそのお前だろ」
「少しは頭を使ったらいいんじゃねえのか? 俺たちとは違って英才教育を受けてるんだろ?」
「ちなみに、お前のお父様とか白馬に乗った王子様が来たとしても無駄死にするだけだから、逆に来ないことを期待した方がいいぞ」
「父は誰もが認める実力があるわよ。あんたたちなんて――」
「あっはっはっはっ!」
男たちは揃って腹を抱えて嗤う。
「本当に頭の中身がお花畑なんか?」
「なっ!」
「体を鍛えていたのは少し驚いたけど、なんで俺たちに負けたのかちっとも考えなかったのか?」
「そういえば……」
「『私の得意な魔法が使えなかった』、ってぐらい簡単に思い当たるだろ?」
「魔法使いが魔法を使えなくなったら、もうそこに居るのは一般人以下のひ弱な雑魚だ。たっく、どいつもこいつも鍛えねえかなぁ。体が資本だろって」
「まあ、それもあるが。結局は男は男、女は女ってわけだ。どうやったって勝てやしねえってこった」
カナリは男たちの話をただ聞き入れるしかなかった。
事実、父の教えにより魔法だけではなく体も鍛えていたが、魔法を封じられてからは手も足も出ず一方的に暴力を振るわれたのだから。
「てかさ、命にかかわることをしなきゃいいって話だったから、愉しんでもいいんじゃあねえのか?」
「ん? 何するんだ?」
「いやわかるだろ、お前が言ったんだろ。男は男、女は女って」
「ああ、なるほどな。そりゃあいい」
汚らしい笑みを浮かべ舌なめずりをする男たち。
「うっひょー、こんな機会は滅多に訪れねえしなぁあ! 愉しまなきゃ損だよなぁ!?」
「いやっ!」
「おいおい、さっきまでの威勢はどこにいっちまたんだぁ?」
カナリはこれから待ち受ける自身の末路を一瞬にして想像してしまった。
恐怖に怯え腰を抜かし、それでも壁ギリギリまで後退りをする。
「どうか助けて」と心の中で叫び、涙が頬を伝う。
しかし男たちは最後の砦である檻の施錠を解錠し、一人また一人と檻の中へ侵入。
「順番はどうする?」
「最初だけは俺にヤラせてくれよ」
鼓膜の中に入れたくもない汚らわしい言葉が次々と並べられていき、絶望のときが刻一刻と迫ってくる。
殴ろうが蹴ろうが、どうやっても抵抗は虚しく封じられてしまう。
カナリにとっては全力でも、男たちにとってはたったの腕1つで。
(誰か、誰か助けて――)
もはや祈る以外の選択肢はない。
父と母、親戚、教師。
助けに来てくれそうな存在の顔を思い浮かべるも、魔力を封じる何かが脳裏を過り、助けを望みながら来ないことを想う。
そして最後――絶望的な現状だからこそ、不条理だからこそ、理不尽だからこそ、それに屈折抗い続けひた進む存在を思い浮かべる。
自分が焦がれ、傍に居てほしいと願い伝えた、彼を。
(彼なら――彼なら、こんな状況でも最後まで諦めない。絶対に立ち向かう)
カナリは覚悟を決め、恐怖に怯える表情を捨てた。
「ん? この期に及んで何かに期待し始めたのか?」
「がははっ! 無駄無駄ぁ!」
痛む体に鞭を討ち、壁を使って立ち上がる。
「その目、いいねぇ。そそるねぇ」
瞳に闘志を宿し、拳に力を込める。
(腕で押さえられたって噛み千切ってやる。隙を見せたら目を潰してやる。顔を近づけてきたら頭突きをしてやる)
「私は絶対に最後まで諦めない!」
男たちが一歩前へ足を踏み出したときだった。
「ん?」
扉がキィィィィっと開く音がして、全員が振り返る。
「おいおい、今からお楽しみだっていうのに――どうしたって……」
「もう少しだけ様子を見ていようと思っていたけど。どうもここに居る人間はどうしようもないゴミ共しかいないようね」
「あ? なんだお前たちは」
「戦う乙女の危機を見過ごすことはできないわ」
「ボスが来るのを待つって言ってたじゃん!」
「こういうときは、大人しく指示に従わないと後で怒られちゃいますよ」
「ぶーぶー。そんなのおーかーしーいー」
扉から堂々と入ってきたのは、エリーゼ、ロイツ、クライス。
真新しくフード付きの漆黒ロングコートを羽織り、男たちを睨みつける。
「おい、もしかしてこいつらって報告にあったやつらじゃ」
「んなまさか。長耳に、真っ白に、真っ赤。言われてみたらそうかもしれねえな」
「ヒューッ。俺たち、今日は超絶ラッキーな日ってことじゃね?」
「……その汚らしい視線を送ってくるのは辞めてほしいのだけれど。でも、予想通りに闇組織の構成員ということは確定したようね」
「ねえねえ! 今すぐぶっ飛ばしていい? いいよね?」
「ダ、ダメですよ。こういうときはちゃんといろいろと確認しないといけないんです。また探し回らないといけなくなるんですよ? わたしはちゃんと注意しましたからね」
「うぅー……」
しゅんと背中を丸めて落ち込むロイツを横に、エリーゼは肩を落してため息を零す。
「そこのあなた、よく最後まで諦めなかったわね」
「え……はい」
(こ、この人たちはいったい誰なの……? 語り掛けてくれたし、最初の言葉を信じるなら助けに来てくれたんだよね?)
「あなたを助けに来たわ。もうすぐ元の居場所に帰ることができるから安心して」
「おいおい、なんでそんなに余裕こいて話しちゃっているわけ?」
「忘れたんか? 忘れられるわけがねえよなあ? お前たちは俺らに勝てねえ」
「それはどうかしら? あなたたちも忘れているのかしら、お仲間のことを」
男たちはエリーゼの言葉の意味を、少しだけ考えて理解した。
「み、見張りのやつらはどうしたんだ!」
「1人残らず、あの世へ旅立ってもらったわよ。少し、想定違いだったけど」
エリーゼはギロッと横へ鋭い目線を送り、ロイツがビクッとなったのを確認後、視線を戻す。
「ボクは悪くないよ。襲ってきそうな見た目をしていたあいつらが悪いんだ」
と、ロイツは小言で言い訳をするも、当然それは逆効果。
エリーゼは「後で絶対に説教する」と心に誓うこととなった。
「ごちゃごちゃうるせえ! まあ仕方がねえ。あいつらは
「だな。どうせ奇襲を仕掛けて上手くいっただけだろ」
男たちはそれぞれの手を前に出し、指輪を示す。
「それは……」
「思い出しただろ? お前たちはこれのせいで力を封じられていたんだからよぉ」
「今の私たちなら問題ないわ」
「どうせハッタリだろ」
「強がっても意味がねえ。どうれ、試してやるよ!」
男たちは魔道具を半回転させ、効果を発動させる。
「けっけっけ」
「――なっ!」
「がーはっはっはっ。今の今までは範囲を絞ってただけだってーの!」
「油断しちゃって、ざまあねえな!」
「う、後ろです!」
「えっ――」
エリーゼたちは完全に油断をしていた。
仲間を全滅させてたと思っていたが、指輪を所持している増援によって出口を塞がれてしまう。
「そりゃあ気づかねえよな、指輪の効果を発動させたら魔法で探すことはできねえもんな」
「いい顔になったなぁ。それだよそれ」
「でも、あのときの私たちじゃないわ。ロイツ、あなただけが頼りよ」
「いいの? 全力でやっちゃっていいの?」
「ええ、思う存分暴れてちょうだい。頑張れば、きっとご褒美もあるわよ」
「ボスに褒めてもらえるかな!?」
「そうね、私からもお願いするわ」
ロイツはその言葉で一気にやる気を
「まだ仲間が居るみてえだが、残念だな。効果を広めたからには場所がバレることもねえ」
「それにこれがあれば、もしものことがあっても同じ目に遭わせてやるしな」
「……それはどうかしらね。私たちは負けるかもしれないけど、あの人が負けるはずはない」
「んなわけねえだろ! この世界で、魔力を使わずに戦える人間がどれだけ居るっていうんだよ」
「吠えていられるのも今のうちよ」
「そりゃあこっちのセリフだってぇの」
「ロイツ、行きなさい」
「わかったー!」
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