ギルドからの依頼3
「こちらを。モンスターの討伐をお願いしたいのです」
「モンスターの討伐? なんでまた……」
タチーノは一枚の依頼書をテーブルに置いた。
お願いの内容を聞いてもなんでそんなお願いするのか分からない。
見た感じここらで冒険者が足りていないような様子もない。
こんな旅の途中に立ち寄ったエイルたちではなく、近くで活動していて何かを依頼しようと思えばできる冒険者はいるだろう。
なのになぜこんなふうに呼び出してエイルたちにお願いする必要があるのだろうかと疑問に思う。
「昨日ショックシープを納品なさいましたね?」
「ええ、それがどうかしましたか?」
問題でもあったのかと一瞬身構えかけたけれど呼び出されてお願いをされるのだ、悪いことではないだろうと思い直す。
「解体を担当しているものに聞きました。納品されたショックシープがあまりにも見事だと」
「見事……?」
「ショックシープは意外と価値の高い魔物です。もこもこの毛、それに硬いツノ、肉に至るまで利用できます。ですがその性質から無事に難しい魔物でもあります」
ショックシープの性質とは毛が常に帯電していることを指している。
なので接近戦闘で戦うのが非常に難しい魔物である。
安全に倒すためには遠距離攻撃が一番いいのだけどそれもまた難しさがある。
単純な遠距離攻撃方法として弓矢が思いつくけれどもこもことして強い帯電状態にある毛は金属に対してわずかな反発力も持っている。
だから毛に向かって矢を放っても思ったほど大きなダメージを与えられないのだ。
そうなると破壊力があって遠距離からできる攻撃は魔法になる。
多くの人が扱う魔法は火属性が多い。
肉はともかく火属性で攻撃なんてされてしまうともこもこの毛はダメになってしまう。
他の属性で攻撃しても血で毛が濡れたりと面倒は多い。
一方でエイルとミツナは投げナイフで顔を狙った。
少しでも傷つけることができればいいが故の作戦で、さらにショックシープにつけられた傷はエイルによって治されてしまった。
治した後に気を失ったショックシープの首を切り裂いたのでショックシープの死体はかなり綺麗な状態でギルドに引き渡されたのである。
「私も実際見て驚きました。あそこまで綺麗にショックシープを倒した冒険者の方は見たことがありません」
「ふふ……」
ミツナの尻尾が揺れている。
ショックシープを綺麗に倒したことを褒められて嬉しいようだ。
ここまで手際を褒められたことが少ないので鼻が高い気分であった。
「その手際を見込んで魔物の討伐をお願いしたいのです」
「……詳しく聞かせてもらいましょうか」
まだ護衛依頼まで時間はある。
他の依頼を引き受けようかと悩んでいたところであるし話ぐらいは聞いてもいい。
「ここから一日ほど移動したところにある森にある魔物がいる。その魔物を倒して納品して欲しいのだ」
「ある魔物とは?」
ただの魔物ならエイルたちに頼む必要はない。
エイルたちに頼む何かの理由があるのだろうと思った。
「ボムバードという魔物がいる。赤く透き通るような美しい羽を持っているのですが……厄介な性質も持っていて大変なのです」
タチーノはため息をついて首を振る。
「ボムバードはダメージを受けると魔力を暴走させて自爆してしまうのです。その際に美しい羽はボロボロになって……綺麗に倒すことがとても難しいのです。一撃で倒すことができればいいのですが非常に素早くてそれも難しいのですよ」
ボムバードはまるで燃える炎のように赤い羽を持っている。
その様子からリトルフェニックスなんて呼び方すらされることもあるほどに綺麗である。
ただボムバードは厄介な能力を持っていた。
まず非常に速度が速い。
臆病な性格もしていて近づこうものなら高速で飛んで逃げてしまうのだ。
そして最も厄介な能力として自爆することもあるのである。
攻撃を受けると体の中にある魔力を暴走させて小規模の爆発を起こす。
仲間であるボムバードを逃すためにそんなことをするのだという学者もいるが、ボムバードを狙う冒険者からしてみればただただ厄介な能力である。
「ショックシープを綺麗に倒したお力でボムバードも倒して納品していただけませんか?」
エイルとミツナはショックシープを綺麗に倒してみせた。
どのような方法を使ったのかタチーノには分からないけれど手練れであるのだろうと思った。
「よほど焦っているのですね」
時間をかければボムバードを上手く倒して持って帰れる人も出てくるだろうと思うのだが、わざわざタチーノの方からお願いするぐらいまで焦る事情があるのだろう。
「……この依頼は領主からのものなんだ。娘のドレスを作るのにボムバード……リトルフェニックスの羽を使いたいと。少し前から依頼を出しているのだけど上手く討伐できる人がいなくて……困っているんだ」
タチーノはガックリと肩を落とす。
普段なら少しずつ集まるものだが今回はある程度の量が必要であり、いつものペースに任せていたら間に合わない。
領主からせっつかれてもいてタチーノも正直困っていたのである。
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