第3話 友人

私は未来からの私が友人の危機を教えてくれたことは話さなかった。


鏡も怖くなって、再び封印、つまり箱に入れて押入れの隅に置いといた。


数日が経ち、私は気晴らしにバスケットボールの練習をしようと、体育館へ向かった。


屈子も珍しく付き合うという。

屈子はあまり運動が得意ではなく、普段はこういう時は付いてきてくれないことが多い。


私は着くなりバスケットのゴールリングにボールを投げ込んだ。


1回2回と、ゴールを決めて、3回目をとボールを持ったところで、

屈子が叫んだ。


「投げないで! もっとゴールリングから離れて!」


その時、誰かが体育館の扉を開けた。


開けた瞬間、ビューと強い風が入ってきた。

ちょうど外で突風が吹いた感じだった。


その瞬間、バスケットボールのゴールポストが

ドスンと落ちてきた。


「ひぃ。」と私は思わず声を上げた。


屈子はこのようになることを知っていたような顔だった。



その日の夜。


屈子は今日の出来事は知っているようだったけど、本当にそうなのだろうか。

鏡はここにあるのに……

私は不思議に思っていた。



「ピーンポーン」

玄関のチャイムが鳴り、屈子が来た。


「今日、あったことだけど……」

私がそう言いかけたとき。


「それはね。これだよ。」

屈子は鏡を出してきた。


「えっ?」と思い私は奥に封印していた箱を開けた。


「こちらにもある!」

「未来を映し出す鏡が2つあるってこと?」


「そうみたい。」

屈子は鏡を持ちながら言った。


屈子は未来の自分を見たときに、気になって鏡を拾った場所へ行ったらしい。

どうやら、そこにもう一つ鏡があって、拾ってきたようだ。

未来の自分(屈子)とも話したらしい。

そこで、私の危機のことも知ったらしい。


「鏡を鏡で映したらどうなるかな。ちょうど月も出ているし。」

屈子はちょっとワクワクしながら言った。


「合わせ鏡ってこと?」


「それだと、ちょっと、いやかなり怖いから。斜めにして、ちょっと映してみよう。」

「5+5で10年後かな。」

屈子が自分の鏡をもって見つめている。


私は屈子の鏡に、私が持っている鏡が映るように、位置と角度を調整した。

私の鏡には私が映るようにして。


「どう?」

私が聞くと、屈子は驚いた表情をした。


「どうしたの?」


「映ってない……」

屈子はボソッと言った。



これは半分推測だけど、この鏡は月が明かりを照らしているときだけ、未来が見える。

未来のその空間に対象の人物(例えば未来の私)が居なければ、

単に今ここにいる人物の5年後の人物の姿が映るだけで、話しかけられたりはしない。

その人物が笑えば、鏡に映っている人物も笑うし、こちらが怒ればあちらも怒る。


未来のその空間に対象の人物(例えば未来の私)が居れば、

純粋にその時の5年後の人物が映る。こちらに向かって、話しかけたりもする。


ここまでのことがわかっている。半分は推測だけど。



つまり、鏡に映っている私が、もう一つの鏡に映らないということは、

10年後の私はいないと思われる。


そうこうしているうちに就寝時間になった。


屈子に何と言って、別れたのかも覚えてない。




翌日。


屈子のほうから、話しかけてきた。


「私、昨日、未来の自分に話を聞いてみたんだ。」

「ほら、鏡の映るところに、未来の自分がその場所にいれば、未来の自分と話すことができるでしょ。」


「10年後じゃなく、5年後の自分なので、もちろん10年後のことは分からなかった。」

「でも、この鏡に手を触れて目を閉じると、映っている未来に行けるみたいだよ。」


私は本当にそんなことができるのかと屈子のほうを見た。


「でも、2枚の鏡を使って10年後に行っても私はすでにいない可能性があるし。」



屈子はなにやらビニールのようなものを取り出した。


「これよ。この低反射フィルムを鏡に貼るのよ。そうすれば、10年後よりちょっと前に戻るかもしれない。」



当日の夜。


月が出ている状態で、ちょっとずらした合わせ鏡風にして、そのうち1枚には低反射フィルムを貼って、

まずは屈子が手を合わせて、目を閉じた。

ちょっとしたら、そのまま鏡に吸い込まれた。

驚いたけど、私も手を合わせて目を閉じて、そのまま吸い込まれた。


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