第25話 勢揃い

 あれから、何回か視察に付き合った。


 占いの館には何度かゲームのヒロインの攻略相手が訪れた。……私はあらかじめ隠れておいた。


 幼馴染の演劇部の侯爵令息ルーベン・キャンベルも来た。現在のカードは「皇帝」の逆位置。自分を過信しているか意欲を失っているかのどちらかで、今の状況を詳しく聞かないことにはどちらとはっきりとは言えないものの……一つずつできることから行動した方がいいとイグニスがアドバイスしていた。


 素直に聞いている様子からも、何か悩み事はあるのだろうなと思った。


 レイド・マーキュリーも来た。彼の現在は「魔術師」の正位置。強い意志と情熱で物事にあたっているカード。騎士として頑張ろうと気持ちをあらたにしたようだ。


 ……皆、色々考えているんだなと思った。自分だけが悩んだり苦しんだりしているわけじゃない。今の私はそこから抜け出して、幸せなのかもしれないと思った。


 そして何回目かの視察――なぜか休日のある日、私たちは占いの館の別室に勢揃いしていた。


「パンパカパーン! はい、皆さん集まりましたね〜!」


 魔法使いのオリバー・クロムウェルがハイテンションで最初の挨拶をする。彼だけが立っている。クラッカーをパーンと鳴らして、ゴミは魔法で一箇所に集めた。魔法使いだということはこのメンバーには知れ渡っているようだ。


 ゲームでいうところの、イベントが何かがあったのかもしれない。


「本日は、パルフィちゃんの発案で皆で遊びましょうな会を開催することにしました〜!」


 パチパチパチ。


 幼馴染のルーベンと騎士のレイド、パルフィと、もう一人――が合わせて拍手している。


「ほとんどが皆、知った仲ですね〜!」


 どうして知った仲の人がこんなにいるんだろう。ミセル様とイグニス、パルフィ、ルーベンとレイドとオリバー、そして私……の七人と、挨拶だけは王宮でした、八人目がここにいる。


「一人、皆さんが知らない可愛い男の子がいます。気になってますよね〜、それでは紹介いたしましょう、ミセル様の弟君、フレディー・ノヴァトニー君です!」

「あのっ、フレディーと申します! よろしくお願いします!」

「はい、拍手〜!」


 パチパチパチ。


 ――って、本当にどうしてこうなったのよ。


 金髪碧眼で聡明そうな顔。そこはミセル様と変わらない。けれど優しげでもあり、なんとなく陛下の愛人のお母様に愛されて育ったんだろうなと思う。


 最近、側妃として愛人だったお母様が王宮入りした。彼もだ。仲よくしなければならないのは義務らしいので、「仲よくなったように思わせる儀式」みたいなものとしてミセル様もこの会がちょうどいいと思われたのだろう。


「では、軽く皆さん自己紹介をしましょうね〜。はい、お兄様からよろしくお願いします。そこから座ってる順でお願いしちゃいましょう!」


 軽いわね、魔法使い。あれから何度か会話はしたものの、苦手意識は変わらない。


「ミセル・ノヴァトニー、兄だね。よろしく」

「イグニス・レカルド、執事です」

「ナタリー・モードゥス、メイドよ」


 もう既にフレディー様と顔合わせは済んでいるので適当だ。イグニスは仕事仲間は侍従長と呼ぶけど、対外的には執事なのよね。

 

「ルーベン・キャンベルだ。ミセル様の弟君に会えるなんて光栄ですよ。話だけは聞いていたんだ。とてもよく似ていますね」

「は、はい! ありがとうございます」

「レイド・マーキュリーです、お会いできて大変嬉しく思います。騎士として卒業後に活躍できるよう励みます」

「はい! ありがとうございます」


 ルーベンは胡散臭くてレイドは爽やかね。

 

「パルフィ・ロマンスチカーナです。思いもよらぬ方にお会いできて嬉しいです。よろしくお願いします」

「はい! お願いします!」


 フレディー様は十歳か……ミセル様にもこんな時期があったはずだけど、私になる前のナタリーの記憶ではこんなに可愛くはなかった。最初に会った時から歪んでいたのだろう。 


「本日皆さんと遊ぼうと思っているのは――ネコ人狼ゲームです! 本来ならゴリラだそうですが、王族や貴族の方ばかりなんで、品よくネコでいきましょう!」


 人狼ゲーム……この会の発案はパルフィだし、彼女が前世の知識でもってきたのね。……ゴリラは知らないけど。

 

「待ちなさいよ、一番胡散臭いあなたの自己紹介がまだじゃない」

「酷いな、ナタリーちゃん。胡散臭くなんてないですよ。ええっと、臨時講師で研究者のオリバーです。みんな、よろしくね〜!」


 何度も会話したせいか、なぜかちゃん付けになってしまった。馴れ馴れしいのよね。私が嫌っていることくらい分かるはずなのに。きっと三百年以上生きているだけあって、どう思われているかなんて興味がないのだろう。


「では、ネコ人狼の説明をしますね〜!」


 ――そうして私たちは、初期は「にゃー」しか話せないネコ人狼で何度も遊んだ。進行を務めるGMはミセル様だった。私がイグニスと占いの館にいる間、詳しくパルフィにやり方を聞いたのかもしれない。


 ゲーム内容としては、カードで役割をまず決める。村ネコたちの中に密猟者が村ネコのふりをして紛れ込んでいて、毎晩密猟者が一匹ずつ殺していく。昼間に三分間の話し合いで「こいつが密猟者だ」と思った者を指差しによって多数決で決めて追放する。


 話し合いでは「にゃー」しか話せず、ジェスチャーも四種類のみ。追放された人は三文字の言葉を二つ言えるようにして去る。夜に一人だけネコか密猟者か分かる占い師や、追放された人がネコか密猟者か分かる霊媒師などの役職もある。


 「にゃー」だけでもそれなりに意志は疎通できるのが面白かった。追放者が言い残す三文字の言葉が「パスタ」と「ヤバイ」だったら、占い師が一人ずつ指差して「にゃー、にゃー、にゃー、パスタヤバイ!」と言えば、パスタヤバイの人が密猟者だなと分かるし、密猟者も占い師のふりをして攪乱することもある。「にゃー」だけでも、首の縦振りや横振りでそれなりに通じる。


 パルフィやフレディー様も堂々と嘘をつけるタイプだ。結構騙された。少しだけ皆と打ち解けて、こんな時間は今まで持ったことがなかったなと居心地の悪さと妙なこそばゆさを感じた。


 もし今、前世に戻ることができたなら……少しは上手くやれるかもしれない。なんて、ちょこっとだけ思ってしまった。


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