ボンボボン3

「えいっ!」


 ミツナにできるかと心配したのも杞憂だった。

 さらりとミツナはボムバードの首をへし折ってエイルに自慢げに見せてくる。


 褒めてと言わんばかりだったので軽く頭を撫でてあげる。

 するとミツナの尻尾は激しく振られて、口元も笑わないようにと抵抗してピクピクとしていた。


 何というか可愛らしさがあるなとエイルは思った。


「綺麗に倒せたな。これなら向こうも満足だろう」


 剣が当たった部分の羽は切れてしまうが多少はしょうがない。

 倒したボムバードは袋の中に入れておく。


「それじゃあ次を探そうか。目標は五匹だからあと残り四匹。時間的には明日までかけられるしゆったり探していこう」


 ーーーーー


「ごめんなさい……」


 耳と尻尾だなとエイルは思った。

 表情にもよく感情は出ているが耳と尻尾の動きを見ればさらにミツナの感情がよく分かる。


 耳は頭に沿うようにペタリと畳まれて、尻尾はやや股下に入るように丸くなっている。

 表情も相まって申し訳なさが全身から溢れている。


「ミツナのせいじゃないさ。ボムバードの速さがすごいんだ」


 最初の一匹を捕まえてから三回ボムバードに遭遇した。

 しかしどのボムバードも捕まえることに失敗してしまった。


 最初の一匹と同じように先にボムバードを見つけてミツナが襲いかかった。

 しかし近づくとボムバードもミツナに気づいて逃げる。


 最初の一匹はなんとか攻撃が届いたのだが、本当にギリギリだったようでのちの三匹には攻撃が届くことなく逃げられてしまった。

 どれもギリギリだったので場所や気づくタイミングの微妙な差が明暗を分けるようである。


 ミツナは自分の失敗だと落ち込んでいるがボムバードの速度が速すぎるのだ。


「気づかれるギリギリまで近づいてみよう」


 気にするなと言ってもミツナには負担になってしまう。

 慰めの言葉を並べるぐらいならばどうやって上手くボムバードを倒すのかを考えた方がいい。


 ただミツナが急に加速できるわけもないので取れる対策としてはミツナが気づかれないギリギリまで近づいてボムバードに一気に攻撃するしかない。


「次はやってみせる!」


 今度こそ失敗しないとミツナはやる気を燃やす。

 いくら失敗したって生きていればやり直しできる。


 エイルもミツナを責めるつもりなんてなく気分を新たにボムバードを探す。


「いた!」


 燃えるような赤い羽を持つボムバードは森の中でやや目立つ。

 森の奥まで入ってくるとボムバードは意外と簡単に探し出すことができた。


 ボムバードを下手に傷つけると爆発してしまうという性質のためか目立っていても他の魔物はあまり手を出さないようで意外と警戒心も近づかれるまでは緩い。


「俺はここで待つから、頼んだぞ」


「うん、任せて」


 警戒心が緩いといっても魔物なりの警戒はしている。

 二人で動けば見つかる可能性も高くなってしまうのでエイルは距離を開けたところで待機してミツナだけでよりボムバードに接近する。


 気配を消し、音を立てないように慎重にボムバードとの距離をギリギリまで詰めていく。


「いくのか?」


 ボムバードにゆっくりと近づいていたミツナの動きが止まった。

 野生的な勘が優れているミツナはこれ以上近づくとバレてしまうかもしれないことをなんとなく感じ取っていた。


 集中を高めてボムバードに襲いかかるタイミングを図っている。

 エイルもミツナがいつボムバードに襲いかかってもいいようにヒールできる心構えをしておく。


「……今だ!」


 ボムバードが自分の羽をつくろい始めた瞬間ミツナは走り出した。

 赤い毛に覆われたしなやかな足で地面を蹴って一瞬でトップスピードに乗る。


「いける……!」


 羽を毛づくろいしていたボムバードはミツナに気づくのが少し遅れた。

 しっかり距離を詰めてベストなタイミングを狙った。


 ボムバードが飛び立とうとしたけれどもうミツナはボムバードに近づいている。


「はあっ!」


 ミツナは剣を振り下ろす。

 ベストなタイミング、ベストな速度で近づいたのにボムバードはもうミツナと距離を開けようとしていた。


 けれどもミツナの剣先はボムバードに届いてスパッと翼を切り裂く。

 最初の一匹よりもちゃんと刃が届いた。


「ミツナ、どけるんだ!」


 やった。

 あとエイルがやってくれると笑顔を浮かべたミツナの耳にエイルの叫び声が聞こえてきた。


 空中で振り返ると真っ直ぐに手を伸ばしたエイルが焦りの表情を浮かべている。


「くっ!」


 エイルは焦っていた。

 ミツナは上手くボムバードに接近して攻撃を加えてくれたのだが一つ大きな問題が発生した。


 切り付けられたボムバードとミツナがエイルから見て重なってしまったのである。

 近いならともかく距離が離れているとヒールすることも簡単ではない。


 ボムバードがそこにいると分かっていてもミツナを貫通してヒールすることはできない。

 つまりエイルはボムバードをヒールして気絶させることができていないのである。


「ミツナ、逃げろ!」


 切り付けられたボムバードの体がブクっと膨らんだ。

 次の瞬間ボムバードは大きな爆発を起こした。

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