世界の光を集める旅路
藍凪みいろ
第一章 光集めの魔女
序章
青白く晴れ渡る空の上、一人の少女は箒棒に腰をかけながら飛んでいた。腰まである空色のストレートヘアは時折吹く風によって、緩やかに靡いている。少女の名前はニーナ。若くして優秀な魔法使いである称号を持つ天才少女である。
「ここ最近、晴れが続いてくれているから、旅をしている身としてはとても助かるわ」
空の上を飛行しながら、ニーナはぽつりと呟く。雨の日は外で野宿が出来ないから、必然的に何処かの国に立ち寄り、宿屋で寝泊まりをしなければならなくなる。それがどうかしたのか?って、わからないの? お金がかかるからに決まっているじゃない。
ニーナが魔女として旅に出始めたのは今から2年前の15才の頃。その時は両親に貰った金貨がまだ沢山、3つの巾着袋の中に入っていた。
大切に使えば、一年は持つだろう。と家を出た最初の1日目の時は思っていたが、色々な災難があり、一年は持つだろうと思っていた金貨は、3日で一気に喪失したのだ。
「ほんと、あの時はショックだったわ。最初に降り立った街で運悪く窃盗に遭うんだもの」
まあ、私は優秀な魔女だから、窃盗なんて魔法で捕まえて、盗まれた巾着袋の二つも取り返したのだけれど。
「思えばここ2年、色々あったわ。あ、見えてきたわね、あれが、ソルヴィーヌ国」
ニーナは前方に見えるこれから降り立つであろうソルヴィーヌ国を青色の瞳で見据える。
ニーナが腰をかけ空を飛行する箒は悠々と進み行き、ソルヴィーヌ国へと近付いて行く。
✦
ソルヴィーヌ国に着き、港近くのロディアという街に降り立ったニーナは、箒を片手に持ちながら、人々の声で賑わう市場へと足を向けて歩き始める。
「食をそそるいい匂いがするわね。何か買おうかしら」
ニーナは果物や、野菜。魚類、パンなど。様々な食べ物が立ち並ぶ両道にある店々を見つめながら、歩きながら何を買おうかと考え始める。
「今あるお金も、そこまで多くはないから、あんまり高い物は買えないか。はぁ、今ある金貨がなくなるのもそう遠くないわね。また何処かで一定期間、働かなければならないわ」
人の感情から生まれる光を集めて、世界に必要不可欠な【魔法瓶】を作るのが私の仕事である。けれど、光を集めなければ【魔法瓶】は作れないし、完成した【魔法瓶】を売ることも出来ない。
光を集めて【魔法瓶】を作るという普段の仕事から得た手持ちの金貨がなくなったら、確実に稼ぐことが出来る仕事を一定期間し、働いて金貨を今まで得ていた。
しかし、本業の魔女としての仕事である光を集めて魔法瓶を作る以外の仕事をして働きたくないのがニーナの本心である。
優秀な魔女であるというのに、本業である仕事が滞ったら、他の仕事をして働かなければならない。
本業の魔女としての仕事以外の仕事をやることに抵抗を覚え、働きたくないと強く思うことも今まで何回もあったが、やりたくなくても働かないと金貨も得られなければ、旅を続けることも出来ない。
「人の感情から生まれる光を集めるのも大変だわ。ほんと、上手くいく時は結構稼げるけれど……」
ニーナは独り言のように呟きながら、果物が売られている店の前で立ち止まる。
「あら、美味しそうね」
「いらっしゃい〜! お? もしかしてお嬢ちゃん、魔女さんかい?」
「ええ、そうよ。この林檎と種無しの葡萄を一個ずつほしいのだけれど」
ニーナは茶色い箱の中にある林檎と葡萄が入った箱を指差しながら、店主に告げてから、巾着袋から金貨を取り出して、店主の手に手渡す。
「はいよ〜! まいどあり! ちょっと今袋に入れるから待ってくれ」
「ええ、わかったわ」
店主の男は林檎と葡萄を箱の中から一個ずつ手に取り、袋に詰めていく。店主の男がニーナが買った林檎と葡萄を詰め終わると、店主の男はニーナに袋ごとを手渡す。
「はいよ〜!」
「ありがとう」
ニーナは店主の男に礼を告げて、その場を後にした。
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