川の流れ

犬のことが好きな男が川を流れていくところを私は出会した。高速道路に妖怪がわらわらあふれていたので車を止め、歩いて、高架橋を降りて、谷間に点在する民家を目指している歩いている途中だった。方向が分からず、とりあえずちょろちょろと流れている川の流れを手がかりに地面を歩いている途中だった。歩けば歩くほど足は疲れてくるので、私は自然と、へとへとになり、しゃがみ込もうかもう少し頑張って歩こうか迷っていた。川を流れる男は犬が好きらしくずっと犬と戯れていた。男の周囲には十数匹の犬が同様にして流れておりというか流れる犬の中心になぜか男がおり流れる犬がくるくる流離したり合流するなかになぜかいつも中心に男がぷかぷかと浮かんでいるのだった。犬はフレンチブルドッグ、秋田県、ゴールデンレトリーバー、土佐犬、シェパード、もこもこした犬種のわからない大型犬などであった。川幅はかなり広く、海の子供。

「ねえ、私の声があたりに響いた。

「んんんんんんんん」とその男は「ん」だけで返事をした。眉毛が動き、眼球が回転し、唇が翻り、頬が膨れた。風がその唇から吹き出し、鼻腔へと吸い込まれた。男の全身の筋肉がブルブルと震えた。男は一応は服を着ており、けれど全身デニムだった。びっしょりと濡れており、濡れたデニム特有の、とても濃い、青い色をしていた。

「ねえ、と私は続きのセリフを呟いた。「なに、してるの?

「まあ、なんていえばいいんだろう、我ながらいつだって言葉に不自由をしていて、なんていえばいいか、誰か、神様に似た誰かが俺の代わりに大便してくれたらいいんだけど」

「そっちの大便じゃなくってさ」と男は補足するように、呟いた。呟くとやはり男の全身の筋肉がぶるぶると震え男と犬たちは全体となって川表面でぐるりと回転した。「まあ、なりゆきというのはいろいろな種類があって、こういうふうに犬に囲まれながら川を流れてしまう結果にいきつくタイプのなりゆきというか運命もあるんだよ。あまり深く考えないほうがいい。こういう現象は意外とまあ起こり得ることであって、俺も俺の周囲を浮かんでいるこの犬たちも十分に承知している。あ、ちなみにこの犬はついさっき一緒になったばかりで赤の他人というか全然昨日までの俺とは関係なかったんだけど。なんか川に浮かんでぷかぷか浮かんでいたら、四方八方から俺と同じくぷかぷかと浮かんでは沈んでいる犬たちが犬種もさまざまにやってきて、なんか知らないうちに俺たちは固まって、一団となって、きっと、このまま海まで流れ着くところなんだろう。海に行けば何があるんだろう。猫とかいっぱい浮かんでいるんだろうか。うみねこっていうくらいだし。けど、俺たちだってこのままずっと流れていくんだ。どんどんどんどんどんどん」

そっかあ・・・と私は内心とても感心した。感心すると口から炎が出るらしく、あたりが煌々と照らされた。私の喉は焼け爛れ、どくどくと喉の内壁を、焼け爛れた私の血肉が垂直に垂れてゆく胃袋で私の血肉さらに細かくどろどろに溶かされて私は私を消化してゆくのだった。照らされる明かりに私自身の肌がとても赤く反射して、なんだか体の中の赤い血液と体の外側の赤い炎とかいい勝負だった。燃え尽きるまでしばらくかかって、燃え尽きた後あたりはとても焦げ臭くって、私はなんだか疲れ切ってしまったのでくたくたとその場に座り込んでしまった。

「あああああああ」って私は呟いた。

「あああああああって呟いているけれども、どうしたの、というかさっきまで炎をあんなに吐き出していたのに、よくまだ、音が出せるね。すごいね。すごいよ。なんだかとてもすごいことだと思う」と男が言った。

「まあ、これは、私は言いかけて、川の先が崖になっており、滝となってどどどどどどどどどどどと水が降り注いでいることに気がついた。

というわけで、男と犬は次々に滝に飲まれて、どどどどどどどどどどという音の中に吸い込まれていった。「うわああああああ」って男は言っていたと思う。犬たちも銘銘、鳴鳴していた。

滝壺に飲まれていく多種多様な犬たちその鳴き声、こだまするわけではないけれども、すごくうるさくて頭上には渦巻き状の雲がぐるぐると回っていた。

後から知ったんだけれども、その滝は地元では有名で、定期的に男と犬が流れてきて、うわああああと叫びながら滝壺に飲み込まれてゆく、そんな場所なのだという。

滝壺に飲み込まれた男と犬はみんな死んでしまい、どこからかやってきた上半身が熊で下半身がとても大きな生き物という合成された生き物に屍肉啄まれて自然の食物連鎖の一部になるのだそうだ。

私はものは試しと思い私もまたその川に流れその滝壺に落ちてみることにした。

すると、私は気を失い、そして気がつくと、そこは、例の上半身が熊の合成された生き物の腹の中で、その腹の中では、無数の犬たちが走り回って飛び回り、男たちは全裸で犬の間を走り回っていた。そう、みんな生き返っていたのである。

腹の中は年々犬たちで溢れかえり、犬たちはいつまでも腹の中で飛び回り、楽しく暮らした。

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