第5話

「うまかー!」

智は矢野の作った料理に舌鼓を打っている。

ダイニングテーブルの上には肉じゃが、揚げ出し豆腐、ワカメの味噌汁、ご飯が湯気を立てていた。

矢野は7歳で祖母を亡くして以来、父と二人暮らしだったため、料理は出来た。母親は2歳の時に死んでいる。

食事の後は今日の授業のノートを智に見せていた。

智は数学が苦手なので、矢野が説明していた。

「俺は大学行かないから、高校の間だけ乗り切れればいい」

矢野はキッパリ言った。

「何で?キャンパスライフを満喫できるぞ」

「何か…… 時間がもったいない。それより演技をもっと極めたい。あすかでもっと練習したいし」

「ホント演劇バカだよな。お前って。次のオーディションは決まったのか?」

「来年の大河で柳沢吉里を演る事になった」

矢野は少し照れ臭いのか笑顔を見せた。

「柳沢吉里って柳沢吉保の息子か?」

矢野は頷いた。

「大河で主役の子供か⁈そっちの方がよっぽど凄かー!」

智はすっかり感心している。

「俺なんかさ、また学園もの。女に惚れられ

て、あれこれ五角関係あって、最後はヒロインと結ばれて終わり。薄っぺら!」

「でも主役だろう?俺なんて主役なんて夢のまた夢だからな…… 」

矢野は遠くを見るような目をした。

「でも一色、お前は10年後凄い役者になっているさ。でも俺は消えているかもな…… 」

「消えるわけないだろ。お前を誰だと思っているんだ?西野智だぞ。お前は薄っぺらくなんかないよ」

矢野は力強く言った。

「どんな役でも一生懸命演れば必ずお前の財産になる」

「学園モノでもか?」

「通行人でもさ。その人の立場によって歩き方も全部違うんだ」

智はすっかりノートを取る手が止まっている。

「どうした?」

矢野が首を傾げる。

「通行人の事なんか考えた事もなかった」

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