アクター(番外編)

水島あおい

番外編

第1話

都内の高級バーのカウンターで、須田絵里香と矢野一色はグラスを傾けていた。

絵里香は最愛の夫を亡くしたばかりだった。

左手の薬指の結婚指輪を見つめながら

夫との日々を思い出していた……


「今日から須田絵里香さんのマネージャーになりました伊庭達彦と申します。宜しくお願いします」

童顔でやや小柄の青年が、絵里香の前に立っていた。

絵里香はソッポを向いていた。

デビューして2年、マネージャーはもう6人変わっていた。伊庭は7人目だった。

「こちらを向いて下さい。人が話し掛けているのに、その態度は何ですか」

物静かだが、重みのあるトーンの声に絵里香は少し驚いて顔を向けた。

漸く伊庭の顔を見つめる。

かなり厳しい眼差しがそこにあった。

「この世界は礼儀が一番大事なのです。嫌われたらやってはいけません」

「マネージャーのくせに、随分と偉そうじゃない」

絵里香は不機嫌である。

「気に入らないみたいですね。ですがそれを含めての仕事です」

伊庭は平然としていた。

伊庭は最初から他のマネージャーとは違っていた。

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