実の奪い合い7
「はっ!」
「な、なんだこい……ぐわっ!」
後ろから迫ったレイが男の一人を鞘付きの剣で殴りつける。
ほとんど反応もできずに頭を強く殴られた男はそのまま気を失って倒れる。
「あなたたちは……」
「手助けします!」
お仕置き棒の破壊力はこの時でも健在であった。
剣と違って刃の当てる向きなんかを考える必要がない鉄鞭は多少乱雑に振り回しても高い破壊力を持つ。
現段階でもカスミの能力は高いようで男たちのことを圧倒していた。
多分助けなんていらなかった感じはあるもののカスミに恩を売っておく機会でもあるのでマサキもしっかり一人ぐらい倒しておく。
「卑怯者が!」
「女性一人に襲いかかる奴に言われたくないわ!」
「ぐほっ!」
マサキが最後の一人を鞘付きの剣で殴り飛ばした。
戦い始めてから参加したのだし挟み撃ちするような形になったので卑怯と言われればあまり否定できない。
ただし相手だって実をめぐって醜い争いを繰り広げ、女性一人に襲いかかっているのだ。
自分だけ卑怯などとは言われたくない。
「それをどうするつもりですか?」
男が持っていた実の一つがマサキの足元に転がってきた。
カスミは実を拾い上げたマサキのことをじっと見ている。
助けてくれたので敵意こそないがマサキの判断一つで簡単にお仕置き棒の矛先はマサキに向けられる。
「燃やします」
「燃やす……?」
マサキは木の根元に真っ赤な実を投げ捨てる。
カスミは思いがけない返事に驚いた表情をしている。
まさか燃やすだなんて言われると思いもしていない。
「俺たちはこの実を狙っていました。ただし……別の目的でです」
「それが燃やすためだというの?」
ゲートダンジョンの中で得られるものをわざわざ燃やすために来たなんて信じられない。
「この実は覚醒者の能力を強化してくれる力があります」
「じゃあ……」
それなら余計燃やす理由が分からない。
覚醒者の能力を上げてくれるなんてものなら誰だって欲しい。
「その代わり毒があるんです」
「毒?」
「そうです。遅効性でじわじわと苦しんで死に至る強い毒です」
「あなたはどうしてそれを知っているの?」
覚醒者の能力を上げてくれる代わりに強い毒がある実のことなど聞いたことがない。
それなのにどうしてマサキはそのことを知っているのかとカスミは疑問に思った。
「俺には簡易的な鑑定スキルがあるんです」
そうなんですか!? という顔をレイが後ろでしている。
当然ウソである。
しかし回帰前の記憶があるから知っていますなんて伝えられるはずがない。
ただ他の場所で実が出現することはないので過去に出ましたなんてウソもカスミに対してはすぐにバレてしまう。
確認しようもなく、ある程度の説得力がある説明として鑑定スキルがあることにした。
スキルは他の人にはわからない。
鑑定スキルで見た結果に実に毒があると分かったということにしておけばカスミには確かめようがないので信じるしかないのだ。
「ううむ……それで燃やして無くしてしまうのですね?」
カスミは悩ましげに眉を寄せた。
「……燃やしてしまいましょうか」
ただ悩んだのは短い時間で、すぐにマサキの考えに賛成することにした。
仮にウソだとする。
ウソなのでカスミが燃やすことにも反対したとしたら実は残る。
きっとまた争いが起こるだろう。
今回は小規模で済んだけれどもっと大きな争いになったらカスミにも止められなくなってしまう。
そしてウソじゃなく本当に毒があった時後々さらに問題になってしまう。
毒があるとか燃やすとかウソじゃないのならなんの問題もない。
燃えてなくなってしまえば毒だろうがなくなるし争いも起きない。
マサキがウソをついていたとしても燃やしてしまえばもう実も手に入れられない。
カスミとしては燃やしてしまうことに反対すべき点などないのである。
手に入れられるものがないのに燃やしてしまおうなんて考えるはずもない。
本当の話ならばマサキは正義感があるということにもなるので燃やすことに賛成した。
「それでは本当に燃やしてしまいますよ?」
「構いません」
男たちが持っていた赤い実を木の根元に集めた。
カスミがパチンと指を鳴らすと手の上に拳大の炎が燃え上がる。
「では」
マサキが頷くとカスミが木に火を放つ。
「あまり煙を吸い込むと危ないかもしれないので下がりましょう」
魔法で生み出された炎は魔力が含まれた木を燃やし尽くす。
もう少し熟した青い実を確保したいところであったが、最初の木である程度の数は確保している。
カスミを敵に回すことはないしここは大人しく木を処理しておく。
「ともあれご協力ありがとうございました。紹介が遅れましたね、私は三上佳純と申します」
「いえいえ、こちらこそ。俺は宇佐美将暉、こちら菅田麗です」
「どこかでまた会うことがありましたらその時は。まだ他にも木があるかもしれないので私は見回りしようと思います。お二人はお気をつけてください」
「分かりました」
実が燃えるのを確認してカスミは立ち去る。
「鑑定スキルあるんですか?」
「いーやないよ」
「えっ、ウソなんですか?」
「知ってましたじゃ納得しそうになかったからな」
「ふふ、マサキさんならあるかなと思ったんですけどね」
「そんな万能なものじゃないさ」
ひとまずこれで二本処理することができた。
残りの木は後一本である。
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