魔物もヒールします3

「二人のことなんだ、ちゃんと二人で考えないと」


「どうしたらいいとかあんまり分からない。エイルがいいというならそれでいい。嫌なら嫌と言う」


「……もう」


 エイルは軽くため息をつく。

 意見がぶつかり合ってケンカになるよりはいいけれど、あまり自分がないというのも困りものだ。


 まだどこか信頼は完璧ではなく、遠慮しているところがあるのかもしれない。


「……まあとりあえずこれで行こうか」


 獣人の国に行くことは嫌だと伝えてくれたので他のところはそんなに問題がないのだろうとエイルは思った。

 旅をしながらもっと信頼関係を築いていければいい。


「地図の写しを作ってもらってトチューの国に向かう依頼を探してみよう」


 地図を買うと高くつく。

 どうせ離れる国だし地図を買ってもすぐに邪魔になる。


 そこで安く簡単に済ませる方法としてギルドに頼んで写しを作ってもらうのだ。

 特定の範囲の町や道などを簡易的に手書きで移してもらったり、中にはそんな魔法を使える人もいる。


 ギルドに魔法が使える人がいればかなり運が良く、いない場合はギルド員の手先の器用さに地図の出来は左右される。

 下手くそでも大体の町と道が分かれば旅はできるのですよほどでない限りは使えないものを寄越されることはない。


 すぐに地図の写しもできはしない。

 奥の部屋から出てきたエイルとミツナはいい依頼がないかと依頼掲示板を見る。


 壁一面を広く使った依頼掲示板にはいろいろな依頼が貼ってある。

 一見すると乱雑に依頼が貼ってあるのだけどよく見るとある程度のルールの下に依頼は分けられている。


 まずは大きく分けて二つ。

 町周辺の依頼と離れたところの依頼である。


 三分の二ほどが町周辺のエリアで受けられる依頼で、残る三分の一が他の離れた土地で受ける依頼になる。

 離れた土地のものは受ける人がいない、緊急に人を集めたいなどの理由から別の冒険者ギルドでも依頼を張り出しているのだ。


 今は遠く離れた土地の依頼を受けに行くことなんてないのでそちらは無視する。

 町周辺の依頼もちゃんと分類がある。


 恒常依頼と突発依頼である。

 通常の場合で依頼と呼ばれるのは突発依頼となっていて、脅威となる魔物の討伐や冒険者ギルドに人が出した依頼などが貼り出されていた。


 恒常依頼は常に貼り出されているもので町周辺にいる魔物をこれだけ倒したら報酬が発生しますというものや急を要しない薬草採取のものなどゆるく遂行できる依頼なのである。


「んーと……いいのはないかな……」


 今探しているのはトチューの国に向かう商人など護衛依頼だ。

 それは突発依頼であるので端に貼られている恒常依頼は流し見して護衛依頼が無いかを探す。


 他にももっと細かくルールを設けて依頼を貼り出しているところもあれば後は乱雑なところもある。

 このギルドはやや乱雑な方だとエイルは依頼を眺めながら思った。


「これなんか良さそうだな」


 エイルは一件の依頼に目をつけた。

 サトルの町というところまでの護衛依頼で依頼主は商人のようである。


 サトルの町はトチューとメジハの国境近くにある町だったと先ほど見た地図の場所を覚えていた。


「しかも片道……依頼料も悪くないし食事は向こう持ちか」


 護衛依頼と一口に言っても色々と細かな条件がある。

 往復で護衛するものもあれば片道だけというものもある。


 依頼料も依頼主次第だし今回の場合は食料なんかも依頼主の方で用意してくれるというものだった。

 ケチな依頼主になると依頼料が低かったり食べるものは自分で用意してこいなんて人も珍しくはない。


 今回のものは依頼の条件としては非常に良い。


「ただ十日後か」


 しかし護衛依頼は依頼主の都合に合わせなければいけない。

 今すぐ出発したくとも護衛対象である依頼主が行かないのならばエイルは待つしかない。


 護衛依頼の開始日は十日後になっている。

 急ぐ旅ではないものの持て余すには少し日数がありすぎるなとエイルは思っていた。


 宿に泊まるのもお金がかかる。


「何か別の仕事も受けようか」


 護衛依頼は受ける。

 依頼書を依頼掲示板から破り取ったエイルは他の依頼に目を向けていく。


 何もただ暇を持て余している必要はなく護衛依頼が始まるまで他の依頼をしていてもいい。


「手軽にできる魔物討伐なんかがいいな」


 十日という期間は長いようで短い。

 あまり時間のかかりそうな依頼は受けることが出来ない。


 ここは簡単にできるような依頼がいいだろうとエイルは思う。

 魔物の討伐ならば長くても数日で終わるので二人でも倒せそうで割りの良いものがないかとチェックする。


「ショックシープの討伐か」


 エイルは一枚の依頼書に目をつけた。

 ショックシープという魔物の討伐で恒常依頼ではなく突発依頼であった。


 依頼料は低めなもの倒したショックシープの状態によっては報酬の上乗せがあるといった依頼である。


「どう、ミツナ?」


「私とエイルなら余裕そうだな」


 どんな魔物であれ倒せる、とまでは思わないけれどミツナはエイルとならば多くの魔物は倒せるだろうと思う。


「じゃあこれも受けよう」


 ショックシープの依頼書も破り取ったエイルは依頼書を受付に持って行って正式に依頼を引き受けたのであった。


 ーーーーー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る