3年11組異世界転移

けーすけ

第1話 異世界転移

 キーンコーンカーンコーン


 授業の終わりを告げるチャイム。


 「次、古文じゃね?」

 「うわぁ、最悪だわ〜」


 教室のどこかから聞こえる雑音。


 スッ、スッ、サー


 黒板を丁寧に消す音。


 何もかもが聞き慣れた音。

 そんな音の中に「ゴゴゴゴゴゴゴゴ」

 と言う聞いたことのない地鳴り音のようなものが混ざっている。


 「きゃー!、何これ、地震?」

 「ぐすっ、うぅ、助けてぇ」


 教室の至る所から悲鳴が聞こえる。

 次第に校舎全体が揺れ、死を覚悟した俺は目を閉じた。


 少しして揺れが収まり、目を開けると、


 「ッ! ど、こだ? ここ……。」


 見たことのない風景が広がっていた。


 パッと見る感じ、広間のようなところだろうか。

 白い壁に6本の大きな柱、その中央にクラスごと、いや、学校にいた全員が飛ばされたのか。


 混乱で眩暈がする。

 一部の女子は泣き出し、一部の男子は反発している。

 一部のオタクたちは、「ついに来た!」と言っている。


 そんな中、俺は安心感を覚えている。

 「やっと、から逃げられる」

 表情には出さないが、密かに異世界というものに興奮している。


 「ちょっと皆さん、落ち着いてください」

 

 担任の先生が、なんとか生徒たちをまとめようとしている。


 「愛菜ちゃんよぉ、こんな状況だし、声届くわけないだろ」

 「そうそう、あんな奴らほっといて、俺らと楽しい事しようぜぇ」


 クラスの問題児、麻生駿太あそうしゅんた渡邊魁斗わたなべかいとが、先生にそう言い寄る。

 この2人は昔から問題行動が耐えない生徒で、うちの担任が小動物のような人なので、暇さえあれば口説いているのだ。


 「ちょっとあんたたち、みっともないわよ。高校生にもなって恥ずかしくないのかしら」


 そう注意する彼女は神田彩葉かんだいろは

 このクラスの委員長で、はっきりとものを言うため、皆んなから恐れられている。

 鋭い目つきから、皆んなから距離を置かれているが、成績優秀、スタイルはモデル並み、顔は有名女優にも引けを取らず、実家が金持ちなお嬢様で、尊敬もされている。

 

 「けっ、委員長だからって、生意気なんだよ」

 「俺たちをバカにしてんのか?」


 問題児2人は、そんな委員長にいちいち突っかかる。

 クラスメイトはいつもこの光景を横目に見ながらも、なるべく関わらないようにしている。


 「はいはーい、そこまでだ。喧嘩してたって何も楽しくないだろ!」

 「そうよ! まずは状況把握からしなきゃね!」


 とっても笑顔で仲裁に入った男女2人。


 鳴神響なるかみひびき朝火冬香あさひとうかだ。


 2人は幼馴染でいつも行動を共にしていることから、付き合ってるのではないかと噂されてる。

 いつもクラスでは、まとめ役のようなものを担っている。

 クラスの奴らも、委員長の言う事はあまり聞かないが、2人の言う事なら大体は了承する。


 「2人の言う通りだぞ。今は状況を把握する必要がある」


 とっても爽やかそうなイケメンが登場したが、彼の名前は山川義澄やまかわよしずみ

 学校一のモテ男で、ヨッシーの愛称で呼ばれている。

 クラスでも、中心となる人物で、いつも頼りになる。


 そんなクラスメイトたちを達観している俺は、東龍雷あずまりゅうらいだ。


 どちらかといえば陰よりの高校生。

 何事も平凡な一般生徒だが、普通の人より少しオタク体質なので、この状況には少々、いや結構興奮を覚える。


 そんなこんなで、俺たちのクラスは中心となる人たちによって落ち着きを取り戻したのだが、他クラスの奴らはまだ騒いでいる。


 その時、正面にあったとても大きな両開きの扉から、男の人と女の人が入ってきた。


 王道展開であれば、騎士か護衛の男と、王女様か聖女様だろう。


 「みなさん、初めまして。いきなりのことで混乱しているかと思われますが、色々と説明させていただいてもよろしいでしょうか」


 女の人が口を開くと、その場にいた全員が、自然と口を閉じ、真剣に話を聞く姿勢をとった。

 自然と聞き入ってしまうような、声、話し方、仕草をしているのだ。


 「静かにしていただき、ありがとうございます。私は、この国の聖女、セシリアと申します。こちらはこの国の騎士団長、ヴィシュケルといいます」


 女の人は、緑色の髪を腰のあたりまで靡かせており、歳は俺たちとそう変わらないように見える。

 高価そうな白色の服を着ており、その周りにはオーラのようなものが漂っている。


 男の方はシルバーの防具のようなものを全身まとっており、顔をだけを出している。

 シルバーの短髪に、シルバーの髭、シルバーの瞳をしている。

 イケおじとでもいえば良いか、とてもかっこいい。


 「5年後、大きな災禍がこの世界を襲うという、予言を見ました。それで、居ても立っても居られなくなって、勇者召喚の儀式をしてしまいました」


 まぁ、王道展開だな。


 「おいおい、勝手に呼び出しておいて、まさか、その災禍に立ち向かえとかいうのか!? ふざけんなよ」


 この反応も王道展開だ。


 「本当に申し訳ございません。皆様の生活を壊してしまって、とても、自分勝手な事だと分かっています。ですが、どうか、お力を貸して頂けないでしょうか、国民の笑顔を、幸せな生活を護りたいのです」


 「その、災禍を止めたら、日本に帰れるんだろうな!?」

 「はい! それだけは約束します。そして、この世界にいる間の生活も保証します」


 聖女様の必死のお願いにより、学校の皆んなは納得したようだ。


 「うーん、だけどよぉ、俺たち今まで平和な世界で生きてきて、その災禍? とやらを止められる気がしないんだが」


 クラスの中心人物、鳴神響がそう口を開く。


 「そこに関しては、問題ありません。皆さんにはそれぞれ、スキルが付与されています。皆さんは異世界の勇者様なので、訓練を積めばとても強くなれます」


 とのこと。

 まぁ、ここまで王道中の王道だな。


 「いまから、皆様の、スキルを確認する時間を与えます。私の言う手順通りに行動してみてください」


 聖女セシリアが言うには、「ステータス」と叫ぶ事で、色々な情報を見ることができる。


 「す、ステータス」


 俺の前に半透明の水色の板のようなものが出現した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 名前:東龍雷

 レベル:1

 スキル:二重人格

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 書いてあるのはこれだけ。

 スキル二重人格? なんだこのスキル。


 こんなん、スキルにならなくても元からだっつーの。

 はぁ、思い出したくない事思い出しちまった。


 ***

 

 東龍雷は幼い頃、母親から過度な虐待を受けていた。


 龍雷の父親は当時荒くれ者で、龍雷という息子ができた後も度々犯罪を犯していた。


 母親は、犯罪を重ねる父親を見限って離婚したのだか、収入を父親に頼り切っていた為生活が回らなくなり、精神が崩壊してしまった。

 そしてそのストレスや怒りの矛先を全て龍雷にぶつけた。


 育児などろくにせず、酒にギャンブル、家の中はいつもタバコの臭いが充満していて、壁はどこも黄ばんでいた。


 「ただいま」と言えば「なんで帰ってきたんだよ」と殴られ、機嫌が悪い時は「視界に入ってくんな」と押し入れに閉じ込められた。


 お袋の味など知らない。

 まともな食事というものを、家で食べた記憶など無い。


 龍雷はずっとそんな環境で育ってきた。


 何年も、何年も、何年も何年も我慢してきたが、それが自分にとっては当たり前の環境であり、どうこうなるものでもないと半ば諦めていた。


 だが、いつの間にかその苦しみから逃れるための自己防衛とでもいうのか、龍雷の中にはもう1人の自分が存在していた。

 いわゆる二重人格というやつだろうか。


 母親はそんな龍雷を気味悪がって、祖父母の家にまだ幼い龍雷を置いたままどこかへ消えてしまった。


 龍雷は、感情が昂ったり恐怖を感じたりした時、もう一つの人格が表に出てきてしまうことを知っていたため、極力人と関わらないように生きてきた。


 だが、龍雷はまだ知らない。

 もう一つの人格が、だと言うことを。


***


 こんなスキル、いらねぇよ。

 周りのみんなは、自分のステータスを見て興奮している。


 「次に、オーラ解放をしてみましょう。オーラはその人の強さ、人となりなどが、直に目認できるので、良いですよ」


 「オーラ解放」

 

 聖女様の言うことに従って、オーラ解放をする。


 俺の周りには、真っ黒な禍々しいオーラが漂っている。

 オーラの大きさはとても小さく肉眼でギリギリ見えるくらいのものだ。


 周りを見てみると、みんなの強さがよくわかる。


 問題児2人は赤色のメラメラとしたオーラが2メートルほど立ち上がっている。


 委員長は白色の明るいオーラが5メートルほど。


 幼馴染2人組は、虹色のオーラを5メートルほど。


 爽やかイケメンは爽やかなオーラを5メートルほど。


 「このクラスは才能のある生徒がたくさんですね! 5メートル級のオーラを発揮できるなんて!」


 俺は数ミリのオーラしか纏えていない。

 そうか、俺、モブなんだ。


 「聖女様はどのくらいのオーラをお持ちで?」


 爽やかイケメンのヨッシーがそう口を開くと、聖女様はオーラを解放した。


 ブワァー! と立ち上がったオーラは確認できないほど上まで立ち上がり、心地の良い空気が俺たちの方まで届いてきた。

 色は綺麗な緑色で、川の流れのように聖女様の頭の上を漂っている。


 皆んな呆気に取られているようだ。

 

 「では、2人1組を作ってください」


 ぼっちにとって、悪魔の一言が、いきなり、聖女様の口から放たれた。


 「二人、一組、だと。」

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