神様見ています
「うん、いい感じだな」
「どうですか?」
レイがマサキが見ている画面を覗き込む。
「思ってたよりも反響あったみたいだ」
マサキが見ているのは投稿した動画の管理者ページであった。
どれぐらい視聴数があるのかとかデータが見られる。
動画の初速はかなり鈍かった。
このまま埋もれていくのかもしれないなと思っていたらネットの掲示板のようなところで面白半分で取り上げられたらしく一気に視聴数が伸びた。
もっと見られないことも考えていたので反応としては上々。
ウソやフェイク動画扱いされることも予想していた。
本物の動画なのにフェイクの箇所を探し出しているやつもいる。
フェイクというよりもそれはマサキの編集の腕前によるもののせいであるところもあった。
「ほら、レイレイ可愛い、レイレイ綺麗、レイレイの顔が見てみたい……」
「な、なんですかこれ!」
動画に対する批判的な反応も多いがレイに対するコメントも多い。
レイに対するコメントはおおむね良いもので時々マサキとのことでカップルは消滅しろだとかリア充爆発しろだとかはあった。
ただそれだってレイに向けてというよりもマサキに向けてのものである。
視聴数に比べてコメントが多いのも面白半分なのだろう。
マサキはざっくりとコメントを見ていく。
『投げ銭はまだできないのですか?』
その中であるコメントが目についた。
普通のコメントにも見えるがこのコメントに対してコメントしている人もいる。
こんなウソ動画に金払うなんて信じられないとか単なる冷やかしだろうなんて言っているコメントだ。
マサキが投稿しているサイトはフェネストラという何年か前に出来た比較的新しい動画投稿サイトであった。
他の既存の動画投稿サイトに比べて優れたところもないのに一部の人に支持されて今もこのサイトがある理由は一つあった。
それはモンスターの動画が削除されないというところにあった。
ゲートダンジョンが攻略されずにモンスターが外に出てくるブレイクを起こすことがある。
そうなると外に出てきたモンスターは通常の機材でも撮影することができる。
過去ゲートダンジョンが出始めた頃から今まで色々なところでゲートダンジョンブレイクは起きている。
色々な人がそれを動画に撮っているのだが既存のサイトに投稿するには過激な内容であり、国などの要請からすぐそうした動画は消されてしまう。
けれどこのフェネストラにあるモンスター関連の動画は消されなかった。
どこの誰が運営しているかも分からない動画投稿サイトであり国などの要請にも一切応じないのだ。
一部の国では接続できないように遮断してしまっている国もあるが多くの国では現状放置されている。
他の過激な行為に関してはしっかりと管理がなされてあるのになぜかモンスター関連のものだけは絶対に手を出さないのである。
けれどマサキだけは知っている。
「見てるんだな」
フェネストラというサイトは神様が見ているサイトなのであるということを。
そしてコメントのネームには見覚えがあった。
リストには神様の名前が書いてあるのだが、その神様の名前の下に括弧書きで何か変なものも書いてあった。
最初は分からなかったのだがいくつか見ているうちに気がついたのだ。
それは神様たちがコメントを残す時に使っているユーザーネームであったのだ。
レイを推している神様のユーザーネームは“清く正しい者”。
何もしちゃくれなかった神様がよく言うとは思うが、どんな名前を付けようが自由なので文句は心に留めておく。
予想通りレイを推している神様はレイのことを見ているのだ。
そしてコメントを見る限り回帰前に言われたようにやはりダンジョンの中は動画などに残さないと見られないらしい。
きっとマサキのことも分かっていないだろうと思う。
「だけどまだ投げ銭は出来ないんなよなぁ」
投稿し始めてすぐに動画の収益化はできない。
いくつか動画を投稿したり視聴数とかそんなものが一定基準に達さないとそうした投げ銭などの設定はできないのだ。
だがこれで確信できた。
神様は見ている。
そして神様に見せることによって悲惨な終わりは変えられるのかもしれないということにも希望が出てきた。
「投げ銭解放のためにも何本か投稿しなきゃいけないな」
その頃には動画がウソか、ウソじゃないかの意見も逆転しているだろうとマサキは思う。
「ま、またやるん……ですよね」
「頼む。レイがいなきゃダメなんだ」
マサキはサッとレイの手を取って目を見つめる。
レイがいなきゃダメ。
神様が見たいのはレイであってマサキではない。
神様に見せたいのはレイの姿なのである。
「う……あぅ」
ギュッと握られた手を見てレイが顔を赤くする。
「まあ……マサキさんだけじゃ不安ですし……私に出来ることならやります」
どの道レイもここで抜けようとは考えていない。
「ただもうちょっとセリフとかは事前に相談してもらえると嬉しいかな」
「分かった。今後はちゃんと話し合っていこう」
事前に相談なんかしたら絶対に拒否されると思った。
なので現場に行ってから流れでやってもらったのだ。
もう一回やってしまったのでレイもやろうとしていることは分かったはずだしやってしまったという心理もあるはず。
前回言ってもらったこと以上のことを提案しない限りはレイも受け入れてくれるはずだとマサキは踏んでいる。
「あと、あれは……どういう意図があるんですか?」
レイはテーブルの上に置かれている仮面を指差した。
「顔を隠すため……」
「そうじゃなくてもうちょっと可愛いやつとか……」
「あれは俺の趣味だ」
レイに似合いそう。
そうした理由ももちろんあるのだがある程度マサキの趣味も入っている。
木製で丈夫、口元が空いていて呼吸が苦しくないなどの複数の条件にも合っていたことも当然にある。
「なんか別のがいいか?」
「マサキさんの趣味……似合ってますか?」
「ああ、似合ってるよ」
「じゃあ、これでいいです」
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