あなたに忠誠を1
宿に戻ったミツナは倒れ込むように眠ってしまった。
痛みはなくとも体にダメージはあったので体を治すためにも睡眠が必要だった。
お昼過ぎまでたっぷりと寝て、お昼にお肉でも食べて栄養補給をしてエイルとミツナは冒険者ギルドを訪れた。
「エイルさん! 昨日大丈夫でしたか?」
エイルが冒険者ギルドに入ると受付の女性が立ち上がって声をかけてきた。
「ああ、大丈夫だったよ。ありがとう、ルーカ。僕よりまず対応してあげなきゃ」
「あっ……すいません!」
ルーカは冒険者の対応中だった。
いきなり放っておかれることになって複雑そうな顔をしている冒険者にルーカは頭を下げて対応を済ませてしまう。
「昨日急にエイルさんの伝言があって……デルカン審問官に慌てて伝えに行きましたよ」
「君が伝言を受け取ってくれたのか。それはよかった」
「よくありません!」
ルーカは頬を膨らませて怒ったような顔をする。
「……なんでだ?」
エイルはどうしてルーカが起こっているのか分からなくて困惑する。
「あんな夜に、また危ないことしようとしてたんでしょう? エイルさんパーティーお辞めになって頼れるようなお仲間もいないんですから……無茶はダメですよ?」
ルーカはモジモジとして少し頬を赤らめる。
ミツナの目から見ればルーカがエイルを慕っているのだけど、エイルは単に心配してくれて怒っているのだなぐらいに思っている。
「でもなんともないようでよかったです。……それで、そちらの方は?」
エイルが無事でホッと胸を撫で下ろしたルーカは睨みつけるような目をしたミツナに視線を向けた。
「この子は俺の奴隷なんだ」
ちょっと気まずそうにエイルが答える。
「ど、奴隷ですか!? エイルさんが!?」
エイルが奴隷を買うなんてとルーカは驚く。
「……一人は寂しくてね」
酔った勢いでとは言えなくてエイルは頬をかく。
一人が寂しかったことは否めないので完全な嘘でもない。
「寂しくて……これを?」
「こ、これ!?」
これ呼ばわりされてミツナが顔をしかめる。
「顔は……可愛いかもしれないけど胸はないし」
「胸のこと言うな!」
「ル、ルーカ?」
「あ、ごめんなさい。寂しかったのなら……私に声をかけてくださればよかったのに」
いつも誰にでもにこやかで優しいルーカが一瞬怖い顔をしたとエイルは思った。
「私の方が……胸もありますし」
「ルーカ?」
「私でよければいつでもエイルさんのために……」
「チッ、なんだこいつ!」
顔を赤くしてエイルに熱っぽい視線を送るルーカにミツナは思い切り舌打ちする。
なんだか知らないけどすごく不快だとミツナは思った。
胸が小さいことをいじられたのもあるしなんだかルーカがエイルに擦り寄るのが気に入らないのだ。
ルーカの方も気に入らないという視線をミツナに向けてバチバチと視線がぶつかり合う。
「えと……デルカンさんは来てる?」
この空気をどうすることもできなくてエイルは話題を変えることにした。
「……二階でお待ちですよ」
「ミツナ、行こう」
ルーカと最後まで睨み合うようにするミツナを連れて冒険者ギルドの二階に上がった。
「……くっ」
「ルーカ? お客来てるよ?」
悔しそうな表情を浮かべるルーカに同僚の女性が声をかけるけれどエイルが上がっていた階段の方を向いたまま反応がない。
受付に冒険者が列をなしているのだけどルーカの心情は対応している場合ではなかった。
「ミッドエルドをクビになってチャンスだと思ったのに……」
辞めたとルーカは口にしたが実際は追い出されたのだということは日頃からミッドエルドのメンバーのエイルに対する態度を見ていれば分かる。
パーティーを追い出されたことを嬉しく思うべきではないのだけどひっそりとチャンスであるとは思っていた。
今ならエイルは追い出されて弱っている。
優しく癒してあげればいい感じに近づけると思ったのにミツナという邪魔が現れた。
「ルーカァ? 手伝ってくれない?」
こんな時に限って受付に用事がある冒険者が多い。
同僚の女性は列になった冒険者を見て困った顔をルーカに向けていた。
「チッ……」
ーーーーー
「ルーカはいい人だからケンカしちゃだめだよ?」
「ふん!」
エイルがミツナを諭すけれどミツナはそっぽを向いてしまう。
「……まあしょうがないか」
合う合わないはある。
ミツナとルーカの相性が悪かったなどエイルは原因が何も分かっていなかった。
「よく来てくれたな」
冒険者ギルドの奥の部屋に入るとデルカンが席に着いていた。
エイルが来るとニコリと笑顔を浮かべて抱擁を交わす。
「まずはこれを」
「……これは?」
デルカンはエイルに小さな袋を渡した。
「妻が焼いたクッキーだ。私の好みに合わせて甘めに作られてある。身内贔屓にしても美味いぞ」
「ありがとうございます」
エイルはクッキーの袋を自分の荷物に入れてデルカンの正面に座る。
ミツナもエイルの横に座らせる。
「ゴナガーオです。よろしくお願いいたします」
デルカンの隣にはメガネをかけた文官っぽそうな男性が座っていた。
「さて昨日の事件について話そう。記憶を読んだ限りそちらのミツナさんの主張が正しいと認められました」
二等審問官であるデルカンのスキルはしっかりと証拠として認められる。
どうしてもいうのならデルカンがウソをついているかどうかまた別のスキルで鑑定することはできるが、事件の捜査に関してデルカンは公平なのでそんなことしても時間の無駄である。
デルカンがミツナが正しいと認めることは公的にミツナの主張が認められることになる。
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