第8話:仲間だった事がある
それから俺はポール達――王都警備隊に加勢して、森にあふれていた魔物達を片付けた。
「ふぅ……。どうなる事かと思ったが、なんとかなったな。君のおかげだ。礼を言う」
王都警備隊の面々が代わる代わる握手を求めてきた。もちろん、ポールも。
俺はそれに応じる。
するとポールは手を握ったまま含みのある笑顔を浮かべた。
「……もしかしてとは思うが。君、我々になりすましてこの森から人を追い払ったのはこのためだったのか?」
「あー……、まぁ、どうなんでしょうね、ハハハ……」
本当の事は言えないので曖昧に笑って誤魔化す。
真面目に説明しようとしたら『俺、実は魔王を倒した勇者なんですが』と前置きしなきゃいけないと思うんだ。
自称勇者。それってかなり痛いよな……?
だって魔王、いるもん。復活の噂が広まり始めた段階だもん。
なぜか時が戻ったんです、って説明するとしても、口ではなんとでも言えるからな。
きっと誰も信じない。
俺の愛想笑いにつられてかポールもヘラッと笑った。他の奴らもハッハッハと笑い、謎の笑い空間が生まれる。
「いやぁ参ったなこりゃ。ハッハッハ」
「ハハハ……え?」
がちゃん。
俺の手に枷が嵌められた。
「え!? 何!?」
手元を二度見三度見して、ポールの顔を見る。
ポールはきまりの悪そうな表情で「悪いな。君が悪人だとは思わないのだが……どこから魔物襲撃の情報を得たのか聞かなければならないし、それに、その警備隊の制服。どうも本物にしか見えない。どこから入手したのか教えてくれるね?」と言った。
「そんな! 俺、容疑者ってことですか!?」
「そこまでは言ってない。まあ、参考人ってとこだな。安心しろ。食事は一日に三回出る」
「やったーそれなら安心……って! ガッツリ禁固されるって事じゃないですか! 無理だよそんなの! 俺、急ぎの用があるし」
「うむ。みんな、捕まった時はそう言うんだ。やれ親が病気で死にそうだの、子どもが家で腹を空かせているだの。それぞれ事情はあるだろうが、何人たりとも――たとえ王様でも、やってしまった過去を帳消しにはできないんだよ。分かるね?」
俺、過去を帳消しにされたばかりなんだけど……。
とは言えず、王都を守る意識が高すぎなポールに内心舌を巻く。
(エリアル殿、やっちまいましたなぁ。……しかし、ポール殿が生存ルートで本来の職務を生き生きとこなしているのは嬉しい事ですな)
(……ああ、そうだな)
確かに嬉しいよ。
ポールが生きていて、本来の職務で活躍しているのは嬉しい。
その職務中に、魔物災害を事前に知り警備隊の制服(本物)を着て住民を扇動する奴を見つけたら逮捕するしかない。それは、分かる。
あーあ。これを使って森から人を追い払う作戦、思い付いた時は名案だと思ったんだけどなぁ……。
見通しが甘かった。まさかこんなに早く本物が駆け付けてくるなんて。
(まぁ、エリアル殿はどちらかというと脳筋寄りで、腹芸が苦手ですからな)
(脳筋……? それってどういう――)
脳と筋。
脳と、筋肉……?
脳が筋肉。
(おまっ! 俺の事そんなふうに思ってたのかよ! 誰が脳ミソ筋肉だ!)
ヒャッヒャッヒャと笑うカズオの声を脳内に響かせながら警備隊に肩を押される。
「さぁ、行こうか」
街道には馬が待機していて、そこに向かうよう促された。
きっと王都についたら詰問の前に装備品の没収と身体検査がある。
そうしたらマジックバッグを調べられて、警備隊の制服どころか中のアイテムの出どころも聞かれるだろう。
空飛ぶ絨毯、飛竜の笛、魔剣――どれも魔女由来の一点もので、ものによってはよその国の宝物庫に保管されていたアイテムもある。
魔王を倒すまでの間、勇者に貸し出そう――そういう名目で使わせてもらっていた、期限付きの代物。
とてもじゃないが見つかる訳にはいかない。下手をしたら国際問題になってしまう。
よし逃げよう。
「ふんっ」
俺は腕に力を込め、手枷の鎖を引きちぎった。
「はっ……?」
警備隊がぎょっと目を剥く。
「馬鹿な! 魔法を吸収する素材を織り込んである魔鋼だぞ!? なんで千切れるんだ!?」
筋肉の力だよ!
(ほら脳筋でござろう)
(うるせぇ)
ザッと俺から距離を取る警備隊の間をすり抜け、脱兎のごとく駆け出す。
「ま、待て!!」
「ごめんなさーい! 捕まりたくないんで逃げまーす!!」
「舐めてんのかコラァ!? は、速いな!?」
走りながら警備隊の帽子を取り、上着を脱ぎ、前転しつつズボンを脱いだ。
安心して下さい。下に自分のズボンを履いてますよ。
「なんだアイツ……!? 走りながら脱いで……どういう曲芸だ」
「はい! これ返すよ! ありがとなポール! 助かったよ! 元気でな!」
雑に畳んだ制服一式を後ろにぽーんと放り投げる。
王都警備隊のポールと、近郊の村に住む俺。
きっと、もう二度と会う事は無いだろう。
だから前回のお礼を言っておきたかった。
「お、俺!?」
制服を受け取ったポールは目を白黒させ、仲間が胡乱な目を向ける。
「ポール、お前……」
「アイツの仲間だったのか?」
「ち、違う!! そんなはずがないだろう!!」
そうだ。
そんなはずない。
俺とポールは、もう仲間じゃないんだ。
いや。仲間だった事がない、だな。今の世界線ではそうだ。
逃げながら、ちょっと悲しくなった。
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