追い出され、奴隷を買いました3

「彼女はミツナといいまして、元冒険者です。仕事に失敗して違約金を支払うことができずに奴隷として身売りしました。こちらに来た時にはもうこの状態でして……」


 さらってきたような違法な奴隷というものも存在するけれどこうして表立ってお店を構えているところの奴隷は合法である。

 借金を返すことができなかったりお金を作るために最終的な手段として自分の身を奴隷商に売る。


 身売りしたからと一生奴隷でもなく一定の期間奴隷として働けば解放してもらえるシステムになっている。

 ただ奴隷としてやっていくのも楽ではないので簡単に身売りするものではないが、現状多くの人が色々な問題から奴隷に身を落としている。


 冒険者として身の丈に合わない仕事を受けて失敗するなんて世の中にはありふれた話だ。

 失敗して終わりならいいのだけど時には高額な違約金が設定されている仕事もある。


 高い報酬に釣られてそうした仕事を受けて失敗した冒険者はこうして奴隷として身売りするしかなくなるのである。


 「等級は4なので性的行為や暴力的行いも殺さない限りは許容されます」


 奴隷にもランクがある。

 ちゃんとした生活保障の上雇うようにして働かせることぐらいが許されるランクから殺さなければなんでもアリなランクもある。


 これも奴隷本人の希望によるもので性的行為などを許容できるのなら奴隷期間は短く済むという話なのだ。

 等級4とは命を奪う行為でなければ何でもありな代わりに大きな借金などを肩代わりしてもらった人ということにる。


「痛みに強いって……」


 確かに体はボロボロになっているので痛みに強そうな感じはある。

 ただボロボロだから痛みに強いと連れてこられても少し違うのではないかとエイルは思った。


「彼女は痛み無効というスキルを持っているのです」


「痛み無効?」


 あまり聞きなれないスキルにエイルは眉を上げた。


「一切痛みを感じることがなくなるスキルのようでして、戦いにおいては有利に働くとも不利に働くこともあるスキルです。ですがお客さまのご希望通りに痛みに強い、まあ痛みを感じませんのでいかようにもできます」


「痛みを感じない……」


 興味を持ったエイルは立ち上がってミツナの前に行く。

 体はボロボロで肌も赤っぽい毛も薄汚れている。


 エイルが前に立つとミツナは髪と同じ赤い瞳で見上げるように睨みつけ、今にも噛み付いてきそうな雰囲気を出している。


「暴れるので隷属の魔法もかけてあります」


 一部の奴隷は非常に反抗的なことがある。

 そんな時のために相手に無理やり命令を聞かせるため隷属の魔法をかけることがある。


 ミツナがエイルを睨みつけて襲いそうな雰囲気がありながらもそうしないのは隷属の魔法によって押しとどめられているからだった。


「どうでしょうか?」


 エイルは今一度ミツナの状態を確認する。

 性的行為も許容される奴隷だが体は細くてガリガリでボロボロさと相まって手を出すような気にもならない。


 ただ目だけはエイルの喉に噛み付いてでも倒してやるというような意思に満ちていた。


「いくらだ?」


 奴隷商人としても一応連れてきたけど売れないだろうなと思っていた。

 顔の造形は綺麗だがそれ以外のポイントがマイナスすぎるからだ。


 体は怪我だらけでボロボロで体つきも特別良いものではないし反抗的で従順さがない。

 普通の人なら買わないだろうなとちょっと諦めていたのである。


 けれどしばしミツナの顔を見つめていたエイルはミツナのことを買おうと決めた。


「えっ……あっ、はい。このような感じですが等級が4であることと負っている借金が高額でしてお高めとなりますが……」


「構わない」


 すっかり酔いが回っているエイルはほんのりと赤らんだ顔で奴隷商人を見た。


「……分かりました」


 奴隷商人としては売れそうにない奴隷が売れるなら文句はない。

 エイルは奴隷の扱いの説明などを受けてミツナを買った。


 パーティーを抜ける時に渡されたお金もすっからかんになってしまった。

 契約書にサインをした後になってようやく奴隷なんて買ってよかったのかと後悔し始めたけれどもう買ってしまったものはどうしようもない。


「とりあえず家に帰るぞ」


「ゔぅ!」


 何の反応もないかと思ったけれど声をかけると返事はあった。

 相変わらず睨みつけるような目をしているが意思の疎通は取れるようで安心した。


 小さくため息をついたエイルは店を出て自分の泊まっている宿に歩いていく。

 片腕のない神迷獣人奴隷を連れているので周りはチラチラとエイルに視線を向けていた。


 こんなふうに目立つつもりはなかったのにな、と再びため息が漏れてしまう。

 宿に着く頃には酔いが少し覚めてきていた。


「噛み付くなよ?」


 エイルはミツナの口輪を外す。

 命令すれば黙らせられるはずなのにわざわざ口輪をするなんてひどい奴隷商人だと思う。


「ひどくボロボロ……」


「触るな!」


「おっと」


 体の小さい傷に触れようとしてミツナが噛みつかんばかりの顔をして叫ぶ。

 エイルは慌てて一歩を下がり、何もしないと手を広げてアピールする。

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