【2】「マルケリオンの手記」

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【視野5】「キャリバン・ド・キャリバーン」


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マルケリオンを失ったショックから立ち直れないまま、

西部諸国での戦いから1週間が経とうとしていた。


しばらく、暇を言い渡された私は、

王城内に居場所を求めて、ふらふらとしている。


このままではいけない。


一度、現状の把握が必要だ。


───王国の内状は、かなり危うい。


王国兵団の主戦力は、大きく衰弱している。

虚神教団の襲撃を受ければ、簡単に瓦解がかいする。


これには吉報があって、魔族側アヌローヌ共和国からの救援が、

近々送られる事になっている。


今回の戦いでは、アヌローヌ共和国にも大きな被害あった筈だが、

この配慮には脱帽の限りだ。


───反面、大賢者については辛い。


4人居た大賢者の内。


2名は死亡、

1名は、元より負傷により戦闘不能。


残ったのは、1人では主力魔法を使えない、この私だけ。


実質、完全に機能を失っている。


───救世主として期待されていた召喚者達は、


英雄マコトは、戦死したが、不明瞭な方法で後継者を作った為、一応は戦力にできる。


勇者アキヒロは、西部で何者かに襲われ行方不明、恐らくは死亡している。


聖女ナオは、西部から帰還した後、人知れず姿を消した…逃げたか…もしくは……


こちらも、期待できるとは言えない状況だ。


先の話し合いでは、これらを踏まえた上で、

現状で優先すべき事が、議論された。



───その結果、最優先となったのは、ウドド運行列車のすみやかな復旧だった。


ウドド運行列車の復旧には、大きな意味がある。


そのキーワードは【悪意結界】だ。



~以下説明~【悪意結界】

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悪意結界とは。


詳しい説明の必要がない程に、

文字通りの効能を持つ結界である。


『魔法源泉』に対し悪意を持った者の通過を許さず、

隠蔽の難しい「意思」を感知する事から、非常に優秀な結界。


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~以上説明終わり~


【悪意結界】は、ヘシオーム王国を護る最後の砦。


しかし【悪意結界】には、

その有用性とは裏腹に、ひとつの決定的な弱点がある。


それは、その強度にむらがある事だ。


『魔法源泉』からの魔力供給で、結界を発生させているので、

トマリン不足によって『魔法源泉』の出力を下げている現状では、

【悪意結界】は弱体化し、その強度が低くなっている。


もし、その隙を突かれて、

王国内に侵入されれば、

瞬く間に城下町は制圧され、

王城は包囲される。


そうなれば、もうお終い。


『魔法源泉』は、破壊される。


───敵側はきっと、そのタイミングを狙っているのだ。



そこで早急に求められたのが、くだんのウドド運行列車の復旧だ。



正確には、その貨物車両に、今も取り残されている

大量のトマリンを、いち早く『魔法源泉』に供給する事だ。


ウドド運行列車には、一年分のトマリンが積まれている。


トマリンの供給さえ達成できれば、

この先1年間は【悪意結界】は正常に機能し、

私達は、その期間を体制回復に使える。



───事実上、トマリンの補給が、私達の勝利条件となる。



ヘシオーム国王は、ウドド線襲撃の報告を受けた時から、

トマリン不足による【悪意結界】の弱体化を危惧きぐしていて

ウドド線の復旧工事は、早い段階で着手されていた。


今回、晴れて最優先事項になった事で、

ウドド線の改修工事は早急に進められ……



───結果。



ウドド運行列車は完全に復旧して、支障なく運行を開始した。



今こうしている間にも、

ウドド運行列車は、ウドド線の終点である

ヘシオーム王国へと着実に向かって来ている。



───勝利という名の積荷つみにを載せて。



「本当に…そうなのだろうか……」



私は、何か腑に落ちない気持ちを払拭ふっしょくできない。



「本当に、こうして待ってるだけでいいのかな?」



何か、見落としているような感覚がある。



「これは、不安に思う気持ちの杞憂きゆうだよ。

 そうだ…きっと」



私は、自分に言い聞かせるようにして、そう呟く。

ウドド運行列車は、今日の夕方にもヘシオーム王国の駅に到着する。


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私は、浮き足立つ気持ちを抑える為、

マルケリオンの書斎へと足を運んだ。


室内は、様々な資料が乱雑に散らばり

整理整頓がされていない。


これは几帳面で、理性的な彼の性格に反している。

以前この部屋を訪れた時は、こんな状態では無かった。


この部屋からは、彼とは別の気配がある。


「マルケリオン…どうして」


私の中で醜い感情が、ポタリと落ちた。


「…あ…これ……」


ふと、一箇所だけ、きれいに整頓された場所を見つけ、

その中心に置かれた、分厚い手記に目がいく。


以前、これを脇に抱えたマルケリオンを見た事がある。


「マルケリオン……読ませてもらうよ」


その手記を手に取り、丁寧に開いてみる。


マルケリオンの直筆した手記の内容は、

主に魔法理論に関する考察で構成されていて、

彼の勤勉さが垣間見えた。



しかし、途中から毛色が変わり始める。



手記に、何者かの筆跡が増え始める。

誰かと2人で、何かしらの魔法を研究している様だ。


「なんだこの複雑な階層構造は……

 …こんな馬鹿げた魔法回路、見た事がない」


これは魔位25示を求める魔法の考察、

神格魔法、そう呼ばれる神の領域に踏み込む所業だ。


いったい、何の目的があってこんなものを……


ページを飛ばしながら読み進めると、

印象深い文字に、思わず目がとまった。


「…ウドド運行列車に関する考察?」


マルケリオンは、ウドド線の襲撃に立ち会ったと聞く、

その襲撃に対し、何か考える事があったのか…?



手記の中で彼は、ウドド線を止めた敵の思惑を考察していた。


-・-・【手記】-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


『悪意結界の弱体化を狙っているのなら、

 なぜ列車ごとトマリンを破壊しなかった?』


『目的は、悪意結界の弱体化ではない?』


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「……敵の目的は…悪意結界じゃない?」


マルケリオンは、敵側が【悪意結界】の弱体化を狙っているという、

そもそもの前提にメスを入れている。


私は、答えを求めて手記を読み進める。


-・-・【手記】-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


『ウドド線から盗まれた少量のトマリンは何に使用するのか?』


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盗まれたトマリン?



…確か、そんな報告もあったな

すっかりと忘れていた。



トマリン……魔法源泉の稼働に使用する魔石燃料。



あれは魔石とは名ばかりで、

魔力に還元する事はできないと聞くけど……。


-・-・【手記】-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


『西部諸国での戦いは、私を葬る為の舞台だ』


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「……え!?」


手記を持つ手が震える。


驚愕の事実だ。

マルケリオンは、西部で自分が死ぬ事を予見していたのだ。


-・-・【手記】-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


『所で、キャリバン。人の手記を読むのは、あまり感心しないよ?』


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生きた言葉。


彼が私に宛てたメッセージが、そこにあった。


したためた文の末には、笑顔のイラスト。


「マルケリオン……私、貴方のそういう所が好きだよ」


喉の奥が、じんと痛い。

目の端に温かな感慨が溜まる。


マルケリオンは、自分の死後、

私が自分の手記を読む事を予想してメッセージを残していた。


-・-・【手記】-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


『いいかい、キャリバン。多くは語れないから、端的に書くよ?

 この文を読み終わった後に、冒険者ギルドに行きなさい

 そこに、協力者を用意してある』


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「冒険者ギルド?」


クエストを受注すれば、報酬に応じて依頼をこなす冒険者ギルド。

そこに何を依頼したというんだろう?


-・-・【手記】-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


『そして、直ぐにヘシオーム国王に進言したまえ。

 ウドド運行列車を、王国に到着させてはならない』


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「え?」


ウドド運行列車を、到着させてはならない?

いったい、どんな理由でそんな事を……


しかし、もしそれが事実なら、

それは由々しき事態だ。


すでに列車は、この王国に向かって出発している。


-・-・【手記】-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


『敵側は、トマリンを使って【悪意結界】ごと、

 『魔法源泉』を破壊するつもりだ』


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何という事だ。


私の中にあった「腑に落ちない気持ち」が、具体化してしまった。


マルケリオンの文からは、とある存在が示唆しさされている。



それは、神格魔法使いだ。



【悪意結界】ごと、『魔法源泉』を破壊できる魔法なんて、

この世界には一つしか無い。神格魔法だ。


西部諸国で見た、あの光景が蘇る。


あの、神格魔法『ゼネオゲゲブ』が、今度は王国に放たれるのだ。


-・-・【手記】-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


『さぁ、行きたまえ。愛しのキャリバン。

 大賢者として、私の死を乗り越えて』


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ああ、わかったよ。


後の事は、私に任せて。


愛しのマルケリオン。


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私は、直ぐに宰相とヘシオーム国王に、

マルケリオンの手記に書かれていた内容を伝えた。


彼らが、それをどう捉えるかは、わからない。


私は、私ができる事を、最大限にするだけだ。



もうひとつ。



最後に残った謎がある。


神格魔法【ゼネオゲゲブ】を行使するのは誰なのか?


私には、心当たりがある。


───姿を消した【聖女ナオ】だ。


あの娘は、マルケリオンと親しくしていた。


側から見れば、異性間の付き合いと思える程に。


もしも聖女に、マルケリオンを懐柔して利用する役割があったとしたら、

彼が手記の中で研究していた神格魔法こそが【ゼネオゲゲブ】なのでは?


彼は、それに気付き、彼女の目を盗み、

手記に私へのメッセージを書いたとしたら?


「…あの【聖女ナオ】は……ヨールーや魔女の仲間か!!」


何という事だ。


この仮説が本当なら、あの聖女は、とんだ食わせ物だ!!


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───冒険者ギルド。


王国の城下町に、酒場を併用した拠点を構える、古い組織。

そこへ足を運び、両開きの扉を弾いて中へと入る。


「失礼する。私はキャリバン・ド・キャリバーン

 王国の大賢者で……」


名乗りの途中で言葉に詰まる。


大勢の屈強な男達と、

勝気そうな女達が、

一斉にこちらを見たからだ。


「ようやく来たか…野郎どもぉ!!

 仕事の時間だぁッ!!!」


一斉に沸き立つギルドの冒険者達。


私は、その状況に唖然とした。


「マルケリオンの旦那から話は聞いている

 俺たちに任せておけ、きっと依頼は達成する」


「彼は……いったいどんな依頼を?」


「何だぁ?知らねぇのか?

 俺たちの依頼は……」




ウドド運行列車は、ヘシオーム王国へ向かって来ている。

勝利という名の積荷つみにを載せて。


ただし、それは、私たちの勝利じゃなかった。


でも、それはきっと奪い返せる。



「俺たちの依頼は、ウドド運行列車をぶっ壊す事だ!!!」

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