第2章

第1話

「もう、これで大丈夫…」


カフェを出た美咲は、都心に向かう電車に乗っていた。

ドア付近で壁にもたれて立ち、電車の窓の外を流れる景色を見つめながら、そう心の中でつぶやいた。


そんな時だった。


ブッ、ブブッ。


マナーモードにしていたスマホが振動する。


「あ、拓海(たくみ)かな。電車に乗ったって連絡しな…」


スマホの画面にふと落とした視線が、ロック画面に表示されたメッセージに釘付けになる。


1件のショートメッセージの着信通知。

美咲は急いでスマホのロックを解除する。


ー 翔太です。元気?


翔太からの突然のメッセージだった。


「え…。ウソ…。翔太?ホントに?」


電車が最初の駅に到着したことを知らせるアナウンスが流れる。

美咲が立っていた側のドアが開き、電車から降りようとする大勢の乗客が押し寄せ、転びそうになりながら美咲も駅のホームに押し出された。

駅のホームを出口に向かって流れる人ごみの真ん中で、立ち尽くす。美咲にわざと体当たりしていく若い男の「チッ!邪魔だよ、オバサン!」という舌打ちも、美咲の耳には届いていなかった。


電車は次の駅に向けて発車し、駅のホームに美咲以外誰もいなくなった頃、ようやく美咲の右手の人差し指が動き、翔太からのメッセージをゆっくりとタップした。

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